ギルバート・グレイプ(1993)

 
 
「タンクが爆発!ボンボン!」
 
 
いい映画ですよね。
音楽も、ひとつひとつの台詞もいいです。
この作品のジョニー・デップがいちばん好き。
 
何もない寂れた田舎町。
夫が自殺したショックから過食症になってしまった母親。
知的障害を持つ弟のアーニー。
食料品店で働きながら、そんなふたりの世話をしているギルバート。
 
アーニーはちょっと目を離したすきに何をするかわからない。
ギルバートはつききりで面倒をみなければなりません。
 
ある日ギルバートとアーニーは
他の町から祖母と一緒にやってきた、ベッキーという女性と出逢います。
ギルバートは自由奔放で頭の良い彼女と恋に落ちます。
 
今見てみると、若い頃とは見る視点がずいぶん変わりました。
昔はギルバートが恋する聡明なベッキーが素敵だなと
ベッキーに感情移入して恋の成就を願ったのですけれど
大人になった今はギルバートの方にとても共感してしまったのです。
 
アーニーは18歳だけど幼子と同じ。
ギルバートがしているのは子育てと同じ、育児そのものです。
すべての身の回りの世話をつききりでしてあげなければいけません。
 
どこかに行きたいけれどどこにも行けない。
自由になりたいけれど、なれない。
疲れてしまうときもあるし、キレてしまうときもあります。
思わず叩いてしまうときも・・・
そして湧き上がる後悔。
彼の行動や心理は子育て中の母親そのものだからです。
 
そんなある日、ベッキーと一緒に夕日を見るために
アーニーをお風呂場に放置してしまったギルバートを母親は非難します。
すべてギルバートにまかっせっきり、自分ではなにもしないくせに。
 
そんなふうにお互い癇癪をおこすこともある
責め合って傷つけてしまう言葉を吐くときもある。
だけど愛している、親子なのです、家族なのです。
 
撮影当時19歳のディカプリオの演技は神懸っています。
ジョニデの演技も自然で良かったと思います。
商売敵の店でケーキを買って出てくるところを職場の店主に見られるシーンでは
こちらまで気まずい思いになってしまいました。
ティーンバーゲンも大好きな女優さん
生々しい女っぷりがとても色っぽかったですね。

でもやっぱりこの作品の一番はジュリエット・ルイス
美人というわけではないけれど、彼女の聡明さが
思いやりある素敵な言葉が笑顔が
この作品の重さも影も明るく照らしてくれます。
 
母が心臓発作で死んでしまい、すべてを燃やしたギルバート。
アーニーとふたり、ベッキーのトレーラに乗り込み旅立ちます。
自由ってなんて素晴らしいのでしょう。
 
日本でも過食症に苦しんでいる(おもに女性)は1~3%
生涯のうちに1回でも引き起こしたことのある女性は12%もいるそうです。
いったい食費はどう捻出しているのかと思うくらい食べるのですよね。
長年続けると身体にもいろいろ支障をきたすでしょうし
やはり専門医で治療するのが一番だと思います。
 

 
【解説】allcinemaより
 「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」のスウェーデンの監督、ハルストレムのハリウッド進出二作目で、日本でも成功を収めた黄昏色の青春映画。どこか「ラスト・ショー」を思わせる、アメリカ中西部の田舎町。そこのくすぶった生活を描き、観る者にその町を訪れた気分にさせる。警鐘塔に登るのがクセの知的障害を持つ少年、家から出られないほど肥えた女、大スーパーマーケットの前でひっそりと商いをするよろず屋、突如出現したハンバーガーチェーン店……、など、象徴的な要素をうまく使って表現している。しがないよろず屋の店員J・デップは、トレーラー・ハウスで祖母と旅を続ける少女(J・ルイス)の出現によって、袋小路のような自己の生活を見つめ直していく。デップをはじめ、演者みんなが素晴らしく、特に弟役のL・ディカプリオは傑出した名演を見せる。