スローターハウス5(1972)

 
スローターハウス5」とは、米国兵の主人公が捕虜となった
ドイツのドレスデンにある代用監獄で「第5屠殺場」のこと
そこで、2万5000人とも15万人とも言われる一般市民が死亡した
無差別爆撃「ドレスデン爆撃」を体験することになります
 
 
原作者はカート・ヴォネガット
アメリカ文学界で、最も語られることが多い作家ということで
そのヴォネガット本人が「小説よりよくできている」と
絶賛したという本作
 
評論家からの評価も高いですね
テリー・ギリアムの不思議テイストや人を食ったラストも
この作品の影響をうけているのではないでしょうか
玄人向けな映画だと思います
 
 
「メッセージ」(2016)でもそうでしたが
スローターハウス5」でも時間を因果関係としてではなく
その始まりから終わりまでを同時的認識としてとらえています
 
それを主人公の記憶の羅列と
夢だけで物語っていく
 
そして、私たちが常識としている「時間」と「自由意志」を否定し
考えることさえ放棄しています
 
いやなことは見ないようにして
楽しいことだけに集中する
 
それ以外に(ドレスデン爆撃の悲惨を乗り越えて)
生きる方法があるのかと問いかけているのでしょうか
 
 
 
難解な内容ではありますが
苦闘のあとを感じさせることはなく
それどころか、サラリとしていてユーモラス
 
ジョージ・ロイ・ヒル監督の器用さと
知性と娯楽のバランスの良さには感心してしまいます
(トラルファマドール星のデザインはイマイチですが 笑)
 
 
こういうカオス的な作品、私は好きです
ただほかのジョージ・ロイ・ヒル作品に比べ
登場人物に魅力がなかったのが残念
 
そこが「ガープの世界」にかなわなかったのかな
 

神よ願わくばわたしに
変えることのできない物事を
受けいれる落ち着きと
変えることのできる物事を
変える勇気と
その違いを常に見分ける知恵とを
さずけたまえ
 
ビリー・ピルグリムが変えることのできないもののなかには
過去と、現在と、そして未来がある。
 

 
【解説】allcinemaより
K・ヴォネガット・Jrの同名SF小説の映画化作品。実業家として成功した老境の男ビリー・ピルグリム。彼は自分の回想録を書こうとする。第二次大戦の捕虜収容所、飛行機事故の大惨事、彼自身の暗殺など、ビリーの、時間と空間を超越した体験を幻想的に描くが、それを端的に描出したカットの切り替わりの巧みさが素晴らしい。奇異な原作を映画化したジョージ・ロイ・ヒル作品としては、ジャンルは違えど、後の「ガープの世界」に共通するテイストがある。