朽ちないサクラ(2024)

タイトルのサクラとは

警視庁の本庁舎が皇居の「桜田門」のすぐ目の前にあることから

隠語として警察内部やマスコミから、警視庁が「桜田門」 と呼ばれていること

また警察の紋章「旭日章」(警察紋)のモチーフが「桜」であることから

警察組織全体を示していること

さらにかつて公安の精鋭部隊や協力者(スパイ)「サクラ」という

コードネームで呼ばれていたこと 現在は「チヨダ」や「ゼロ」と呼ばれている)

ストーリー的には、桶川ストーカー殺人事件(1999)や

(この事件をきっかけに「ストーカー規制法」が制定された)

オウム真理教の地下鉄サリン事件(1995)など

実際に起きた事件をモデルにしていることがわかりますが

そのわりにはライト

 

当時の事件をリアルタイムで知らない(あるいは記憶がない)

Z世代を狙ったのかも知れませんが

本当の被害者がいたことも忘れてはいけません

オープニング、フードをかぶった男が、女性の顔をシンクに張られた水に押しつけ

やがて息絶えた女性を車のトランクに運び、橋の上から川へと投げ捨てます

 

愛知県の平井中央警察署では署員が電話の対応に追われています

女子大学生長岡愛梨の遺体が見つかり

彼女が平井中央警察署の生活安全課に

ストーカー被害を何度も訴えていたにもかかわらず

警察は被害届の受理を一週間も遅らせてしまったことが判明

その2日後、愛梨は被害を訴えていた宮司(神主) の宮部秀人に殺されました

マスコミはもっと早く被害届を受け取っていたら助かっていたと叩きますが

警察は「生活安全課が別の事件で忙しかった」と弁明します

そんな中、米崎新聞が警察署が「別の事件で忙しかった」のではなく

慰安旅行に行っていたことをリーク

さらに警察への批判は激しくなります

 

埼玉県警の広報広聴課で働く事務員の森口泉(杉咲花)はその騒動の中

親友で米崎新聞の記者の千佳(森田想)のアパートに

お泊り会した夜を思いだしていました

泉が同期の磯川(萩原利久)から「慰安旅行のお土産をもらった」と

何気に出した和菓子を差し出すと

最初は彼は泉に気があるんじゃないかと冷やかしていた千佳でしたが

磯川が生活安全課であることから

殺された女子大学生被害届が遅れたのは、慰安旅行のせいではないかと疑います

聞かなかったことにして」「記事にしないで」

警察関係者が新聞記者と親しいとバレただけでも大変なんだと懇願

千佳は「分かった」と約束します

しかし慰安旅行のスクープが米崎新聞に掲載

千佳とファミレスで落ち合った泉は、記事を書いたのは千佳ではないかと訪ねます

千佳はそんなことはしない、私を信じてと必死に否定しますが

泉は千佳新聞社のデスク兵藤駿河太郎と不倫していることを知っていました

もしかして彼のために約束を破ったのではないかと疑っていたのです

千佳は「疑いを晴らすから、その時は謝ってよ」と泉と別れます

その数日後、上野川の下流で千佳の遺体が発見されたと報告が入ります

千佳の通夜の後、元公安刑事富樫安田顕)に食事を誘われた

富樫はかって「公安のタカ」と呼ばれた有名人

その富樫が、千佳の携帯水没して使えなかったこと

通話履歴から泉と千佳が知り合いであること

記事が出る前に2人が会っていたことがわかったと伝えます

(携帯は水没して使えなかったのに、なぜ通話履歴はわかった? 笑)

そうして泉は捜査一課のベテラン警部補

梶山豊原功補から事情聴取を受けることになります

梶山から千佳の死因は溺死しかし肺から水道水検出され

別の場所で溺死させられ、川に捨てられた可能性が高い

爪の間からは皮膚片が見つかっており明らかな殺人だろうと説明します

さらに千佳は記事が出てから1週間、新聞社を欠勤し

車の移動履歴から何度も小先市へ向かっていたことがわかったこと

美咲の脱いだ靴がミリ単位で揃っていて

自殺する直前の人間がそこまでするかという疑問に思っていること

さらに上(公安)から、他殺の可能性は無視して自殺として処理するよう

指示されれていたこと教えます

梶山は病死した泉の父(元警察官)の後輩で父親と親しく

泉にとっては子どもの頃から親戚の「おじさん」のような存在

規則違反を承知で千佳の捜査情報を提供したのです

(だからって広報課のいち事務職員に教えていいもの? 笑)

泉が千佳が自分のせいで死んだのではないかと磯川に相談すると

磯川は生活安全課の嘱託職員だった

百瀬美咲中村祐美子)という女性が突然解雇され

(千佳ではなく)美咲が慰安旅行の情報を新聞社に漏らしたのではないかという

が流れているといいます

そこで磯川はゴシップ好きのベテラン女性職員に美咲のことを尋ねると

美咲が刑事の辺見(坂東巳之助)と不倫していたこと

(すなわち警察内部の機密情報を知っている)

美咲の実家が小先市だったことがわかります

 

泉と磯川が小先市の実家を訪ねてみると

美咲の父親は「美咲は2日前に死んだ、自殺だった」と答えるのでした

一方で娘は「自殺」するような子ではない

美咲の部屋を見せてもらった泉と磯川は、美咲の残した手帳に

「ボン・ヂア」という謎の言葉を見つけます

次に千佳の実家を尋ねた泉は仏壇に手をあわせ

千佳の母親(藤田朋子)から「警察から返ってきた」とという

千佳の遺品のバックを見せてもらうと

中から神社のおみくじを見つけ、在原業平の和歌が記されていました

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」

「サクラ」とは公安警察のこと

これは「もし公安が存在しなければ、世の中はどれだけ平和だろう」

という意味のメッセージで

ストーカー事件の犯人が宮司していた「平井神社」のものではないだろうか

おみくじを富樫に見せる泉

公安の秩序を守るためなら個人の犠牲を厭わないという非情な論理

長年尽力してきた富樫でしたが

泉の親友の死の真相を知りたい、犯人を突きとめたいという

純粋な願いに心を動かされたのか、彼女に一冊の極秘資料渡します

そこには、公安が長年追い続けてきた教団「ソノフ」の

内部実態が詳細に記されていました

「ソノフ」とはかつて駅で毒ガス事件を起こし

多数の死傷者を出したカルト教団新興宗教「ヘレネス」が改名した団体名のことで

美咲は公安の指示で教団に入り込んでいた「協力者(S=エス)」

つまり公安のスパイだったことがわかります

美咲の手帳に書かれていた「ボン・ヂア」(Bom dia) とう言葉は

(教団の信者にはブラジル系の移民とその家族が多い)

ポルトガル語で「おはよう」の意味で

定期的にSNSやメールで「ボン・ヂア」と発信することで

誰にもばれないよう自分の無事を公安に伝えていたのです

(記憶するのではなく、手帳に書き残しておくものかね 笑)

その後、千佳が死んだ場所の防犯カメラの映像から

「ソノフ」信者の浅羽遠藤雄弥という男の車が停車していたことが判明

さらにDNA鑑定で、千佳の爪に残っていた皮膚片が浅羽のDNAと一致

教団施設を家宅捜索すると、毒ガスの原料が大量に見つか

浅羽は逃走しますが運転していた車が横転し死亡

事件は解決したかに思われましたが、泉には納得できませんでした

本部には知らせず、磯川とともに「平井神社」に向かう泉

長い階段、生い茂る木々、昼間でも薄暗く

あまり手入れが行き届いていない神社

なのに古い神殿に不釣り合いな最新式の防犯カメラ

参拝者ではなくなぜか森のほうに向けられていることに気付いた磯川

カメラのレンズが向けられている先に歩いて行くと

そこには小さな祠(神殿)があり、泉が中を覗くと

「ソノフ」のシンボルである「聖杯」のモチーフ

ストーカー殺人事件の宮部容疑者は「ソノフ」の信者だったのです

そこに突然(神職の姿をし境内を掃除していた)浅羽

刃物を持って襲いかかってきます

泉を助けようとした磯川が浅羽に刺されると

公安警察がなだれ込み浅羽を確保

Sである美咲と、それを知ってしまった千佳は浅羽に殺され

公安は事故死したのは別の人間だったと知っていて

浅羽をずっと張っていたのです

磯川が重傷を負い病院へ搬送されたことへの責任

公安の闇工作を目の当たりにし絶望した泉の姿を見た梶山は

富樫から受け取った極秘資料を(泉が渡されたのと同じ資料か)

捜査員たちが大勢いるいる署内(共有スペース)のコピー機で

コピーしはじめ「配れ」「読め」と渡して行きます

黙認する富樫(梶山がこうすることを期待していた)

