落下の解剖学(2023)

原題はAnatomie d'une chute 」(落下(転落)の解剖

第76回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドール

第81回ゴールデングローブ賞脚本賞と非英語作品賞を受賞

第96回アカデミー賞では作品賞を含む5部門にノミネート

 

人里離れた雪山に立つフランスの山荘で男の転落死体が見つかり

発見者は彼の11歳になる盲目の息子

死因は頭部の殴打による傷

外部からの侵入者はなく、当時家にいた妻に容疑がかけられます

男は妻に殺されたのか、それとも自殺か事故なのか

それから1年以上裁判が繰り返され

ふたりの夫婦生活が明らかになっていくというもの

推定無罪」(1990)のような、どんでん返しもオチもありません(笑)

検察側も弁護側も状況証拠しかなく、最後まで自殺か他殺かわからない

ラスト母親は無罪を勝ち取りますが

 

これは観客が陪審員(裁判官)になったつもりで

物語の中にある伏線を回収していき

「あなたなら有罪にするか、無罪にするか」を

判断させる映画なのだと思いました

女流作家サンドラザンドラ・ヒュラーは女学生から

論文を書くのための取材を受けていると

論文より女学生に興味があるようで、逆に質問を始めます

(後に彼女がバイセクシャルを公表していることがわかる)

 

すると会話を打ち消すほどの大音量の音楽(50Centの「P.I.M.P.」)が流れ

学生は帰ることにし、車に乗り込む姿をベランダから見送ると

屋根裏の改造をしてる夫に(作業中はいつも大音量の音楽をかけるらしい)

執筆すると伝え寝室に籠ります(執筆活動は耳栓をして寝室でするらしい)

視力に障がいのある息子のダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)

愛犬のスヌープ(介助犬だろう)をお風呂に入れ終わると

散歩に行くため家を出ます

 

約1時間後、ダニエルが家に戻ると何かに足がぶつかります

それは倒れている父親のサミュエルで、胸に耳を当てると心音がしません

大声で母親を呼ぶダニエル

すぐにサンドラは警察に通報

やがて捜査がはじまるとサンドラは無実を訴え

古くからの友人であるヴァンサン(スワン・アルロー)に弁護を依頼します

(ヴァンサンは一方的にサンドラに好意を抱いている)

ヴィンセントはサンドラから詳しい情報を聞き出し落下の状況を整理

屋根裏の窓の下には物置小屋があり、そこに頭をぶつけたことが

サミュエルの致命傷だと推定

サンドラは腕にあるアザもサミュエルと争ったものでなく

キッチンのカウンターにぶつけたものだといいます

(後にサミュエルと争ったときのものであると訂正)

 

しかし検察側は、検視の結果致命傷は頭を殴打されたもので

物置の壁に付着した血痕の位置と、物置の屋根に残留物が残っていないことから

他殺であると理論付けます

(弁護士側は雪解けによって屋根に衝突時の血痕が流れたと反論)

ダニエルへの聞き取りも行われ、ダニエルは散歩に行く前

両親に争ってる様子はなく、落ち着いて会話していたと話します

しかし実況見分が行われると

大音響の中、普通の話し声で会話が聞こえないことがわかります

「勘違いだった」「忘れ物をして家に戻った」と評言を変えるダニエル

サンドラはサンドラで夫はうつで通院していて

(うつの薬を止めてからはアスピリンを過剰摂取していた)

酒とアスピリンを飲み自殺しようとしていたことを思い出します

(嘔吐してしまい未遂に終わった)

一方サミュエルの持っていたUSBから、彼が死の前日

夫婦の会話(喧嘩)を録音していたことがわかります

それによってダニエルが盲目になった原因(事故)が

サミュエルのせいだと責任を感じていたこと(妻に責められていたこと)

そのせいでセックスレスになり、サンドラが複数の女性と浮気したこと

フランス語が得意でない妻がフランスの田舎に連れてこられたことへの不満

ダニエルを学校に通わせず勉強を見ることに夫が文句を言い出したこと

夫のアイディアを妻が盗んで執筆し小説を完成させたこと

(夫にアイディアはあるが、小説もペンションも子育ても結果が出せない)

お互いの相手に対するストレスがぶつかりあい

ついには物を投げ、殴り合うような音で録音は終わります

でも妻が夫を殺したという証拠にはならない

夫が自殺するような心境であったとも思えない

陪審員の心情がどう動くか、盲目の息子の評言にかかります

評言台に立つ前日、ダニエルは父親が自殺を図ったという

アスピリンを餌と一緒にスヌープに食べさせます

翌朝ぐったりしたスヌープを見て、マージを呼び泣き叫ぶと

(法務局からダニエルの面倒を見るため派遣された女性)

彼女は冷静にスマホで検索し薬を吐かせます

なんとかスヌープは一命を取り留めましたが

ダニエルは裁判でそのことを評言します

つまり父親が自殺しようとしていたことを

愛犬を使って証明してみせたのです

 

さらに父親から、いつか愛する人が死ぬ準備をしておかなければならない

その後も自分の人生は続く、と伝えられていたことも

無罪を勝ち取ったサンドラは、ヴァンサンら弁護士チームと打ち上げをし

ダニエルが待つ家に帰ると抱擁を交わします

それから眠る準備をすると隣にスヌープがやってくるのでした

 

さて伏線を回収していきましょう(笑)

