ギャンブラー(1971)


 
 
 
タイトルから「シンシナティ・キッド」や「ハスラー」のような
博打打ちの作品かと思いましたが、違いました
原題は「McCABE & MRS. MILLER」
ただ、冒頭にポーカーのシーンがあっただけ(笑)
 
本物の雪や雨、村人たちのリアルな描写は
芸術系好み寄りのポスト西部劇とでもいいましょうか
そこには説明的なセリフもないし、正義の味方もいません
 
そしてレナード・コーエンの歌が
劇中歌という枠を超えた存在感で使われムードを盛り上げます
 
 
鉱山町で働く男たち相手に女を揃え
酒場で一儲けしようと考えます
そこに、どこで噂をかぎつけたのかミラーという女が現れ
マッケイブに娼館を共同経営しようと持ち込みます
 
マッケイブは一見切れ者のようですが、詰めに甘く計算に弱い
しかし先を読み、何事も金と準備と考えるミラーのおかげで
娼館は成功し、繁盛します
 
そこに大手不動産業のH&S鉱業の使いが
マッケイブの持つ経営権を買い取りたいとやってきました
しかし調子に乗ったマッケイブはそれを断り
自滅の道を選ぶことになってしまいます
 
ミラーに惚れてしまうものの、お金を払ってしか彼女にトライできない
そのうえ殺し屋に怯える毎日、ウジウジで情け無い男
でもその間抜けなダメっぷりに、可愛げがあるのがおもしろい
非情の殺し屋とも、思いがけず対等に戦うことになります
 
 
 
 
ただ強がり、見栄を張りたかっただけ
大金を掴みたかった、好きな女の気を引きたかった
それだけだったのに、本当は大きなものを求めたはずではなかったのに
哀れな姿で雪に埋もれ、凍え死ぬ
 
金も、未来も、ない
女の行きつく先は売女
男の行きつく先は死
 
だけど、その死にざまには美しさすら感じます
 
ペキンパーとは違う
アルドリッチでもない
これがアルトマンの「滅びの美学」
 
クールなヴィルモス・スィグモンドのカメラがたまらない
これも何度も見れる傑作のひとつに間違いありません
 
 
 
 

 
【解説】allcinemaより
カメラはV・ジグモンド。あのモヤったような独特の画調に、L・コーエンのもの悲しい歌声が被さって展開する、開拓期のアメリカへのR・アルトマン流挽歌だ。いいとか悪いとかを抜きにして、この作品を好きになってしまう人はきっと多いはず。「ボウイ&キーチ」なども同様だが、何ともいえない詩情がある。美しくも気高くもないが、何かアメリカそのものに包まれる感触と言ったらよいか。一人の賭博師が雪深い北西部の鉱山町に流れて、坑夫相手の女郎屋の建設を始める。そこへ女たちを引き連れたミラー夫人(クリスティー)が共同経営の話を持ちかける。海千山千の夫人に彼マケイブ(ビーティ)は気圧されて、その提案をのむ。店には風呂もついてシックな雰囲気が好評を得る。と、この地に新たな鉱脈があるとの表立った理由で、町の発展を見込んだ不動産業者が店の買収の交渉に来た。マケイブとしては博奕打ちの魂が疼き、最初の向こうの言い値で充分なのを、更に欲を出してハッタリをかますと、先方は即、殺し屋を差し向けた。寝首をかかれてはたまらないと、そのさして強そうにも見えない殺し屋たちに、自分から再交渉を持ちかけても、最早買い叩かれる側で、やむなく決闘に臨むマケイブは教会に逃げ込んで初めから戦意喪失。ところが牧師に追い出され、逆に牧師が殺し屋に撃たれ、持っていたランプから出火し教会は炎上する。続く、町総出の消火活動の騒ぎと交錯して描かれる、深々と降る雪の中のおよそ活劇らしくない撃ち合いがアルトマン演出の真骨頂で、異様な迫力がある。敵は皆倒すが自分も深手を負ったマケイブは雪の中埋もれるようにして死んでいく。その中に一片のヒロイズムもない厳しさ。彼は愛する夫人を最後まで金で買い続けた小心者だった。女たちと遊びまくり、呆気なく殺される気の好いカウボーイ役でK・キャラダインがわずかな出番ながら鮮烈な印象を残す。