捜査員たちは資料をもとに「ソノフ」を一斉検挙

やがて桜が咲く季節になり、泉は回復した磯川に

広報広聴課を辞め警察官になる決意を語ります

「警察学校にもう一度入って、やり直す」

 

これまでの古い体質や隠蔽を残したままの「腐敗したサクラ」ではなく

父親や梶山のように「朽ちないサクラ」になるのだと

 

 

【解説】映画.COMより

「孤狼の血」シリーズの柚月裕子による警察ミステリー小説を杉咲花の主演で映画化。杉咲演じる県警の広報職員が、親友の変死事件の謎を独自に調査する中で、事件の真相と公安警察の存在に迫っていくサスペンスミステリー。
たび重なるストーカー被害を受けていた愛知県平井市在住の女子大生が、神社の長男に殺害された。女子大生からの被害届の受理を先延ばしにした警察が、その間に慰安旅行に行っていたことが地元新聞のスクープ記事で明らかになる。県警広報広聴課の森口泉は、親友の新聞記者・津村千佳が記事にしたと疑うが、身の潔白を証明しようとした千佳は一週間後に変死体で発見される。後悔の念に突き動かされた泉は、捜査する立場にないにもかかわらず、千佳を殺した犯人を自らの手で捕まえることを誓うが……。
泉役を杉咲が演じるほか、安田顕、萩原利久、豊原功補らが顔をそろえる。監督は「帰ってきた あぶない刑事」の監督に抜てきされた原廣利。

2024年製作/119分/G/日本
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

 

愛に乱暴(2025)

「あんた、ありがとう言わないよね」

 

原作は吉田修一の同名小説

最初はただの倦怠期の夫婦の物語かと思いましたが

ブラックコメディか、ホラーなのか(笑)予想外の展開でしたね

江口のり子がチェーンソーを取り出した時には

レザーフェイスばりに旦那と不倫相手を殺しに行くのかと思いました

さすがに悪魔のいけにえ」にはなりませんでしたが(笑)

やけくそになってしまうヒロインの気持ちは、わからなくもない

主婦の初瀬桃子(江口のり子)は極めて一般常識があり

離れでひとり暮らしをする姑の照子(風吹ジュン)を常に気にかけ

ゴミ出しの朝には、ゴミは無いかかならず声をかけます

ゴミ捨て場はカラスがゴミを漁っていて(分別されていないため)

カラスを追い払い、散らかったゴミを片づける桃子

それを遠くから眺めているホームセンターの従業員

 

カラスの演技がめっちゃうまくてCGかと思ったんですが(笑)

これはカラス担当(アニマルトレーナー)による本物のカラスの演技ということ

桃子の日常が崩れていく不穏な空気感をうまく演出していて

何気にいちばん感心しました(笑)

そしてどこに行ってしまったのか、子猫と思われるぴーちゃんを毎日探しています

あちこちで名前を呼んでもぴーちゃんは現れない

 

さらに桃子はオーガニックな食事、自家製の保存 こだわりの食器を愛用し

不定期に手作り石けん教室の講師も勤めています

いわゆるSNSで #丁寧な暮らし」を象徴するような女性

だけど夫の真守(小泉孝太郎)はそっけない

桃子がいくら明るく話しかけても生半可な返事

会話らしい会話も、夜の営みもありません

さらに泊りで出張に出かけるという真守に

浮気していると疑うのは、私たちから見ても当たり前

(桃子は匂いフェチで、ワイシャツの匂いを嗅いでチェック)

そのわりには家に戻ると一応出張土産桃子に渡す

アンテナショップで用意したものかも知れないが 笑

もう一つの日課が、アカウント名「にゃんにゃん22ニャン」の

妊活サイトへの書き込みをチェックすること

そこには「にゃんにゃん22ニャン」の香港への不倫旅行

妊娠、男性が奥さんに別れを切り出すこと

「妻はものわかりがいい」と言っていることが記してありました

当然この投稿は真守の浮気相手がしたものだと思うわけですが

予想通り、突然真守「別れて欲しい」と

「もう無理だ」「君といても楽しくないんだ」と切り出します

桃子は何も聞かなかったのように、毎日のルーティン丁寧な暮らし執着

むしろこれまで以上に甲斐甲斐しく真守に接します

ついに真守は不倫相手が妊娠していること

彼女に会って欲しいことを伝えます

「向こうは、産むって言ってるんだ!」

この真守の「彼女が勝手に決めたこと」というニュアンスが

桃子の「正式な妻としての闘争心に火を付ける

不倫相手と本妻を面会させるって、本当にあるかどうか疑問ですが(笑)

現れた奈央(馬場ふみか)はいかにも真面目そうで清楚な女性

桃子の真守に対する、これでもかという妻らしい態度にも

びくびくと様子を伺うだけ

人の旦那を奪うどんなアバズレかと思っていたら、教師だという

こういうのが、男が守ってあげたくなるタイプなんだ

桃子の前では「子どもが欲しい」という責任をすべて奈央に押し付けていたくせに

奈央が目の前に現れたとたん桃子の手をふりほどく

そうして真守は家を出て行ってしまいます

しかもライフワークだった手作り石けん教室の中止が伝えられ

元上司に再就職を頼みに行くものの、スルーされてしまう

ついていない、悪いこととは続くもの

庭(家庭菜園)で出来上がった大きなスイカを持ち

奈央のアパートに向かう桃子

「初瀬真守の家内です」 と、最初は桃子がマウントを取り

アパートに上がり込みますが

奈央も負けじと「真守さんから、おばさんだって聞いてました」

「真守さんは(あなたではなく)私の子供なら欲しいと言っています

逆にマウントを取られてしまいます

もう若くなく、不妊に悩む桃子の存在意義を完全否定

そのうえ何も余計なものはないシンプルな部屋に

自分が真守のために長年築き上げてきた

「#丁寧な暮らし」とはいったい何だったのだろう

スイカを置いてアパートから出て行く桃子

そのとき玄関から大きな音がして

もしや妊婦が倒れたのではと桃子が駆け付けると

それは奈央が玄関にスイカを投げつけた音でした

男にはいかにも清楚で弱々しい女だと思い込ませておいて

実はこの女相当したたかなもの(笑)

照子から「真守は魚が好きだから」と大量に貰った魚(カマス)

庭に投げ捨てられ

ホームセンターでチェーンソーを買い

ぴーちゃんの鳴き声が聞こえると

いきなり自宅の床に穴をあける桃子

そこに真守が荷物を取りに帰って来て

姑の照子との会話を床下で聞いてしまう桃子

「サオリさんと離婚する必要はなかった」

「同じ事になるのでは」と心配します

「今回は安定期に入ったから大丈夫」と答える真守

「にゃんにゃん22ニャン」のアカウントの書き込みは

奈央ではなく、かっての桃子だったのです

不倫旅行したのも、妊娠したのも桃子

だけど流産してしまい、それを隠して真守と入籍したことがわかります

床下の地中から缶のお菓子箱を掘り出し

中にしまってあったベビー服を抱きしめる桃子

ぴーちゃんは行方不明の子猫ではなく

桃子が流産した赤ちゃんのことだったのです

桃子の辛さを察した照子は(真守は照子のことも捨てて、もう戻らないだろう)

母屋を処分して(その資金で)施設に入ろうと思う

はなれは桃子が住むなり売るなり自由にしていいことを伝えます

これまで尽くしてくれた桃子へ、彼女がしてあげれるせめてもの謝罪なのでしょう

 

いわゆる因果応報ものだけど

でも、一番悪いのは旦那だよな

奈央がもし死産したり、障害児が産まれたら

また不倫してよその女を孕ませるのだろうか

ラスト、なにもかもふっきれた桃子は

はなれにひとり住み続けることを決意

呑気に縁側でガリガリ君を食べながら

母屋が取り壊されていくのを眺めていたのでした

 

ちなみに、桃子が離婚届に判を押したかどうかはわかりません(笑)



【解説】映画.COMより

「悪人」「怒り」などで知られる作家・吉田修一の同名小説を江口のりこ主演で映画化し、愛のいびつな衝動と暴走を緊迫感あふれるタッチで描いたヒューマンサスペンス。
初瀬桃子は夫・真守とともに、真守の実家の敷地内に建つ離れで暮らしている。桃子は義母・照子から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うかのように、石鹸教室の講師やセンスある装い、手の込んだ献立といった“丁寧な暮らし”に勤しんで日々を充実させていた。そんな中、近隣のゴミ捨て場で不審火が相次いだり、愛猫が行方不明になったり、匿名の人物による不気味な不倫アカウントが表示されるようになったりと、桃子の日常が少しずつ乱れはじめる。
徐々に平穏を失っていく主人公・桃子を江口が演じ、夫・真守を小泉孝太郎、真守の母・照子を風吹ジュン、真守の不倫相手・奈央を馬場ふみかが演じた。監督は「おじいちゃん、死んじゃったって。」「さんかく窓の外側は夜」の森ガキ侑大。

