蝉しぐれ(2005)


 
 
「泣きたければ、泣いてもよいぞ」
 
 
初めて読んだ時代小説が、この「蝉しぐれ」。
その本や映画の内容を思い出すとき
読んだ時や見た時の、その当時の思い出も一緒に蘇ります。
 
若い頃、2ヶ月ほど入院したことがありました。
本ばかり読んでいた私に、同じ病棟の男性から「面白いから」といただいたのです。
当時は正直、歴史にも時代物にも全く興味はない20代。
しかし読み始めたとたん、その面白さに引きずりこまれました。
次々とページをめくり一気に読み終えた記憶があります。
 
そんなふうに原作がとてもテンポよく、物語も面白かった記憶が強いせいか
映画のほうは残念ながらイマイチに感じてしまいましたね。
 
主人公の初恋が物語の軸になっているのですが
それ以外の話しの筋がわかりにくいのです。
ゆったりした作風はしょうがないにしても
斬り合いや逃走シーンまでがマッタリしすぎています。
あんなにモタモタしていて、よく殺されなかったなと。
魔剣を使うはずの敵との一騎打ちも、なぜ勝てたのか全く分かりません。笑
 
原作と比べずに、恋愛時代劇として観賞したほうが
よかったかもしれません。
 
陰謀により、謀反の罪をきせられた父(緒方拳)の子として
村八分にされ辛い日々を送る文四郎と
隣に住む貧しい家の娘ふくはお互いに好意を寄せあっていました。
しかし、ふくは殿の屋敷の奥につとめることなり江戸に行ってしまいます。
 
時が経ち殿さまの妾となったふく(木村佳乃)と再会した牧文四郎(市川染五郎)。
美しい大人の女性になったふくの姿に息をのむ・・
ふくのほうは「結婚してない。子供もいない」という文四郎の言葉に
思わず嬉しそうな顔をしてしまいます。
 
世継ぎの派閥闘争、里村派にとって邪魔なふくの子ども。
老中里村左内は文四郎にふくのお子をさらって来いと命じます。
しかし文四郎は老中に背き、ふくとふくのお子を命懸けで守るのです。
 
さらに時が経ち、出家していくふくに
ふたたび再会したときの文四郎がとてもいいですね。
独身にもかかわらず「妻と子どもがふたり」と嘘を言います。
ふくに心配をかけたくないのです。
 
そして「ふく!」「ふく!」と二度叫びます。
 
涙を流すふく。
ずっと長い間、彼女は文四郎にそう自分のことを呼んでほしかったのです。
ずっと心の中で愛していたのでしょう。
 
文四郎もひとり、舟の上で泣いたのだと思います。
 
山形の四季の美しい風景は素晴らしかったですね。
冬景色、春の桜、川辺のせせらぎ・・・
幻想的な、まるで桃源郷のような美しさには溜息がでます。
世界遺産に登録したい、すべきでしょう。
 

 
【解説】allcinemaより
藩内の権力闘争に翻弄される男女の切ない悲恋を描く本格時代劇。不当な汚名に耐え、ようやく家の復権がかなった青年藩士が、かつて淡い初恋を育んだ幼なじみと皮肉な再会を果たし、新たに巻き起こる派閥抗争の渦の中で、藩に仕える武士としての宿命を背負い非情な運命に立ち向かう姿を四季折々の美しい映像と共に綴る。藤沢周平の傑作小説を、15年来熱望してきた企画という黒土三男監督が、2003年のTV版の脚本に続き、今度は自ら監督も手掛けて悲願の映画化。主演は市川染五郎木村佳乃
 江戸時代、東北の小藩“海坂藩”。15歳の文四郎は下級武士である義父・助左衛門のもと、親友たちと剣術や学問に励む毎日。一方、隣家に住む幼なじみのふくとも淡い恋心を育んでいく。そして、文四郎が尊敬する父のようになりたいと思い始めた矢先、その助左衛門が世継ぎを巡る陰謀に巻き込まれ、切腹を命じられてしまう。それを境に、罪人の子として辛苦の日々を過ごす文四郎。そんな彼に唯一変わらぬ態度で接してくれたのは親友の逸平と、ふくだけであった。しかし、ふくはほどなくして江戸の屋敷で奉公するため旅立ってしまう。それから数年後、青年になった文四郎に筆頭家老から牧家の名誉回復が告げられるのだったが…。