ブエノスアイレス(1997)

 
「ウィンの手が早く治らないよう願った 幸せだったから」
                                                                            
 
素晴らしい映画でした
 
私の中で、ウォン・カーウァイ
パトリス・ルコントと並んだ瞬間
 
                                          
クリストファー・ドイルのカメラにはいつも度肝を抜かれます
完璧に完成されていて、一瞬として凡庸なショットはありません
それなのにほとんど作為を感じさせない
 
音楽もいいですね、最初の滝のところで流れるククルクク・パロマ
トークトゥハー」(2002)でも使われていましたが、好きな曲です
 
 
ファイ(トニー・レオン)とウィン(レスリー・チャン)は
別れては付き合うを繰り返す恋人同士
やり直しするためのアルゼンチン旅行でも喧嘩してしまい
ウィンは旅費を使い切りどこかへ消えてしまいました
 
旅費を稼ぐためバーのドアマンとして働くファイ
そこに白人のパトロンとともにやってきたウィン
ファイを挑発するように白人とキスをする
 
そして性懲りもなくファイのアパートにやってきて
「会いたかった」と甘えてくるのです
 
 
 
ファイに旅費がないことを知り
「売って金にしろ」と高級時計を渡します
しかしその時計が原因で「お仕置き」されたウィンは
両手を大けがしてファイのもとに転がりこんできました
 
自分が望めば「やり直せる」ことがわかっているウィン
 
ファイはウィンの身体を拭き、料理を食べさせ
煙草が欲しいと言われれば真夜中でも買いに行く
どんな我儘も叶えてあげるのです
 
まるでウィンに振り回されているようです
でもこうして尽くす時こそが、ファイの至福の時なのです
 
 
ファイの2番目の職場は中華料理店でした
そこで皿洗いとして働くチャン(チャン・チェン)はファイの声が好きでした
彼は声でその人の感情を読み取ることができました
電話しているファイの受話器を一瞬取ったことから
ウィンはファイの浮気を疑い、嫉妬し、癇癪をおこすようになります
 
 
 
やがてファイの束縛にも、支配にも耐えられなくなったウィン
ファイが抱いてくれないという欲求不満もあるのでしょう
外出が多くなり、喧嘩も絶えなくなる
そしてまたどこかに行ってしまったのです
 
でもこの別れは、いままでの別れとは違いました
ファイの中で何かが壊れて、終わったのです
 
 
「悲しみを打ち明けてくれたら、そのテープを灯台に捨ててくるから」
旅立つチャンはファイに録音機を渡します
ここで泣いてしまうファイの姿は涙を誘う
 
それはウィンへの愛を断ち切る決意をした瞬間
でもそれが出来たのは、チャンがいたから
 
 


ウィンはファイの部屋に戻り
ファイの残した毛布に包まり咽び泣いていました
ウィンもまたファイがもう戻らないことに気が付いていたのです
 
 
奉仕系SMのゲイカップルって、実際にはわかりませんが
こんな別れ方をしてしまうのではないかと思います
悦ばせようとしたことがいつか束縛になり
愛し合ってるのに、お互い傷つけあってしまう
 
そんな切ない愛の形、別れ、そして孤独を
ウォン・カーウァイは、激しく、美しく
芸術的に描くことに見事成功しました
 
 
ファイは台北でチャンを探すことでしょう
そして、チャンもファイを
 
「俺は確信した 会いたいと思えば いつでもどこでも会えることを」
 
 

別れは新しい出会いのはじまり
 
お気に入りです
 

【解説】allcinemaより
香港映画界の鬼才、ウォン・カーウァイ監督が男同士の切ない愛を描いた恋愛ドラマ。惹かれ合いながらも、傷つける事しかできない男と男の刹那的な愛を綴ってゆく。徹底的に突き放した視点で彼等を捉える事で、より深い感情の揺れ動きを捉える手腕は流石。またアルゼンチンの雄大な自然美や、アストル・ピアソラの切ないメロディが映画を効果的に彩る。トニー・レオンレスリーチャン共演。南米アルゼンチンへとやってきた、ウィンとファイ。幾度となく別れを繰り返してきた2人は、ここでも些細な諍いを繰り返し別れてしまう。そして、ファイが働くタンゴ・バーで再会を果たすが...。