2024年製作/105分/G/日本
配給:東京テアトル

 

爆弾(2025)

「あなた、昔から周りの人間がバカに見えて仕方なかったでしょう?」 

 

原作は「このミステリーがすごい!2023年版」で1位を獲得した

呉勝浩(ご かつひろ)の同名小説

 

東京都中野区の野方警察署に、自販機を蹴り壊し酒屋店主を殴った酔っ払い

自称「スズキ タゴサク」(佐藤二朗)が連行され

若手の刑事、等々力(染谷将太)と伊勢(寛一郎)が取り調べを行うことになります

酒屋店主が自販機の弁償と治療費を払えば示談すると言っていることを伝えると

全く記憶がないといいうスズキは、その金を等々力に立て替えて欲しいと頼みます

等々力がそれはできないと言うと、あなたが気に入ったと

自分は「霊感が働く」と、11時に秋葉原辺りで事件が起こることを予言

等々力も伊勢もスズキのたわ言だと信じませんでしたが、秋葉原で本当に爆破が起こり

さらにスズキは「霊感によるとあと三度、次は一時間後に爆発する」と予言

12時きっかり、東京ドームシティでも爆発が起こり

スズキは単なる障害と器物破損から、連続爆破事件の重要参考人になります

ツカミはばっちり(笑)

いきなりクライマックス

 

ただ取調室の苛立つ雰囲気に比べて

市街の爆発はありきたりのパニックシーンでつまらない

もう少し重々しくしてもよかったんじゃないでしょうか(笑)

そこで 等々力はスズキの取り調べから身元捜査に回され

警視庁捜査一課特殊犯捜査課から清宮渡部篤郎)と

類家(山田裕貴)がやってきます

 

その間、伊勢とふたりきりになったスズキは

中学時代、想いを寄せていた「みのりちゃん」という少女がいたことを話します

時々みのりちゃんのあとをつけていたスズキですが

ある雪の日にみのりちゃんは教師によって屈辱され殺されてしまい

しかも犯人だと疑われたのは自分だった

だったら自分が本当に犯っておけばよかったと

伊勢と自分の不幸だった過去の秘密を共有するのです

新たにやって来た清宮には「九つの尻尾」 というゲームを持ち掛けます

「あなたの心の形を当てる」 ため9つの質問に答えてもらうというもの

 

あの坂道のこと、覚えてますか?
そこで子どもがトラックに跳ねられた、あなたは思いましたよね?「汚い」って

1問目、「タイガース」 「体が牛で顔が人間」

あの辺りは坂が多いんだよね

重い荷物を積んだバイクが、エンジンを唸らせて坂を登っていく

類家は「体が牛で顔が人間」は(件/くだん)、 虎は(寅の刻=午後4時)

その場所が九段家の新聞配達店であると推測

一斉に捜査官が九段下の新聞店全てに聞き込み開始し

スズキの顔写真を見た新聞販売店の従業員が

数日前に面接に来た(運転免許がないので断った)男だと言います

その販売店のバイクから爆発物を発見

さらにパトロール刑事の矢吹坂東龍汰)と

バディで後輩の倖田沙良伊藤沙莉)通称サラダが

すでに配達に出たバイクを追いかけ

矢吹のとっさの判断で配達員から奪ったバイクを広場に乗り捨てます

刑事になりたい矢吹のやっちゃった行為でしたが

バイクは爆破、配達員の命を救ったのでした

スズキの話に爆弾のありかが隠されていることを信じるしかなくなった清宮

2問目は、さらに坂道は続き、あなたは中学生になり

クラスにいた「カトウくん」のこと覚えてますか?

彼は毎日教室の隅で生きた魚が陸に上げられたみたいに助けを求めていた

ある日、カトウくんは校舎から飛び降りて自殺してしまいます

あなたはあの時、どうして彼を見殺しにしたんですか?

 

3問目は、さらにあなたは成長し

あの坂道であなたの隣に立ってあなたの手を握った男

その人の名前は、ハセベユウコウですか?

「ハセベユウコウ」の名前が出ると現場が騒ぎ出し

後輩刑事の井筒(遠藤史也)とスズキの身元捜査をしていた等々力のもとに

ハセベユウコウこと元刑事の長谷部有孔(加藤雅也)の

妻に会いに行くよう連絡が入ります

長谷部は仕事も優秀で組織からの信頼も厚かったにもかかわらず

倫理的な問題で週刊誌から叩かれ鉄道自殺したとき

署内で唯一、長谷部をかばったのは等々力だけでした

「気持ちはわかる」と

学校教師による盗撮

カトリック界などでの聖職者の小児愛

芸能人、スポーツ界や自衛隊員によるセクハラ

歪んだ欲望というものは決して許されないものではありません

しかも警察官もですが、人々の見本であるべき職業なのです

 

長谷部には誰もいない事件現場で自慰行為をしてしまうという性癖がありました

それを偶然見てしまった等々力は、長谷部を責めるのではなく

心療内科にカウンセリングに行くよう勧めます

しかしあろうことか、カウンセラーがわずかな現金欲しさに

週刊誌に現職刑事のありえない行為とリークしてしまいます

 

後でスズキとのやりとりで類家はスズキに

「ぶ厚いポークステーキ丼を食べて、泥のように眠る」と語りますが

誰にだって背徳的な行為は必要なのです

ただ類家のように理性を優先できる人間ばかりじゃない

だから等々力は長谷部の全く理解されない行為に対しても

自分はやらないけれど「気持ちはわかる」と答えたのだと思います

そうして等々力が長谷部の妻、石川あすか夏川結衣)の住む家を訪ねると

あすかは淡々と長谷部の鉄道自殺による請求により生活が困窮したことや

いまはどうにか自分と同じヘアメイクの仕事をしている

娘の美海中田青渚)のおかげで、こうして生活出来ているものの

長谷部が週刊誌の記事は本当だと打ち明けたことで一家は離散

誹謗中傷により長男の辰馬(片岡千之助)は大学に通えなくなり

今では行方不明だと打ち明けます

 

次のターゲットはどこかと焦る清宮に、4問目

スズキはせっかく気持ちよく寝てたのに、子どもの声がうるさくて邪魔をされた

たぶん近くに保育園か幼稚園があるのだろうと

「 夜が繰り返して(だいだい)色になる 」

「午(うま)は静かに食事をしている」というふたつのヒントを出します

清宮と類家が取調室を出て行き

再び伊勢とふたりきりになったスズキは

スマホを忘れた場所を思いだしたと言います

あなたにだけ教えるから恥ずかしい中身を消してほしいと

スズキの誘導によってスマホを見つけたという手柄を立てたい

事件解決にむけて成果を出したいと思わず焦ってしまった伊勢は矢吹に連絡を取り

極秘でスズキの言う喫茶店にスマホを取りに行くよう頼みます

 

類家は「まだパズルのピースが足りない」と清宮に訴えますが

オマエなら出来るという催促

「夜が繰り返す」と橙の「木」で、場所は代々木

午(うま)は十二支の方位(南)で

爆弾が仕掛けられているのは代々木の南側にある保育園か幼稚園と推測

対象となる全ての保育園と幼稚園に捜査が入ります

類家の不安は的中し、爆破が起こったのは同じ代々木でも代々木公園のほう

午(うま)は方位の南ではなく「午の刻」(11時~13時)のことだったのです

多くのホームレスが爆破により命を落とし

取調室に戻った清宮にスズキは

 

6問、「あなたは今、ほっとしましたか?」と問います

死んだのは子どもたちではなく

ホームレスで良かったと思っているんじゃないですか?

