センチメンタル・アドベンチャー(1982)


 
 
 
「命を無駄に使いたくない」
 
地味ですが、味わいのある作品でしたね。
アメリカ文化を、音楽を
ちょっと世間からは爪弾きされているような男を
イーストウッド監督は愛しているのでしょう。
 
酒に溺れ、盗みもする。
付き合った女性にはひどい仕打ちも。
カントリーシンガーのレッド(イーストウッド)は
そんなとことんダメな男だけど
彼の歌う歌には、メロディーには
人を惹きつけるものがあるのでしょう。
女性はうっとりとレッドを見つめ
老夫婦はキスをし、曲に合わせてダンスを踊ります。
 
レッドは金はないけれど、病で先もないけれど
それでもスターになる夢だけを追って生きている男なのです。
 
オーディションを受けるためにナッシュビルに向かうレッド。
甥のホスは運転手として同行することになります。
故郷で死にたいというおじいさんと一緒に。
 
ホス役のカイル・イーストウッドは監督の実の息子さんなんですね。
素直でやさしくって無駄なことは言わずに眼差しで語る・・
そんなとても素晴らしい演技をしています。
 
イーストウッド監督の歌、ギター、ピアノも聴くことができます。
本物のプロに比べたら特別うまいわけではないかも知れませんが
その多彩な才能には驚かされます。
 
イーストウッド監督の作品って人生を感じます。
ほろ苦くて、哀しくって、やさしくて、癒されて、死を感じる。
魂がこもっているのです。
 
子どもは見なくていい。
大人が鑑賞するのにふさわしいロード・ムービー。
隠れた名作でしょう。
 

 
【解説】allcinemaより
歌と酒をこよなく愛するカントリー・シンガーのレッドはナッシュビルで開かれるC&Wの祭典“グランド・オールド・オープリー”のオーディションに誘われる。トラックに古ギターを積み、同行する事になった甥のホイットと共にレッドはナッシュビルを目指す……。大恐慌時代を背景に、最後に一花咲かせようと旅に出るもう若くはないひとりの男の姿を描いたイーストウッド流ロード・ムービー。レッドを尊敬する甥(演じるは実の息子のカイル)の目を通して、この時代に生きた人々を哀感をこめて綴る作品で、優しさだけではない辛辣な視点もイーストウッドらしい切り口だ。地味な題材だけにロードショー公開もされなかったが、監督イーストウッドを語る上では避けて通れない一本。