ストレンジャー・ザン・パラダイス(1984)

 
「なんだその曲は おれの趣味じゃない」
「スクリーミン・ジェイ・ホーキンスよ 文句ある?」
 
 
当時のジム・ジャームッシュはお金がなさ過ぎて
撮影現場を訪れては余ったフィルムをもらい
やっと本作を撮り上げたそう
そんななにも無いのが、この映画のいいところ
 
ドラマもない、恋愛もない、お金もない
登場人物も景色も荒涼としていて
シ-クエンスのつなぎ方も無技巧
 
だけど、粋で、お洒落で
ユ-モラスな味わいがあります
 
 
NYでギャンブラーで食いつないでいたウィリー(ジョン・ルーリー
ブダペストから来た従妹のエヴァエスター・バリント)を
10日預かってくれと叔母から頼まれます
 
年頃の坊やが異性のイトコと、どう付き合うかって難しいですよね(笑)
しかもエヴァはいかにもファッションも表情もハンガリー
名前を変え故郷を捨たウィリーは、彼女と過ごすことを嫌がります
 
 
 
一方のウィリーの相棒エディ(リチャード・エドソン)はやさしい性格
三人は徐々に打ち解け、エヴァが叔母の住むクリーブランドに向かう日
ウィリーはエヴァにドレスをプレゼントします
 
そのドレスを路上で脱ぎゴミ箱に捨てるエヴァ
彼女には自分のハンガリースタイルを変える気持ちはないのです
 
 
そして1年後、ポーカーで儲けたウィリーとエディは
クリーブランドエヴァに会いに行くことにします
エヴァはホットドック店で働き、そして恋人もいました
 
フロリダに行こうとエヴァを連れ出したふたり
でもフロリダでウィリーとエディはドッグレースや競馬に出かけてしまい
ホテルに置いてけぼりのエヴァは不機嫌
スローハットを買って海辺を散歩します
そして麻薬の売人と間違われ大金を手にしてしまいます
 
 
ウィリーはカッコつけで、エヴァに対する態度も冷たいものでしたが
本当は故郷が恋しくてしょうがないのです
 
だからエヴァにドレスをプレゼントし
クリーブランドまで会いに行き
そしてエヴァにかこつけ勢いで
ハンガリーに帰ってしまったのです
 
 
 
本作ではスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの代表曲
「I Put A Spell On You !! 」(アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー)
という1956年にリリース され
その後多くのアーティストにカバーされた曲が使われています
この曲がこの作品のもとになったのではないかと思います
 
 
 
BooDoo Swamp Boogie(スワンプ・ブギ)の「I Put a Spell on You」は
「私は貴方に魔法をかける」という意味で
去っていったガールフレンドに「帰ってきて」という願いを込めた歌
(でも、怪奇なパーフォマンスが原因か即刻放送禁止になったとか)
 
この曲をホーキンスの故郷であるクリーブランドでDJをしていた
ラン・フリードが取り上げたところ大ヒット
フリードはロックンロールの名付け親といわれる有名人で
クリーブランドがロックンロールの故郷なのだそうです
エヴァが住んでいるのもクリーブランド
 
 
作中で小津映画を見に行こうと言ったり
レース中に小津作品を連呼したり
ジム・ジャームッシュがいかに小津信者なのかもわかります(笑)
 
 
 
結局ウィリーはひとりブダべストに向かい
エディはその飛行機を見送り
エヴァはホテルに戻り、ひとりほくそ笑む
 
ハッピーエンドでもなく、バッドエンドでもない
ただ、3人それぞれの旅が終わったのです
 
 
なにもないけれど、また見たくなる傑作
それは物や、音や、煩わしい人間関係に溢れた現実から
たまには逃避する場所が必要だからかも知れません
 

 
【解説】allcinemaより
ジム・ジャームッシュ長編映画第1作。ウィリーはニューヨークに10年住んでいる。ハンガリー出身で本名はベラ・モルナー。ある日彼のもとに、クリーブランドに住むおばさんから、16歳のいとこエヴァアメリカでの新しい生活を始めるべくブタペストから来るが、自分が急に入院することになってしまった為、10日間ほど預かってほしいという電話がかかってくる……。アクションもスペクタクルにも無縁で、モノクローム、主人公は3人の若者、音楽は弦楽四重奏と3拍子のロックンロール。なのに、ワンシーン・ワンカットに、奇妙なおかしさと、そこはかとない頽廃が感じられる、ジャームッシュの原点とも言える作品。