スズキが清宮に突きつけた、命の選別、人間の選別

カッとなった清宮は彼を指さしたスズキの人差し指をへし折ってしまいます

「これがあなたの心の形」だと笑うスズキ

清宮の失態を受けて、代わりに類家がスズキの取り調べに当たることになります

高い知能を持ち、優れた人間観察の持ち主同士の直接対決



矢吹の不審な行動に気付いたサラダは強引に彼に同行し

ふたりは喫茶店のマスターから壊れたスマホを受け取りカバーを外すと

住所の書かれたシールが貼ってあるのを発見

伊勢と同じように手柄を立てたい矢吹はその建物に許可なく侵入すると

服毒死したと思われるふたりの男の遺体に

別の部屋では長谷部が独白する動画が繰り返しプロジェクターで映しだされていて

その近くにビニール袋を被り椅子に座った若い男の遺体を見つけるのでした

椅子に近寄った矢吹は、床に仕掛けられていた爆弾のスイッチを踏んでしまい

その部屋にサラダが入って来ます

長谷部の行方不明になっていた石川辰馬の現在の住所がわかったという

連絡が等々力と井筒のもとに入り現場に到着したと同時に

矢吹がサラダをかばおうとしたため遺体が爆発

矢吹の左足は吹っ飛び意識不明の重体

 

スマホといい、「みのりちゃん」の話といい

伊勢はスズキに飲まれてしまったことを類家に指摘されたのでした

さらにインターネット上のサイトやSNSで一斉

スズキの「全て殺します」という動画が流れます

「子どもは殺します」(背が低いから)「妊婦は殺します」(面積が広いから

「老人は殺します」(反応が鈍い)「善人は殺します」(おせっかいだから)

面白が若者たちによって動画は拡散され

次の動画が流れると「いいね」や「再生回数」が一定数に達したことで

東京のあちこちで爆弾が起動し、野方警察署以外は危険だといいます

全ての環状線の駅は封鎖され

野方警察署に大勢の人々が助けを求め集まってきます

 

7問、類家さん、あんた。俺に、死んでほしいと思ってる?

それとも、生きててほしいと思ってる?

「死んでほしい」

8問、今ここで俺を殺せるボタンがあったら、それを押しますか?

「いいえ、生きて裁きを受けるべきです」

そこに矢吹を思うあまり、取調室に飛び込んできたサラダ

スズキに銃を向けようとしますが、清宮や伊勢に取り押さえられ

冷静さを取り戻すものの、責任は免れない

しかし普段は全く使えない刑事課長の鶴久(正名僕蔵)は

人手不足を理由にサラダの失態を黙認

野方警察署に群がった人々の警備にあたるよう命じるのでした

 

等々力らの聞き込みや警察の捜査により

石川辰馬は理系大学で時限爆弾を作る知識がありえたこと

辰馬の爆破計画に共感したシェアハウス仲間の山脇と梶は

それぞれ新聞配達員自動販売機の飲料補充員をしていたことが判明

元シェアハウスの住民だったという若者は

大家に内緒で新たにホームレスも住まわせることをきっかけに

係わりを絶ったことを評言

類家は長谷部が環状線(阿佐ヶ谷駅)で鉄道自殺をはかったことから

逆恨みした石川辰馬により環状線の駅が狙われ

自動販売機の飲料に爆弾が仕掛けられていると予測

 

自動販売機を調べるよう指示を出しますが

莫大な経済的損失になるという上層部からの圧力で

警視庁捜査一課長の杉本により封鎖解除断行されてしまいます

駅構内に人々が押し寄せ

飲み物を買おうとした人が自販機のボタンを押した瞬間、自販機が爆発

環状線の5駅で多くの犠牲者が出てしまいます

 

爆発のニュースが取調室にも伝わり、一時騒然となりますが

類家とスズキだけは冷静

 

スズキの身柄が移送されることになり

第9問、「これから、一生この俺を覚えててくれる?」

「いいえ、忘れます」

するとスズキは「これで終わりだと思いましたか?」と

最後の爆弾があることを匂わせます

(製作された爆弾は20個だが、爆発したのは19個だったらしい)

類家は環状線の爆発について

秋葉原、東京ドーム、九段下、代々木のようにスズキからのヒントは一切出ていない

もしかして環状線に仕掛けられた爆発物は別人によるもので

スズキも詳細は知らなかったのではないか

スズキ、長谷部、等々力、野球、ホームレス、シェアハウス

石川あすか、辰馬の関係を

これまでのスズキとの会話から読み取ろうとする

 

類家の予想はこう

スズキがかって知り合ったというホームレスは石川あすかのこと

ふたりは親しくなり

ドラゴンズファンだったあすかからドラゴンズの野球をもらう

やがてあすかを息子の辰馬がシェアハウスに迎え入れ

辰馬、山脇、梶との同居生活がはじまりますが

山脇と梶が死んでいるのを発見

辰馬から環状線の無差別テロを知らされたあすかは思わず辰馬を刺殺

あすかはスズキに自分と辰馬の身代わりになってほしいと

助けを求めに行ったのではないのかと

スズキは辰馬の殺害と、環状線の爆破を自分のストーリーにするため

秋葉原、東京ドーム、九段下、代々木の爆破を計画

あすかの犯行を隠すため、警察に辰馬の遺体を見つけさせ爆破するよう細工

ここにきて、東出圭吾の「容疑者Xの献身」みたいになってきましたが(笑)

 

類家は最後の爆弾はあすかが持っていると予測

そして身の安全を求め野方警察署に殺到する人々のなかに

あすかがいることをサラダが発見

サラダが署内にあすかを案内すると、彼女のトートバックの中には時限爆弾

あすかは「すべてを終わらせて」と暴れますが

回収された爆弾は不発弾、フェイクでした

 

類家の、もしかしてあすかの本当の気持ちは

スズキから自首するよう言われたかったんじゃないだろうかという問いに

スズキはかすかに表情を変えます

 

本庁警視庁へと移送されるスズキを見送る等々力に

スズキが「あんたも俺と同じだ」 と声を掛けると

等々力は「俺は、あんたのようにはならない」と無表情に答えたのでした

ラスト、スズキは一貫して「霊感・記憶喪失・催眠」を主張

あすかも、スズキのことなど全く知らない

事件は未解決のまま

「最後の爆弾は、まだ見つかっていない」というナレーションで締めくくられます

 

呉勝浩による続編「法廷占拠 爆弾2」では

スズキの身元や、あすかとの関係の真実の明かされると思いきや

そうでもなく(笑)

レクター博士よろしく、スズキタゴサクのシリーズものになりそうそうです





【解説】映画.COMより

「このミステリーがすごい!2023年版」で1位を獲得した呉勝浩の同名ベストセラー小説を実写映画化したリアルタイムサスペンス。東京のどこかに“爆発予定の爆弾”が仕掛けられたという前代未聞の事態のなか、取調室での攻防と都内各地での爆弾捜索の行方を同時進行で描き出す。
酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。やがてその言葉通りに都内で爆発が起こり、スズキはこの後も1時間おきに3回爆発すると言う。スズキは尋問をのらりくらりとかわしながら、爆弾に関する謎めいたクイズを出し、刑事たちを翻弄していくが……。
スズキとの交渉に挑む刑事・類家役で山田裕貴が主演を務め、スズキタゴサク役で佐藤二朗、爆弾捜索に奔走する巡査・倖田役で伊藤沙莉、スズキの過去を探る刑事・等々力役で染谷将太、類家の上司・清宮役で渡部篤郎、倖田巡査の相棒・矢吹役で坂東龍汰、スズキの見張り役を務める刑事・伊勢役で寛一郎が共演。「キャラクター」「帝一の國」の永井聡監督がメガホンをとった。ロックバンド「エレファントカシマシ」の宮本浩次が主題歌を担当。

2025年製作/137分/PG12/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画

 

シンシン/SING SING(2023)

原題はSing Sing」(シンシン刑務所)

動物のミュージカルアニメの人間の実写版かと思ったら全違った(笑)

あっちは「SING/シング」でこっちは「シンシン/SING SING」

紛らわしすぎる(勘違いするのはオマエだけ)

 

シンシン(Sing Sing Correctional Facility)とはニューヨーク州にある

高いフェンス監視カメラ高度なセキュリティシステム

訪問者の面会にも厳格な制限がされているという

最高度管理警備レベル(maximum security)の刑務所で

極めて危険な犯罪者や逃亡のリスクが高い受刑者を収容

そこで受刑者たちの更生プログラムのひとつとして行われていのがRTA

RTAとは1996年にシンシン刑務所から始まった

Rehabilitation Through the Arts(芸術による更生プログラム)の略称で

舞台演劇、ダンス、音楽、執筆などを通じて自分自身を見つめ直すというもの

実際にアメリカでは受刑者の出所後の平均再犯率が60%以上なのに対し

RTA卒業生の再犯率は3~5%未満という高い効果をもたらしているそうです

本作の主演でも、主役のコールマン・ドミンゴ

マイクマイク役のショーン・サン・ホセ

演出家ブレント役のポール・レイシー の3人以外

受刑者を演じた全員がこのRTA卒業生ということ

全くプロの俳優に引けを取らないと思ったのもその通り

シンシン刑務所で開催されるRTAの舞台演劇は

「芸術的な質」においても非常にレベルが高く

 

