イヴ・サンローラン (2010)





「名声とは幸福の輝かしき葬列」


実生活で恋人でもあり、仕事上のパートナーでもあった
ピエール・ベルジェの語り口によるドキュメンタリー。

イヴ・サンローラン、本名なのですね。
姓名判断ではないですけれど
生れたときに与えられた名前は
その人の人生に大きくかかわっていくような気がします。

女性的で上品で洗練された名前。
早くから才能を開花し21歳にしてディオールの主任デザイナーとして
実績を認められます。
そのうえ細身の長身、デビット・ボウイにも似ている美男子。

イヴ・サンローランの品は私も若い頃は靴やバックなど
いくつか愛用していたことがあります。
ロゴまでがお洒落で、デザインも洗練されていて
しかも使い勝手がいいですよね。

富と名声、良きパートナー
理解ある友人、美しいモデルたち・・
誰もが羨むそんな生活。
そんな夢のように輝いている世界の中。
でもイブの心の闇は大きなものでした。

天才とは才能とともに苦悩も与えられるのです。
ゼロからものを作り出すのです。
今まで誰も見たことのない、知らないものを発見するのです。
永遠にできる作業じゃない・・

やがて酒とドラッグに溺れていきます。
だけどデザインの才能は溺れません。
コレクションだけは成功させる、職人なのです。

はじめて女性にパンタロンをはかせ
はじめてヴォーグの表紙を黒人で飾り
はじめてランウェイに有色人種を立たせたイヴ。
イヴにこだわりはない、あるのは美しさだけ。

それは乱雑に散らかった部屋さえ美しい。
溢れる絵画に美術品、本にインテリア、写真
ところ狭しと置かれた大量のモノが
なぜかとてもお洒落に見える。

なんていうセンス、バランス
見事な配置に絶句してしまいます。

これはイヴの「プレタトルテの帝王」の物語。
そしてピエール・ベルジェ氏との絆の物語でもあります。

イヴとのコレクションをオークションにかけるのは
イヴが死んでしまった今、無意味な存在になってしまったからなのでしょうか。
それともお金のためなのでしょうか。

両方なのでしょう。
イヴはもういない。



【解説】シネマトゥディより
一流デザイナー、イヴ・サン=ローランの輝かしい実績の裏に隠された繊細な素顔を、さまざまな映像や公私にわたるパートナーだったピエール・ベルジェのインタビューによって明かすドキュメンタリー。エレガントかつ革新的なセンスで確立したブランドの歴史、モロッコの別荘で過ごした日々の思い出が語られ、さらには彼らが長い月日をかけてコレクションした美術品の数々を提供したオークションの様子を映し出す。