アメリカン・ヒストリーX(1998)




「憎しみは君を幸せにしたかい?」


こんなにも問題提起したラストがあるでしょうか
この問いに私たちはどう答えたらいいのでしょう

もう20年近く前の作品で、アメリカの人種差別に
焦点を当てた内容ですが全く古さを感じません
それどころか同じ問題が今ではナショナリスト化して
最近の日本の動向についても考えさせられます

他人種や民族を排除することで、アイデンティティを保とうとする
社会への不平や不満を、いじめや暴力という形で怒りの捌け口にする
そんな若者が増えているような気がします





黒人殺しの罪で3年の刑期を終え帰ってきたデレク(エドワード・ノートン
かって彼は白人至上主義のネオナチのグループのリーダー的存在でした
デレクが仲間に伝える言葉は、トランプ氏の言ってることと全く同じ
人種差別と、外国人労働者の排斥を訴える

ネオナチの集団は、まだ若くアマチュア臭いところがまた怖い
程度や加減を知らず、暴力や破壊をもて遊ぶのです
ハンディビデオと銃を持ったデブの友人もイヤです





刑務所内でも白人グループと黒人グループに分かれていました
しかし白人たちがメキシコ人の麻薬ディーラーと
刑務所内でビジネスをしていると知ったデレクは
白人グループと対立してしまい
そのことで暴力を受けレイプされることになります

デレクが同じクリーニング担当の黒人と仲良くなるシーンは印象的
彼がこの物語のキーマンだと思います
彼がいなければデレクは人種差別の考えを改めることも
更正することもできなかったでしょう

「謎が解けた」「もうブラザーをいじめるなよ」という別れのシーンもいい
短くあっけないからいい、押し付けがましくない





刑務所から出たデレクは別人のように温和で家族思いになっていました
そして、弟にもネオナチの友人と会うのはやめ
先生がいかに良い先生かを教え、学校の課題をするように勧めます

デレクはもともと白人至上主義でも、人種差別をする人間でもなかったのです
頭が良く、黒人でも優れた人は尊敬し、黒人文学を愛読するような少年でした
そんなデレクに「黒人の洗脳」と教え込んだのは父親だったのです
素直だったデレクは尊敬する父親の言葉を信じただけなのです


シャワーを浴びながら、弟と遊ぶ無垢な幼年期を思い出し
鏡に映る胸のハーケンクロイツを自ら手で覆う場面が切ない





人種差別をテーマにした映画はたくさんあるけれど
差別される側ではなく、差別する側が
なぜ人種差別するようになったのかという点から描いているのが
この作品の凄さ

デレクは復讐を我慢できるのでしょか
抗争を止めるのでしょうか
それとも、彼もまた殺されてしまうのでしょうか


エドワード・ノートンのギラギラとした狂気には引き込まれます
穏やかなときも素敵でしたし、裸体も目の保養になりました(笑)

メッセージ性だけでなく、映画としての面白さも十分にあります
これは「お気に入り」です



【解説】allcinemaより
ファイト・クラブ」のエドワード・ノートン主演の衝撃作。白人至上主義の極右組織“ネオナチ”のメンバーとなったある兄弟の悲劇を通し、現代アメリカの暗部を衝いてゆく。共演にエドワード・ファーロング。父を黒人に殺された恨みから、白人至上主義グループのメンバーとなったデレク。やがて殺人事件で刑務所送りになった彼が出所してきた時、デレクは自分を崇拝する弟がメンバーとなっている事実を知る。