RTA卒業生による公演も不定期に行われ

カーネギーホールやブロードウェイという大舞台でも

チャリティ公演するという実績があり

本作でも実際のRTA卒業生であるディヴァインGの脚本と

助演のクラレンス・マクリンが数々の映画賞でノミネートや受賞

A24的には「毒」や「奇抜さ」が控えめですが(笑)

「誠実で道徳的」な制作姿勢が高く評価されたそうです

シンシン刑務所のRTAで団員のひとりが出所することになり

リーダー的な存在で、主に脚本を担当するジョンこと

通称「ディヴァイン・G」(コールマン・ドミンゴ)を中心に

新たに団員を募集(応募者はとても多い)面接することにします

そのなかのひとりが、ヤード・バンディット(広場の野盗)として恐れられてる

シンシンいち暴力的でやっかいものクラレンスこと通称「ディヴァイン・アイ」

新人の白人青年に「偽物の薬(アスピリン)を売りつけた」と因縁をつけ

暴力で支配し金を脅し取るような元ギャング(売人)で

刑務所のヤード(広場)でも薬物の取引を支配していました

冷やかし半分のような態度で面接に現れたディヴァイン・アイに

ディヴァイン・Gが応募した理由を尋ねると

「ここでは何者にもなれる」と答えに

ディヴァイン・Gはなぜか不思議な可能性を感じ

彼を新たなメンバーに加えることに決定します

そして新劇の打ち合わせのとき

ディヴァイン・Gはアイディアはあるがまだ脚本は未完成だと言うと

これまでシェイクスピアなど古典劇ばかり演じてきたことに対し

ディヴァイン・アイは、もっとわかりやすく現代的で「面白い」

コメディがいいと提案

それには団員も納得、それぞれ意見を出し合うことになると

「ハムレット」や「リア王」の正統派から

「グラディエーター」「ロビン・フッド」「西部劇」のようなアクション

「エルム街の悪夢」というホラーまで出てきます

どうにか、みんなのアイディアを生かしたい

そのためにはどうしたらいい

タイムトラベルものにしようということになります

一方でGは脚本作成のほかにも悩みを抱えていました

彼は無実(冤罪)の証明と仮釈放申請をしていましたが全て却下

それでも諦め切れず申請を続けていて

やがて少しは打ち解けてきたアイから

妻と別れ、息子が自分と同じように道を外れてしまったことで

後悔していることを聞かされると

彼にも仮釈放申請することを勧めます

こんな自分に仮釈放は無理だというアイに

やってみなければわからない、書類は準備するからと

でもアイはGがここまで親切にしてくれるのか理解できません

余計なおせっかいだと、舞台の練習までサボるようになるアイ

そんなとき、出所したRTA卒業生が訪問しにきてくれて

外の世界はどうだと聞かれると

「自由になってからは、しばらくバラ色」だったと語ります

だけど世間からの偏見の眼差しは強く

励ましになったのは愛車と、偶然飼うことになった犬だけ

しかしパートナーだった愛犬が死んでしまい

その時本当の心の傷みというものを知り、人間らしさ取り戻せたと語ります

そしてGの仮釈放申請の聴聞会

GはRTAがいかに更生に役だったかを真摯に訴えますが

審査役は、それも演劇プログラムで学んだ演技ではないのかと答えます

一方、Gから書類を受けとったアイは仮釈放の申請が通過

出所することが決定します

 

アイを救済できたことは良かったけれど

常に善人で模範的であることを心がけてきた自分はこの先も刑務所暮らし

無実の証拠もあるのに、警察は真犯人も捕まえようとしない

そして最終リハーサルの日、ついに我慢の限界

こんなプログラムは無意味だと、自暴自棄になり

仲間の助言も拒絶するほど荒、殻に閉じこもってしまったG

そんなGにアイはかっての自分の姿を見つけ

Gが教えてくれた「演劇は自由だ」「魂は鉄格子の外にある」という言葉を

そのままGにぶつけます

Gが多くの受刑者に希望を与えてきたこと

こんな俺でも出所できる可能性を教えてくれたこと

「俺が外に出るときは、お前の魂も一緒に連れて行く」こと

アイの励ましにより、Gは立ち直り

無事タイムトラベル・コメディ劇の発表の日を迎えると

(女性スタッフなどはRTAに協力しているプロの俳優やボランティア

舞台は観客の笑いの渦に包まれたのでした

アイの出所後、しばらくしてGのもとにも仮釈放の通知が届きます

なんと審査は通っていたのです

そうして出所の日、Gがシンシンを出ると

スーツ姿のアイが満面の笑顔で待っていて

ピカピカの愛車に「乗りなよ」 と声を掛けると

(まっとうな仕事(俳優)で成功したことがわかる)

Gはアイに「遅かったじゃないか」と皮肉るのでした

(まるで自分のほうが待っていたような態度をすることで精神的タフさを示している)

その後Gは、殺人罪の冤罪が公式に認められ、完全な無実として釈放

シンシンで書き始めた小説を出版し作家として成功

 

アイは俳優業の傍ら、自身の経験(ギャングからの転身を生かし

恵まれない環境にいる若者たちのためのカウンセリングや教育支援

RTAの理事会メンバーとして後輩たちの活動も支えているそうです

 

 

【解説】映画.COMより

米ニューヨークで最も厳重なセキュリティが施されたシンシン刑務所で行われている収監者更生プログラムの舞台演劇を題材に、無実の罪で収監された男と収監者たちとの友情を描いた実話を映画化。主演を、「ラスティン ワシントンの『あの日』を作った男」でアカデミー賞にノミネートされたコールマン・ドミンゴが務めた。
無実の罪で収監された男、ディヴァインGは、刑務所内更生プログラムである「舞台演劇」のグループに所属し、収監者仲間たちと日々演劇に取り組むことで、わずかながらの生きる希望を見いだしていた。そんなある日、刑務所で一番の悪人として恐れられている男、通称ディヴァイン・アイことクラレンス・マクリンが演劇グループに参加することに。そんな中で演劇グループは、次の公演に向けた新たな演目の準備に取り掛かるが……。
主人公ディヴァインGを演じたコールマン・ドミンゴは、第97回アカデミー主演男優賞にノミネートされ、「ラスティン ワシントンの『あの日』を作った男」に続いて2度目の主演男優賞ノミネートを果たした。そのほかのキャストには、シンシン刑務所の元収監者で、舞台演劇プログラムの卒業生及び関係者である俳優たちが多数参加している。監督は「ザ・ボーダーライン 合衆国国境警備隊」などの作品を手がけてきたグレッグ・クウェダー。

2023年製作/107分/G/アメリカ
原題または英題:Sing Sing
配給:ギャガ

 

この世に私の居場所なんてない(2017)

原題は「I Don't Feel at Home in This World Anymore

(私はもうこの世界に家(安らぎや、居場所)を感じない)

ゴスペル曲の「This World Is Not My Home」(この世はわが家にあらず)に由来
(この世は仮の住まいに過ぎず居心地が悪くて当然という死生観を歌ったもの)

こんなタイトルなので、どんな落ち込む映画かと思ったのですが(笑)

予想に反して面白かったです

特に、最近なにもかもうまくいかなくてウンザリ~とか思ってる人が

プチ気分転換するのにおススメ

盗まれたノートパソコンと銀食器を取り戻そうとした女性が

ひょんなことから知り合った中年男子と犯人捜しをしにいくと

とんでもないギャングの抗争に巻き込まれてしまう・・という

初期のタランティーノやコーエン兄弟作品みたいな

スプラッター&オフビート・コメディをもっとライトにした感じ

おっさんなのに中二病全開のイライジャ・ウッドがとにかく最高で(笑)

最初はちょいキモな変人にしか見えないけど、意外にも正義感と道徳心が強く

感情にまかせて暴走するメラニー・リンスキーをついつい助けてしまう

こういう見せ方って外国映画は巧いですよね

だんだんとカッコよく見えてくるんだから不思議(笑)

看護助手として働くルース(メラニー・リンスキー)

死に際で危篤の高齢のご婦人が、突然テレビから流れるニュースの画面に向かい

ニガー」(人種差別的罵倒)「アバズレを殺せ」(性的な暴言)など

散々吐き散らしながら臨終するという場面に立ち合ってしまい

人間の本音に絶望を感じてしまいます

仕事帰りには、行きつけのバーのカウンターでお気に入りのサスペンス本

「The Red Rose of Althea」(架空の本)を読んでいると

男性が隣の席に座り「この本面白いよね」と声を掛けてきて

当然これはナンパかと思うわけですが

なんと男は「最後、彼女が死ぬのは悲しいけどね」と結末をネタバレ

注文した飲み物を受け取ると、相方のいるテーブルに戻って行きます

(この「最低男」を演じているのは、監督のメイコン・ブレア自身というセンス)

