「銀残し」と呼ばれる、褪せた色調が
大正時代らしいレトロな雰囲気を生み出しています
女学生のげんと、高校生の弟碧郎(へきろう)
いかにこの姉弟が仲がいいのかがわかるように
物語は始まります
碧郎にとって、姉は母のようであり
ひとりの女性としても憧れの存在なのでしょう
父親はちょっとは有名な物書きのようですが
家は決して豊かではありません
継母はいますが、すべての家事はげんがしています
やがてやんちゃな弟は悪い仲間と付き合いはじめ
家族を困らせるようになります
私は「おとうと」というよりも
継母である田中絹代さんの映画として
見てしまいました
昔は後妻に入るような女性は
子どもが出来ないため嫁ぎ先から追い出されたとか
なにかの理由で結婚できず年になってしまったか
事情があったのだと思います
子どもが産めないから、前妻の子の世話にも専念できるだろうと
結婚させられたのです
だけど病気になって使えない女と夫は思ってる
継母のほうもだんだんと家族に対して嫌みになってしまう
でも、げんに早く結婚をすすめるのも
自分が晩婚で苦労したからなのです
碧郎が事件をおこしても警察にいくのは彼女
まだ若い子どもたちには伝わらないかも知れませんが
継母なりに家族を愛しているのです
責任を感じているのです
碧郎の投げたインクが畳に広がる
引きずる脚で雑巾を取りに行き掃除する母
無関心な父親を演じる
森雅之さんの無駄のない演技も素晴らしい
そして暴れるだけ暴れては
結核で死んでしまった碧郎
ショックで倒れたげんが「はっ」と目を覚まし
後片付けを始めるのは妙にリアルでした
どんなに悲しいときでも、ああ通夜だ、葬式だと
現実の時間は流れていくのだから
やはりカメラが逸品
傑作でしょう
【解説】allcinemaより