男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋(1982)

シリーズ29作目
夢は今昔物語、ふすまの雀の絵
マドンナはいしだあゆみさん。
 
たぶんシリーズでいちばん切ないマドンナに
いちばん切ない寅さんなのではと思います。
 
どんな人にも分け隔てなく、いつも陽気に接する寅さん。
綺麗な女性となるとさらに親切心もパワーアップ!
それが逆にどんどん生気を吸い取られてしまう
そんな女性に出逢ってしまったのです。
 
美人だし、真面目だし、どこも悪いところがない。
なのに男性が逃げ出してしまいたくなる
そういう女性。
 
加茂川のほとりで鼻緒の切れてしまったおじいさんを助けた寅さん。
「チビた下駄」だの「息子の嫁に買ってもらえないのか」だの
散々言いながらも手際よく下駄を直してあげます。
そんな寅さんを気に入ってしまったおじいさんは
陶芸の人間国宝加納作次郎でした。
このふたりの出逢いのシーンは逸品ですねえ。
 
作次郎先生演じる13代目片岡仁左衛門さんがとにかくイイ!
風格というか品格というかさすがのオーラがあります。
ホンモノの陶芸の人間国宝と言われても誰も疑いません。笑
 
その作次郎先生のもとで働くかがりさん。
彼女は夫に先立たれていました。
そのうえ現在付き合っている陶芸家の男性からは
違う女性と結婚すると言われてしまいます。
いしだあゆみさん、男性に捨てられる役が似合いすぎます・・
 
実家のある丹後に帰ってしまったかがりさんに
旅先で寅さんは逢いに行きます。
再会を喜ぶふたり。
でも何かがいつもと違った
 
寅さんに対して、かがりさんは「女」になったのです。
お酒を飲む。
夜の寅さんの布団のそばにやってくる。
カーテンを閉める、電気を消す。
ひたすら寝たふりをする寅さん。
 
「女」としての本気のかがりさんの態度は
寅さんから笑いも、ふざけた態度も消滅させてしまいました。
寅さんは逃げるように船に乗り柴又に帰ります。
見送るかがりさんの顔がまた辛すぎる。
 
それでもまた、かがりさんは東京の寅さんへと逢いに来ます。
かがりさんとのデートに満男を連れて行ってしまう寅さん。
その時点で女性なら断られたんだな、と気が付くでしょう。
白けてしまうふたり。
 
寅さんは、たったひとりの女性を受け止める
甲斐性も、覚悟もない男なのです。
かがりさんと別れた後の電車で、自分の不甲斐なさに泣いてしまう寅さん。
大人の事情をそっと見守るだけの満男。
 
ずっとしんみりしていましたね。
ラストの寅さんと作次郎先生の再会で、やっとホッとしました。
 
露店で焼き物を 「聞いて驚くな人間国宝加納作次郎の作品だ!」と
「こうなったら、2万!…、1万5千円、あ~!やけくそ、1万でどうだ!」
とテキトーな商売しています。
そこに「1万円は高おうないか?もう一声」とツッコむ作次郎先生。
さすが器が大きいなあ。笑
寅さんには片思いが似合うのです。
両思いは余計ダメな男にしてしまう。
でも、そういう男性は世の中に意外と多くいるのかも知れませんね。
 

 
【解説】allcinemaより
「フーテンの寅」が活躍するシリーズ29作目。今回のマドンナにはいしだあゆみがキャスティングされた。脚本は山田洋次朝間義隆の共同執筆、監督は山田洋次。撮影は高羽哲夫が担当。
 葵祭が行われている京都。川のほとりで寅次郎は加納という老人と知り合う。実は加納は人間国宝の陶芸家で、立派な邸宅に住んでいた。そこで寅次郎は加納家のお手伝いであるかがりと知り合う。丹後出身のかがりは、夫に死なれて娘を故郷に置いたまま働きに来ていた。望んでいた結婚ができなくなったかがりは丹後に帰ることに。その後寅次郎も丹後へ向かうのだが…。いつも振られっぱなしの寅次郎とかがりの運命は如何に。