気を取り直してバドワイザー(好きなビール)を注文すると

バーテンダーから「バドはない」と冷たくあしらわれてしまう

仕方なく違うビールを頼んだものの、疎外感は拭いきれない

 

さらに平気で道路にゴミを捨てる通行人に苛立ちをつのらせたルースは

これまで、ずっとずっと「無神経な人間たち」に大人しく我慢してきたけれど

もうこれ以上「他人の無作法を許さない」ことを決意

家の庭に散歩をしている犬が糞をしているのを見たルースは

そのまま立ち去ろうとしている飼い主に激怒し糞を投げつけると

カマっぽい飼い主の男はイヤホンをしていたので

(大音量でヘヴィメタを聞くのが好き)気付かなかったと

大急ぎで犬の糞を拾うと逃げるように立ち去ります

そんなとき、自分の唯一の居場所である住居に空き巣が入り

ノートパソコンとおばあちゃんの形見の銀食器のセットが盗まれてしまいます

警察に相談したものの、全く動こうとしない警官(ウィリアムズ刑事)にブチギレ

自分でパソコンと銀食器を取り戻すしかないと考えたルースは

近所に聞き込みをするものの、誰も知らぬ存ぜぬ

最後に辿り着いたのが犬の糞男のトニーでした

パソコンと祖母の形見を取り戻したいというルースに

(忍者の手裏剣と、カンフーのヌンチャクヲタクの)トニーの

「悪党を成敗」するという正義感に火がつく

愛犬を連れ捜査に加わることにするトニー

微妙だけど、今のところ頼れるのはトニーしかいない

「パソコンを探すアプリ」を頼りに持ち主の住居を突き止め

突撃したふたりでしたが、そこにいた若者(実行犯と仲間たち)に

「パソコンはもうここにはない、売った」と(嘘を)言われ

質屋の「イライザ・ウッズ」に辿り着くと

(イライジャ・ウッドをおちょくっている)

パソコンではなく銀食器のほうを見つけます

再び警察に連絡するものの「盗品だと証明するものがなければ動けない」

またもや塩対応

ルースは、この銀食器は盗まれたもので

食器に刻まれている刻印はわが家の「家紋」で「私のもの」だと主張

店主は「金を払わないなら渡せない」と突っぱねますが

「誰が売りにきたのかという追及すると

車のナンバーからクリスチャン・ルマックという青年が浮かび上がります

トニーがネットでクリスチャンの住所を調べ上げ、彼の自宅に向うと

母親(正確には継母)のメレディスに息子は泥棒だと訴えます

メレディスはバカ息子の不祥事に慣れた様子で気にすることもなく

執事にお茶や軽食を出させルースをおもてなしします

そこに家主であるクリス(クリスチャン父親)がボディーガードと帰宅

「息子さんが私のパソコンと銀食器を盗んだ」と証拠を突きつけても

クリスは「それがどうした? 」と鼻で笑うだけ

ルースは腹いせに高価そうな花瓶をひっくり返して玄関から出ますが

窓越しに盗まれた「自分のパソコン」を発見

さらにメレディスと庭師のセサールが親しく(不倫)しているのを目撃

「トイレを貸してほしい」と再び屋敷を訪ね

パソコンを回収したまではいいけれど

まさかの庭に飾られていたトラの置物まで盗んで車に積み込んだことに

トニーをがっかりさせてしまいます

そこからは怒涛の展開で(笑)

トニーに送られ家に戻ったルースは待ち伏せていたクリスチャンに襲われ

(ルースがどこまで知っているか聞き出そうとした)

とっさに彼の喉を突いてしまうと、クリスチャンは呼吸困難になりパニック

路上に飛び出すとバスにはねられ死亡してしまいます

強盗団のボス、マーシャルと部下のデズはルース誘拐

クリスが金庫に隠し持っている大金を奪うため

クリスチャンの代わりに交渉役になるよう命令

再び屋敷を訪れたルースを招き入れたメリディスと庭師は

銃を突きつけられクリスを呼ぶよう命じられます

しかしクリスはバカ息子が現金を盗みに来ることを予測

すでに現金は移動したとマーシャル説明しますが

マーシャルはクリスの片手を撃ち抜いて脅し、執事と庭師がマーシャルに加担

無理やり金庫を開けさせたものの、クリスの言ったとおり金庫は空っぽ

そこから無駄に銃撃戦が起こり(笑)

用済みとなったクリスは射殺

信頼していた執事(デズ)と、愛人の庭師(セサール)が

実は強盗団の一味だったと知ったメリディスは精神が崩壊

そこに、ルースから「緊急連絡用の通知」を受け取ったトニーが窓を突き破って登場

モーニングスターで強盗団に対抗し

(ウィリアムズ刑事の捜査やクリスチャンの事故死による家宅捜査で)

警察が接近していることに気付いたマーシャルは

ルースとトニーを車に押し込み森に逃走

しかし車がぬかるみにはまり、 徒歩で移動することなると

マーシャルはルースとトニーを足手まといと決断

デズが銃を構えた瞬間、トニーはルースをかばい胸部を撃たれますが

投げつけたモーニングスターがのセサール顔面に直撃(セサール死亡)

トニーが死んだと絶望し、覚醒したルースは

デズに襲いかかると石で彼女の頭をカチ割り殺害

その後、沼地に逃げようとするマーシャルに石を投げつけると

驚いた蛇(水モカシンという毒ヘビ)に噛まれたマーシャルは

毒が回って動けなくなり沼に沈んでいったのでした

メリディスは警察に無事保護され

死んだと思ったトニーは病院で回復(笑)

パソコンも銀食器も取り戻すことが出来なかったルースが

「何もかもなくなっちゃった」と嘆くと

トニーは「いや、そうでもないよ」

「大切なのは「モノ」より、こうして生きていること」

一緒にいること、友情や絆で結ばれていること」だと伝えたのでした

 

 

【解説】映画.COMより

「ブルー・リベンジ」「グリーンルーム」の俳優メイコン・ブレアが監督・脚本を手掛け、第33回サンダンス映画祭で審査員グランプリを受賞したクライムサスペンス。孤独な女性がふとしたことから恐ろしい犯罪の世界に巻き込まれていく姿を、ブラックユーモアを散りばめながら描く。看護助手として働く平凡な女性ルースは、不運続きの冴えない人生にうんざりしていた。ある日、彼女がひとりで暮らす一軒家に空き巣が入り、ノートパソコンや祖母の形見である銀食器が盗まれてしまう。すぐに警察に通報したものの、刑事は戸締まりを怠ったルースの不注意を指摘するばかりで、まともに捜査してくれない。業を煮やしたルースは、近所に住むマーシャルアーツオタクの青年トニーに協力してもらい、自ら犯人探しに乗り出す。「乙女の祈り」のメラニー・リンスキーが主演を務め、彼女の相棒トニー役をイライジャ・ウッドが演じた。共演に「ドント・ブリーズ」のジェーン・レビ。Netflixで2017年2月24日から配信。

2017年製作/93分/アメリカ
原題または英題:I Don't Feel at Home in This World Anymore
配信:Netflix

 

理想郷(2022)

原題は「As bestas」(ガリシア語で「獣たち」)

2010年、スペインのガリシア州にある村(限界集落)サントアラに

スローライフを求めて移住してきたオランダ人夫婦(映画ではフランス人夫婦)の夫が

近隣の住民と対立し陰湿な嫌がらせの末、行方不明になった事件に着想

 

冒頭、一頭の野生馬を数人の男たちが力づくでねじ伏せたてがみを刈る

「野獣の毛刈り」(ラパ・ダス・ベスタス)というの伝統行事が描かれ

「よそ者」への警告(暴力による排他性)の象徴であることがのちにわかります

田舎って利害が一致すれば、皆が親切でこれほど住みやすい場所はないけど

自分たちの昔からの「土地のルール」「暗黙の掟」を乱そうと者は

村八分にされかねない怖さがありますね

自身もスペイン人である監督のロドリゴ・ソロゴイェンは

野獣の毛刈りの儀式を「美しさと残酷さが同居する、土地の魂」に例え

外部から来た者(新しい価値観や生活スタイル)が決して踏み込めない

「村の閉鎖性」を表現

「As bestas」のタイトルの由来になったそうです

フランスで教師(教授)をしていたアントワーヌドゥニ・メノーシェ)は

都会でのキャリアを捨て、妻のオルガマリナ・フォイス)とともに

第二の人生として「理想の農業」を営むためスペインに移住します

そこで有機野菜を栽培し、市場で販売すると「美味しい」と評判になり

食にうるさいご婦人たちから次々と注文も入るようになります

 

