砂漠の流れ者(1970)




下のallcinemaさんの解説では「そこまでの映画か?」とありますが(笑)

暴力描写で有名なペキンパー監督ですが
こちらの作品はどちらかというとコミカルで
ミュージカルっぽいシーンまであります
宗教色もかなり強いですね

ペキンパー監督作品としては変わり種だと思いますが
私は良かったです、とても面白く見させていただきました
オープニングのバラードに、タイトルバックからして見事
ワイルドバンチ」や「ゲッタウェイ」のような痺れる感覚こそありませんが
これはこれで好きです


砂漠のど真ん中で仲間2人組に裏切られ、なにもかも奪われ
4日間彷徨ったのち、奇跡的に水場を発見し命拾いしたケーブル・ホーグ
そこで復讐に燃えるのかと思ったら、ちょっと違うほうにそれていきます(笑)

水場に現れた牧師ジョシュアの知恵で
彼は町に土地の登記に行きます
そして砂漠を横断する駅馬車の中継所を作ろうと考えます

しかし、そこで知り合った娼婦ヒルディが気になってしょうがない
胸の谷間が何度も見えてしまったり
調達した資金に描かれているインディアンの顔がニヤリと笑ったり

ラクタを集めて作った休憩所
ヘビだのカエルだのバッタ料理に
テーブルに釘で打ち付けた食器
とにかくワイルドで、男臭い


ケーブル・ホーグがどのような男で、なぜ砂漠にいたのかはわかりません
しかし、たぶん立派だとは言える人間ではなかったでしょう
ジョシュアの牧師も明らかにインチキで胡散臭い
気の強いヒルディはアバズレとしか言いようがない

だけれど、そこに友情が生まれ、愛も芽生える
欲望に素直だからこその、純粋な感情
富豪未亡人となったヒルディはシカゴからケーブル・ホーグを迎えにきます
一緒に新天地ニューオリンズに行こうと





そして時代は馬車から自動車へ
誤って動き出した車の下敷きとなり、死んでしまうケーブル・ホーグ
新しい時代についていけなかった男の終焉

インチキ牧師の言葉が、時に神々しく心に響く
まるではみだし者こそが、真の人間の姿を知っているように


天国の門をお開けください
 彼は善人でもなく悪人でもない、人間臭い人間です
 彼は砂漠を憎みました
 そして砂漠に生きる息者たちを愛しました
 彼は心の底から砂漠を愛し、王国を築いた
 そして愛のために砂漠を捨てた
 彼を天国にお召しください
 砂漠の猛暑に耐え抜いた彼には地獄の業火もどうせ効き目がありません」


こんなふうに、時代に遅れた無様な男の西部劇が
たまにはあってもいいじゃない

お気に入りです



【解説】allcinemaより
近年、原題直訳の邦題で再公開された、ペキンパーの古き良き西部への寓話的挽歌。長いこと幻の名作扱いされ(名画座で観る機会もほとんどなかった)ていたが、結論から言うと、そこまでの映画か?--という気がする。最後の西部劇作家と言われたペキンパーだが、個人的には、そのスピリットを現代アクションに活かした作品(「ゲッタウェイ」「ガルシアの首」)の方が面白いと思う。この、世紀の移り目に時代に取り残されていく男(J・ロバーズ)の風流な復讐劇--砂漠の真ん中に駅馬車の駅を作り、仇の現れるのを待ち構えるという悠長な設定で、通いの娼婦(S・スティーヴンス)とすっかり夫婦気取りで暮らすのだ!--は感傷的で、穏やかで、優しくありすぎるのだ。本当の西部劇の幕引きとなったのは、あの血糊の洪水「ワイルドバンチ」ではなく、この映画。だから、ケーブルよ、君を好きで嫌いだ。