男はつらいよ 寅次郎恋歌(1971)


 
 
シリーズ8作目
マドンナは池内淳子さん。
 
「兄ちゃんのこんな暮らしがうらやましいと思ったことあるか?」
 
「あるわ・・」
「一度はおにいちゃんと交換して、私のことを心配させたいわ」
 
じーんときました。涙が出ました。
寅さんが寅さんらしく、さくらちゃんがとてもさくらちゃんらしい。
大いに笑って、しみじみ泣ける「男はつらいよ」。
 
夫の生家というものは嫁にとって肩身の狭い場所です。
長男の嫁も大変でしょうが、末っ子の嫁もまた
義父母だけでなく兄や姉にまで気を使うという気苦労があるでしょう。
それはさくらちゃんも同じ、それが葬儀のような席ならなおのこと。
それなのに博のお母さんのお葬式の日、なんと寅さんが来てしまいます。
さくらちゃんの困った、恥ずかしいという顔・・
とても感情が伝わってきます。
 
博の父親はお堅い大学教授。
博は頑固な父やエリートそうな兄とは合わなく絶縁寸前だったのでしょう。
しかし寅さんは、博の父親に「センセイ、センセイ」となつきます。
そしてセンセイから「りんどうの話」を聞き、柴又に帰る決意をするのです。
 
「人間は絶対に一人じゃ生きていけない、人間は人間の運命に逆らっちゃいかん。
 そこに早く気がつかないと不幸な一生を送ることになる。
 分かるね、寅次郎君…分かるね」
 
柴又に帰った寅さんは、喫茶店を経営している未亡人の貴子さんと出会い
もちろん一目惚れ。
ゴーン、ゴーンと鳴り続く鐘の音が絶妙。
カア、カアと鳴くカラスの鳴き声も絶妙。
 
寅さんだけでなく、貴子さんのほうも寅さんに好意をもってくれます。
寅さんのおかげで転校して間もない息子に友達が出来たことで
貴子さんは寅さんに感謝します。
そのことで息子に父親のような存在が必要と感じたのかも知れません。
借金の苦労から一時でもいいから逃れたいと思ったのかもしれません。
 
「いいわねえ旅って。羨ましいわあ。あたしも一緒について行きたいな・・」
 
だけれど、寅さんは貴子さんの前から突如去ってしまいます。
純真な貴子さんの気持ちに、彼女の苦労に、つけ込む気がしたのです。
寅さんには、そんな自分にとって卑しいまねはできない。
それに旅はそんなに甘いものではない。
堅気の男でもない。
ふさわしくない・・
 
この終盤のマドンナの家の裏庭での会話のシーンは逸品。
映像的にもとてもとても美しい。
 
歌を歌うさくらちゃん。
お葬式での写真撮影。
マドンナとさくらちゃんを間違う寅さん。
茶店でこっそりお財布にお金を入れるさくらちゃん。
最初と最後の旅芝居の一座とのエピソードも良くできていました。
 
私的には本当にたくさんの名シーンがありました。
お気に入りに決定です。
 

 
【あらすじ】ウィキペディアより
博の母が死去。その際、博の父(志村喬)の話をしんみりと聞き、さすがのフーテンの寅も家庭の幸せについて真剣に考えるようになる。「りんどうの花が咲き乱れ、夕げの明かりとともに笑い声が聞こえてくる・・・」柴又に帰った寅次郎は、例によって独特の節回しで自らが理想とする家庭像をおいちゃんたちに聞かせてみたが、反応は今一。その教養なさに呆れてしまった。そんな時、近所の美人の未亡人、貴子(池内淳子)が経営する喫茶店がオープン。数日後に偶発的に店の扉を開けた寅次郎は、そこで店を一人で切り盛りする貴子の姿を再び目にすると、たちまち脱け殻のようになってしまった。足繁く通っては大嫌いなコーヒーを飲み、貴子と家庭の幸福を分かち合うことを夢見るが・・・。