さらに放置された土地や家を再居住できるよう修復して

過疎化した村に移住者が増えることを目指しています

そんなアントワーヌを疎ましく思っているのが隣人の村人ジャン

最初のうちは、村に唯一ある酒場でアントワーヌに「フランス人」と絡んできて

インテリであることを皮肉ったり、不快な思いをさせるだけでしたが

アントワーヌが風力発電会社へ土地売却することに反対票を投じたため

(村人が反対するのはいいが、よそ者の反対は許せない)

一時金が欲しいジャンは弟のロレンソ(幼少期の事故で知的障害がある)を従えて

執拗にいやがらせをするようになります

日常的に睨みつけたり、不敵な笑みを浮かべたりして恐怖を植え付け

アントワーヌが車で移動する道を自分たちの車で塞ぎ、通らせないようにしたり

アントワーヌの土地に不法侵入して、庭のベンチに放尿

警察に相談するも「話し合いで解決するように」と動いてくれず

アントワーヌは彼らの行動を証拠として記録するため

こっそりビデオカメラで撮影し始めますが

すぐに気づかれ、さらに激怒されてしまいます

ついには畑の井戸に古いバッテリーを投げ込まれ

収穫間際の野菜を台無しにされたうえ

井戸のポンプまで壊され生活に欠かせない水を断たれてしまいます

ビデオカメラを持ちジャンの家に抗議しに行くアントワーヌ

ジャンに風力発電に反対した理由を

環境破壊(巨大な風車が立ち並ぶことによる駆動音景観破壊

企業が提示した土地の買収価格が不当に低いうえ

利益は全部ノルウェーのエネルギー企業にもっていかれることを訴えます

さらにジャンの望むよう村から出て行くにも

野菜の収獲が出来きず無一文になり引っ越しが不可能になったと言います



しかしその「正論」がジャンのインテリに対する劣等感に火をつけ

さらに事態を深刻化させてしまいます

ある日、アントワーヌが愛犬を連れて森を散歩していると

それを見つけたジャンとロレンソに尾行され

アントワーヌはビデオカメラを録画にセットし、大木の根元にすと

アントワーヌに襲いかかった兄弟は「野獣の毛刈り」の要領で彼をねじ伏せ

窒息死させたのでした

ここから先の後半は妻オルガの物語になります

アントワーヌが行方不明になって一年

オルガは村で唯一の理解者であるピピの協力もあり

(ジャンの恐ろしさも知っているため立場上は中立的でいる)

有機野菜の栽培を継続

時間ができれば、警察に新たな情報がないか聞き込みに行き

アントワーヌが消息を絶った森で手がかりを探します

そんなオルガを案じてフランスから娘のマリーが訪ねてきます

ジャンとロレンソに父親が殺されたことは確実で

なぜそんな殺人鬼の隣人のいる村に暮らし続けるのか

(ジャンはマリーに対しても厭らしい目つきで見つめてくる)

フランスに帰って孫と一緒に暮らそうと説得するマリー

しかしオルガはマリーの誘いを頑なに拒み、夫の意思を継ぐことを主張

マリーと激しい口喧嘩になってしまいます

(娘が親の反対を押し切りシングルマザーになったことまで批判するのは言い過ぎ)

アントワーヌが生前計画していた羊を飼うことにすると

羊が草を食べることで土地が荒れるのを防ぐ、堆肥は肥料になる)

業者から必要な数の羊を新たな買い手ができたと受け取ることができませんでした

それはジャン兄弟とのトラブルを知った業者が

兄弟が怖い、または彼らに同調し嫌がらせしたものと思われますが

オルガはこの地に住む人々の特性を利用

「売ってくれるまで動かない」 と居座ったうえで

(アントワーヌとは違う正論で)

正当な取り引きとして、今すぐ「現金」で支払うことを約束します

ジャン兄弟の影響力は大きいけれど、目の前の利益には抗えない

オルガは無事注文した数の羊を受け取ることが出来ます

マリーとも和解し、マリーは帰国しますが

その後もアントワーヌを探し続けるオルガ

そしてついにアントワーヌが隠したビデオカメラを発見します

警察に証拠品として提出したもののカメラの損傷は激しく、

メモリーカードを読み込むのは不可能だったことを告げられます

一方で警察は、カメラが見つかった現場周辺を捜索することに同意

オルガはジャン兄弟の家を訪ね、彼らの高齢の母親に

「あなたの息子たちは刑務所に行くことになる」

「そうなれば、この村に残るのはあなたと私の二人だけ」 と告げます

 

ならず者のジャン兄弟が逮捕されれば、恐怖から解放された村の住民は

(オルガと同じように)母親のことも村八分にしかねない

これからは加害者の母と被害者の妻が向き合って生きていくしかない

間もなく警察からアントワーヌの遺体を発見したという知らせが入り

遺体の身元確認のためオルガが警察の車両で警察に向かおうとしていると

息子たちが逮捕され、ひとりトボトボと歩いている母親の姿を見つけるのでした

 

現在は加害者の母親も亡くなり、サントアラに住んでいるのは

亡くなったオランダ人男性マーティンさんの妻

マルゴ・プールさんただひとりだけで

庭で野菜を育てたり羊のチーズを作りながら、静かに暮らしているそうです



【解説】映画.COMより

田舎に移住した夫婦が閉鎖的な村で住民との対立を激化させていく姿を、スペインで実際に起きた事件を基に映画化した心理スリラー。「おもかげ」のロドリゴ・ソロゴイェンが監督・脚本を手がけ、主人公夫婦の夫を中心に描く第1部と、妻を中心にした第2部の2部構成で描く。
フランス人の夫婦アントワーヌとオルガは、スローライフを求めてスペインの山岳地帯にある小さな村に移住する。しかし村人たちは慢性的な貧困問題を抱え、穏やかとは言えない生活を送っていた。隣人の兄弟は新参者の夫婦を嫌い、彼らへの嫌がらせをエスカレートさせていく。そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトをめぐって夫婦と村人の意見が対立する。
「ジュリアン」のドゥニ・メノーシェが夫アントワーヌ、「私は確信する」のマリナ・フォイスが妻オルガを演じる。2022年・第37回ゴヤ賞で主要9部門を受賞するなど、世界各国で数々の映画賞を受賞。第35回東京国際映画祭では「ザ・ビースト」のタイトルで上映され、東京グランプリ(最優秀作品賞)、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞を受賞。

2022年製作/138分/G/スペイン・フランス合作
原題または英題:As bestas
配給:アンプラグド

 

ハムネット(2025)

原題は「Hamnet」

物語は「イングランドのストラトフォードでは”ハムネット”と”ハムレット”は

同じ名前だと考えられていた」という序文から始まり

「ハムネット」とはシェイクスピアと妻アグネスの長男(第2子)の名前

原作者のマギー・オファーレルはケンブリッジ大学で英文学を学んでいたとき

シェイクスピアが遺言で、アグネスに残したのは

「二番目に良いベッド」だけという有名なエピソードから

ふたりは「不仲」とされていたうえ、アグネスは

「若き天才作家を誘惑し妊娠し、無理やり結婚した教養のない年上女」という

(夫婦にしかわかりあえないことがあるのに)

悪女的なレッテルしか貼られこなかったことに疑問を持ち

「一番良いベッドは来客用」

「二番目に良いベッド」は夫婦用(愛の拠点)だったのではないかと考えます

さらに息子ハムネットの死が軽く扱われていることに憤りを感じ

アグネスとハムネットに存在感を与えたいと思います

しかし子供がいないのに「子を亡くす母親の絶望」を書く覚悟は当時はなく

大学在学中に出会い、後にベストセラー作家となったウィリアム・サトクリフ と結婚

12女をもうけますが、娘のひとりが重度のアレルギーだったため

何度も「娘を失うかもしれない」という恐怖を経験したことと

息子がハムネットが亡くなった年齢の11歳を過ぎたことで

(怖くて書くことができなかった) 執筆を決意

なのでほぼ女性目線、母親目線

視聴者側も、実体験があるかないかで

感動の度合いが変わるのではないかと思います

極端にいえば号泣するか、白けるか(笑)

それでも批評家たちに、ただの「感動ポルノ」と一切言わせなかった

監督のクロエ・ジャオの手腕はたいしたもの

特に配役は見事で、主演のジェシー・バックリーとポール・メスカルもですが

ハムネットを演じたジャコビ・ジュープ君がいい

そして舞台の演劇でハムネット役を演じる若者が

ハムネットの面影をどこか残していて

もしハムネットが生きていて成長していたらと思ってしまう

それもそのはず、彼はジャコビ君の実の兄ノア・ジュープだから(笑)

