ワイルド・アパッチ(1972)




これは傑作でした
リアルな描写に、ほかの西部劇の多くが
子ども騙しにしかか見えなくなってしまいます

自作「アパッチ」(1954)にベトナム戦争反対の意味を込めた
セルフリメイクということ
かといって反戦の押しつけがましさは一切ありません
暴力を、残虐を、怒りを、そして諦めを
ただ、じりじりと描いていくのです

そして、当時の若者のエネルギーを
血気盛んな若き青年将校に例えているのか
その「取り返しのつかない」性急さの危うさ


1810年代なかば
騎兵隊の激しい攻撃の前に、シャイアン、スー、コマンチ族は破れ
アリゾナでもアパッチ族が居留区に押し込まれていました

インディアンとの戦いも終わり、騎兵隊が待機するロウェル砦
そこにウルザナというアパッチ族が数名の仲間を率いて
脱走したという知らせが入ります

ウルザナを捕えるため、若いデブリン中尉を指揮官に
ベテランであるマッキントッシュ(ランカスター)
通訳であり土地に詳しいアパッチ族の戦士、ケ・ニ・ティ
ほか20名の隊員が出陣することになります





これは数あるバート・ランカスターの主演作のなかでも
最高の演技といっていい、実に渋くてかっこいい
異文化との戦いも、共有も熟知していて
多くを望まない、諦めを知った男の貫禄がにじみ出ています

ウルザナの残虐な行為にだんだんと怒りを抑えきれなくなるデブリン中尉
感情的になり、冷静さを失った指令ばかりを出してしまう
しかしマッキントッシュは「成長」を見守っているのでしょうか
中尉の意見を正しながらも尊重するのです

なぜアパッチはこんなに残酷なんだと悩む中尉
土地を奪われ、家族を殺されたなら、誰でも復讐を誓うに違いないのに
白人はそんなことも理解できないのかと思ってしまう




ウルザナがまたいいのです、ひとこともセリフがない
それでも、自分のしたことは正しいと信じているのがよくわかる
だからこそ潔く死を受け止める、そして死の歌を歌う


ウルザナはアルドリッチ監督の姿なのかなと思う
ヨーロッパに渡った1960年前後の不振(赤狩り)の時期の経験が
居留区に閉じ込められたインディアンの姿と重なったというのは
考えすぎなのだろうか


戦いの後に残ったのは、多くの死体だけ
その時には、何のために戦ったのかさえ、もうわからない

これが、アルドリッチ流「滅びの美学」
アルドリッチ監督作品の中で、もっと評価されていい1本だと思います

お気に入りで



【解説】allcinemaより
 インディアン居留区を出奔したウルザナは、仲間とともに白人に対する復讐を始めた。彼らの討伐のため、老練なマッキントッシュが砦に呼ばれる。騎兵隊の若き中尉デブリンを補佐しながら、彼らは凶悪なアパッチを追った……。インディアン問題に材を採りつつ、R・アルドリッチがリアルなタッチでまとめ上げた骨太の娯楽ウェスタン。新任中尉(デイヴィソン)と、老練なスカウト(ランカスター)の交流や、アパッチとの丁々発止の駆け引きなど見どころは盛沢山。