丹下左膳余話 百萬両の壺(1935)


 
 
 
下のallcinemaの解説の長さ。笑
天才と謳われた山中監督が、いかに絶賛されているのかが伺われます。
 
山中監督が28歳の生涯で撮った作品は全26作。
23作が戦災で焼失、または国策映画製作のために作品のフィルムが使い回され
消滅。
現在観賞できるものは「人情紙風船」「河内山宗俊」と
この「丹下左膳余話・百万両の壺」の3本のみだそうです。
 
この作品も昭和10年製作で、この珠玉の出来。
今の映画界は何をしてるんでしょう?と思ってしまいますよね。
 
なんといっても、登場人物の描き方が素晴らしい。
そして、会話も展開もテンポがよく観やすいです。
 
子どもに数を数えさせ、10数える間に敵を瞬殺するくらいの剣豪
丹下左膳(大河内 傳次郎)。
なのに家庭では、妻のお藤の尻に敷かれ、おまけにヒモ状態。
そして、「金輪際送っていかねえぞ!」と言いながらも、送って行ったり
ちょび安がいじめられたり泣かされてるんじゃないかと心配で
寺子屋を覗きにいったり
「竹馬なんて乗るもんじゃありません」と言ったり、とにかく心配性。笑
 
現実でも、ギャップのある人って魅力的だったりしますものね。
左膳が片目片腕の怖い外見とは裏腹に、じつに愛すべきキャラクターでした。
 
大友柳太朗さん、大川橋蔵さん主演の1958年板も痛快な作風で
素晴らしかったですし、すっかり左膳ファンになってしまいます。
 

 
【あらすじ】allcinemaより
わずか28歳の若さで戦死してしまった早世の天才映画監督・山中貞雄の現存する3本のうちの1本。それまでチャンバラものとして人気のあった丹下左膳を主人公に、擬似家族が織り成すホームドラマ風人情喜劇が展開する。
 とある小藩に伝わるこけ猿の壺。実はこの壺に先祖が埋め隠した百万両のありかが示されていることが判明する。だが、壺は先日江戸の道場屋敷に婿入りした弟・源三郎が知らずに持って行ってしまっていた。やがて、その秘密は江戸の源三郎にも知れるところとなるが、一足遅く壺は道具屋に売り渡されてしまっていた。ほどなく壺は道具屋の隣に住む安吉の金魚入れとなる。しかしその夜、安吉の父親は行きつけの遊技場である矢場で、チンピラとの諍いから刺し殺されてしまう。矢場で用心棒の傍ら居候をしている左膳と矢場の女将・お藤は男の家を見つけるが、そこで、安吉が母親を早くに亡くし父親との二人きりだったことを知る。仕方なく二人は安吉を預かることにし、安吉が大事にしている金魚を入れた壺とともにお藤の矢場へと連れ帰るのだった。一方、源三郎は壺を探して市中を回るが、そこでたまたま目にした矢場で働く娘に軽い浮気心を抱く。以来養子の身である源三郎は壺を探すと称しては矢場へ入り浸り羽を伸ばすようになり、いつしか安吉、左膳とも親しくなるのだったが……。
 大胆にして絶妙な省略を多用し笑いとテンポを巧みに生み出すあたり、まるで上質なハリウッド・コメディを観ているかのような錯覚を覚える(もちろん監督がそれらの作品を念頭に本作をつくったのはいうまでもない)。そしてなによりも驚くのはその的確にして奥行き深い人物造形で、矢場の女将と左膳の、照れ屋で意地っ張りでしかも口は悪いが根は優しい、そんな江戸っ子気質をみごとに描き出している。また、源三郎にしても城主の弟で今は養子の身という居心地の悪さと、それでいてどこかのん気で次男坊のお気楽さがちょっとしたセリフや行動からさりげなく表わされていて、その的確で無駄の無い演出に恐れ入る。それにしても、この時代に日本でもこれだけ高い完成度を誇る映画が作られていたことに今さらながら驚くとともに、何よりその監督のあまりにも早すぎる死が無念でならない。