映画ツウの喜びそうなツボをよく押さえたと思います

1580年、ロンドン郊外にあるストラトフォードという小さな町

鷹匠で薬草医のアグネス(ジェシー・バックリー)が奥深い森で昼寝をしています

さらに彼女には、人の手に触れるだけで

その人の運命や本質を見抜く予知能力がありました

アグネスの家で彼女の異母弟たちにラテン語を教えている

皮手袋職人の息子ウィリアムことウィル(ポール・メルカル)は

森から戻り鷹を操っているアグネスを窓から見ると

彼女のもつミステリアスさに一目惚れ

アグネスに猛烈なアプローチを仕掛けます
最初アグネスは自分の名前を教えることさえ拒みますが

ウィルが「キスをしながら自分の名前を言うよ」と顔を近づけると

彼の手を握り、キスを許しあっけなく名前も教えます

次にウィルが(家庭教師もそっちのけ)アグネスに会いに来た時にはプロポーズ

だけどアグネスは周囲から魔女と恐れられている存在で

身分は違うし、アグネスは26歳でウィルはまだ18歳

周囲の反対はわかりきっている

アグネスはウィルと結婚するためその場で彼を誘惑し

妊娠がわかるとウィルの家に押しかけます

そうして娘のスザンナを産みます

だけどウィルには父親の(商売上のトラブルで作った)借金を返すにも

妻子を養うにも、不器用すぎて家業の手袋作りで稼ぐ力は全くなし

物語を書くことのほうに熱中していて(それもうまく行っているとはいえない)

アグネスはこのままではウィルの才能が押しつぶされてしまう

ロンドンで自分の道を切り開くことを勧めます

ウィルはアグネスと娘スザンナも一緒にロンドンに行くことを望みますが

そのときアグネスは第2子を妊娠していました

さらに薬草医の仕事を続けることや、ペストが蔓延するロンドンより

慣れ親しんだ田舎で暮らすことを選びます

しかしウィルはロンドンに行ってはみたものの

劇団で雇われ役者として主演したり

他の作家の台本を書き直したりという下積み生活

アグネスは長男ハムネットを出産

その後も陣痛が続き、双子だとわかるとあまりの苦しさに死を覚悟します

(自分の死を見届けるのは2人だと予知していたから)

産婆(ひとりはウィルの母親)が妹のジュディスと取り出すと

ジュディスは息をしていませんでした

死産だと直ぐに埋めようという義母に、赤ちゃんを抱かせてと頼むアグネス

するとジュディスは奇跡的に息を吹き替えしたのでした

そうして双子のハムネットとジュディスは11歳になり

まるでふたりでひとりのように成長します

劇作家とし成功し、たまにしか帰って来ないウィルですが

子ども達のことを可愛がり

特にハムネットの面倒はよく見ていました

ハムネットのほうも「芝居をしたい、剣を振るって敵を倒す役をしたい」と

将来は役者になって父親の劇団に入りたい夢を語ります

アグネスもハムネットの手を握り

「あなたは成長し、父親の仕事を助けている」と予知しますが

ウィルがロンドンに戻り彼の不在中に

ジュディスがペストにかかってしまいます

ジュディスは幼いころから身体が弱く

アグネスは常にジュディスの健康状態を気にしていました

絶対ジュディスは死なせないと、薬草医の知識の限りを尽くして治療すると

思わず眠り込んでしまいます

深夜、「家族を守るように」と父親と誓ったハムネットは

死神を欺くためジュディスのベッドに潜り込み

ジュディスの身代わりになることを宣言します

明け方アグネスが目を覚ますと、ジュディスは回復し

あまりの高熱と苦痛のため暴れているハムネットの姿

アグネスが薬草を飲ませようにも受け付けず

もがき苦しむハムネットを見て「もう止めて!」と叫ぶスザンナ

(せめて早く楽にさせてあげたい)

その直後、ハムネットはアグネスの腕になかで息絶えてしまいます

そこにジュディスの危篤の知らせをロンドンで受けたウィルが遅れて到着

ジュディスの無事を知って喜びますが、まさかのハムネットの死を知って愕然とします

ジュディスはハムネットが死んだのは自分のせいだと責めると

アグネスはそうじゃないと慰めますが

ウィルには「あなたはいなかった」と責めまくります

双子の出産の時にも「あなたはいなかった」

ウィルが死ぬときにもあなたはいなかった

あなたの仕事のため、私がひとりで子ども達を育て家庭を守ってきたのに

あなたは今、悲しみのどん底にいる私と娘たちをおいて

公演のためロンドンに戻るという

そもそもウィルを単身ロンドンに行かせたのはアグネスなのですが

なぜウィルひとりをこんなに責めているかというと

(原作では)実はロンドンでウィルは不貞を働いていたんですね

つまり愛人がいたということ

だからウィルはアグネスにどんなに罵倒されても何も言い返せなかったのです

だけどウィルにとってもハムネットを失った苦しみと喪失感は耐えがたいもの

テムズ川の桟橋で入水自殺することを考えたウィルは

「生きるべきか、死ぬべきか」と悩んだ末

ハムネットの死を無駄にしない

(戯曲の中で)「永遠に生き続けさせる」という目的を見つけ

名作「ハムレット」(本作では「ハムネット」)を誕生させます

その後ウィルの成功したお金で、家族は豪邸を持ちますが

アグネスは喜ぶどころか、憎しみが増すばかり

そのうえウィルが「ハムネット」という演劇を発表したと継母から教えられると

死んだ息子の名前まで金儲けの手段にするのかと怒ります

しかし長女のスザンナは「どんな物語か興味」あると言い

アグネスは彼女の理解者であり最も信頼している実弟バーソロミューと

ロンドン公演に向かうことにします

劇場に入ったアグネスは役者が「ハムネット」という名前を言っただけで

許せない!許せない!許せない!

周りの観客の「シーッ!」(静かに)も気にせず

私の息子を侮辱したと喚き散らすという超クレーマーぶりを発揮しながら

押し分け押し分け前に出に出て行く

そしてついに最前列に辿り着いた時

ハムネットの父親(王の亡霊)のウィルが登場する

妹の身代わりとなって死んでしまったハムネット

でも舞台ではハムネットの父親が身代わりとなって殺され

亡霊になってしまったことを察するアグネス

クライマックス、王の亡霊は彼の弟クローディアスが

王位継承者であるハムネットの命も奪おうとしていると陰謀を訴えますが

ハムネットは父親の仇だと(クローディアスにそそのかされた)レアティーズと決闘

レアティーズの毒を塗った剣により、息絶え絶えのなか

ハムネットは「この世に生きながらえて、私の物語を語ってくれ」

「あとのことは、沈黙」と語ると

ハムネットの差し出した手を思わず握りしめるアグネス

同じように大勢の女たちがハムネット手を差し伸べます

その姿を舞台袖から見つめるウィル

ラスト、「Adieu, adieu! Hamlet, remember me.

「さらばさらばハムット私を忘れるな」と語る父親の亡霊(ウィル)

たとえ息子が死んでも、永遠に見守り続けるという父親の誓いに

舞台でハムネットは永遠に生き続けるを知る

それは、かってアグネスが自らハムネットに伝えた

「あなたは成長し、父親の仕事を助けている」という予知そのものでした

 

 

【解説】映画.COMより

「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督が、シェイクスピアの名作戯曲「ハムレット」の誕生の背景にあった悲劇と愛の物語を、フィクションを交えながら描いたドラマ。北アイルランドの作家マギー・オファーレルが2020年に発表し、英女性小説賞と全米批評家協会賞を受賞した同名小説を映画化した。
16世紀イングランドの小さな村。薬草の知識を持ち不思議な力を宿したアグネス・シェイクスピアは、作家としてロンドンで活動する夫ウィリアムが不在のため、3人の子どもたちと暮らしている。ペスト禍のなかで子どもたちを守り奮闘するアグネスだったが、不運にも11歳の息子ハムネットが命を落とし、家族は深い悲しみに包まれる。
「ウーマン・トーキング 私たちの選択」のジェシー・バックリーがアグネス、「aftersun アフターサン」のポール・メスカルがウィリアムを演じ、「奇跡の海」のエミリー・ワトソン、「ブルータリスト」のジョー・アルウィンが共演。スティーブン・スピルバーグとサム・メンデスが製作に名を連ねた。第98回アカデミー賞では作品賞ほか計8部門にノミネートされ、ジェシー・バックリーが主演女優賞を受賞した。

2025年製作/126分/G/イギリス
原題または英題:Hamnet
配給:パルコ