砦なき者【野沢尚】(2002)

 
 
 

 
 
TV番組作成現場の舞台裏を描いた
破線のマリス」(江戸川乱歩賞受賞作)の続編。
でも、「破線のマリス」は読んでいないのですけど。笑
 
報道番組『ナイン・トゥ・テン』に売春の元締めとして報じられた女子高生が
全裸で首を吊り死にます。
『ナイン・トゥ・テン』の競合テレビに出演し
恋人を番組に殺されたと訴え涙する美青年、八尋樹一郎。
八尋は視聴者の同情と人気を集め
メディア界のカリスマとなり多くの信者を抱えるようになります。
しかしそれは、八尋によって綿密に計画された完全犯罪への幕開けだったのです。
 
報道被害について、報道は責任を負うのか。
八尋という邪悪なモンスターを通じて、私たちは問いかけられます。
 
今、私たちは原発についても、政治についても、他国との関係についても
いろいろな問題を、テレビなどの報道を通じて情報を得ることが多いですよね。
それは本当に真実を伝えているものなのか
他局との視聴率の競い合いのために、面白く刺激的にエッセンスを多く加えたものか
見極めるのはとても難しいことです。
 
しかし現実には、巧みに編集され
そして、魅力的でカリスマ性のある人間が報じた言葉のほうを
多くの視聴者は信じるような気がします。
 
報道被害について、報道は責任を負うのか・・
謝罪の言葉ひとつでおわり、それが報道でしょう。
 
携帯からの指令一つで、何千人もの若者を動かすことができるという設定などは
あまりにもおおげさかな・・とも思いましたが
野沢小説の魅力である病的さや狂気さは、この作品でも堪能はできました。
 

 
【内容紹介】野沢尚オフィシャルサイトより
テレビを信じてはならない。
“4年後の『破線のマリス』”と呼ぶべき傑作サスペンス!
映像という手段を知り尽くし、若者のカリスマとなった邪悪な男。彼を生み出してしまったテレビ業界の男たちが挑んだ戦いとは――?

視聴率というものが表現する大衆が、不気味でならない時がある。
「閉じた社会」には、行き場を失った暗いエネルギーが満ち満ちている。1千万人が1人のカリスマの登場によって「絶対的な総意」としてひとつにまとまったらと想像すると、背筋が凍る。
だが、本物の恐怖はその先にあるように思えてならない。――野沢尚