ダニエルがスヌープをお風呂に入れていて、臭いを確認している

※何かの臭いが付着したということか

※しかも人里離れた雪山で1時間以上散歩するか

 

父親はいつも大音量の音楽かけて作業する

※息子は盲者で音から情報を得なければならないのに、大音量の音楽をかけるか

※本当だとしたら息子のストレスは相当なもの

息子が夫を発見した時、妻は耳栓をして昼寝していたという

※裁判で息子の呼び声に気付いたのは、耳栓が片方はずれていたと評言

※発見時も音楽は大音量で鳴っていたはず

 

夫の死因は金槌のようなもので殴打されたもの

※改装中で現場には金槌などの工具が多くあったはず

息子が失明したのは夫が迎えを怠り事故に遭ったせい

※妻は長年夫を責め続け、息子も父親のせいだと刷り込まれている可能性

 

息子の治療費で金銭が困窮し、ロンドンからフランスの田舎に引っ越し

※息子は負担に感じていたのでは

息子が学校に行かず夫が勉強を見ているのは夫の提案

※息子の将来を思うなら盲学校に通わせ点字等勉強させるべき

 

夫が自殺未遂した嘔吐物を食べた犬が一度死にかけている

介助犬の訓練を受けた犬が拾い食い、まして嘔吐物を食べるか

帰宅した妻に、犬が寄り添う

介助犬が介助者を離れるか(犬のボスは息子ではなく妻か)

 

以上だけでも、妻(または息子)が夫を殺害する動機は十分あります

2度、3度見たらもっと出てくるのでしょうね(笑)

そこでサミュエルの死には④つの原因が考えられると思います

①妻が殺した

②息子が殺した

殺したあと、ふたりで窓枠から夫(体重は85キロ)を放り投げ

息子が散歩に行っている間に妻が証拠隠滅

 

③妻と息子が共謀した

夫に窓枠を覗かせ、後ろから突き落とした

 

④妻と夫の争いを見た、声を聞いた犬が

夫の作業中襲いかかり、逃げようとした夫が誤って転落した

(妻と息子はそのことを知らない)

最後に最も重要なのは、妻が「小説家」であること

 

すべての評言が、私たちが見せられたすべても

母子の作り話を映像化したものに過ぎないのかもしれない

 

よって私の判決も、証拠不十分で無罪

ダメ夫のいない新たな人生を、歩んでほしいと願いました

 

 

【解説】映画.COMより

これが長編4作目となるフランスのジュスティーヌ・トリエ監督が手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞したヒューマンサスペンス。視覚障がいをもつ少年以外は誰も居合わせていなかった雪山の山荘で起きた転落事故を引き金に、死亡した夫と夫殺しの疑惑をかけられた妻のあいだの秘密や嘘が暴かれていき、登場人物の数だけ真実が表れていく様を描いた。
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。
女性監督による史上3作目のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。主人公サンドラ役は「さようなら、トニー・エルドマン」などで知られるドイツ出身のサンドラ・ヒュラー。第96回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされた。

2023年製作/152分/G/フランス
原題:Anatomie d'une chute
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年2月23日





ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(2023)

原題は「The Wonderful Story of Henry Sugar

原作はロアルド・ダールの1977年に発行された同名短編小説

(日本では「ヘンリー・シュガーのわくわくする話」小野章訳 1979年)

絵本や紙芝居のような、定点映像な構図

ウェス・アンダーソンらしいキュートでポップなビジュアル

お洒落な色彩

作者のロアルド・ダールレイフ・ファインズ)が

不思議な力を身につけたヘンリーの物語を語っていきますが

登場人物たちは皆、無表情で人形のようです

物語に何の起伏もなく、なんのこっちゃなのですが(笑)

原作を読んでみると納得

ロアルド・ダール好きが、ロアルド・ダール好きのために作った

ロアルド・ダール本の「読み聞かせ」映画なのだとわかりました

童心の頃のワクワクや感動に戻りたくても

二度ともう戻れない哀しさよ

ヘンリー・シュガー(ベネディクト・カンバーバッチ)は

裕福で働いたことがなく、相続したお金でギャンブルだけが趣味の独身男

ある日、書斎で1冊の本にが目に留まると

それはイムダット・カーンという、目を使わずに見ることが出来る男のことを調べた

インドのチャルテジー医師(デーヴ・パテール)の記録でした

イムダッド(ベン・キングズレー)は少年の頃

森で空中浮遊する不思議な男(リチャード・アイオアディ)に出会い

麻原彰晃じゃんか 笑)

何年何十年か修行し目を使わず物を見る能力を身に着けます
イムダッド曰く、それは目ではなく身体の別な所で見る感覚だそうです

その後サーカスに入り、「目を使わずに見る」芸を見た

チャルテジー医師(デーヴ・パテール)と

マーシャル医師(リチャード・アイオアディ二役)が

イムダッド(が盲人の教師になれば役にたつと考え)を診察することにします

しかし医師がさらなる研究のためにと会いにいくと

イムダッドは急死していました

ヘンリーはこの本に書いてある「目を使わずに見る」能力を身に付け

ギャンブルで大稼ぎすることを思いつきます
蝋燭の炎を見つめ続けるという、イムダッドの瞑想を実践すること苦節3

ついにトランプの裏を読み取ることに成功

カジノに行きブラックジャック3万ポンドを稼ぎます

だけどヘンリーの心は寧ろ
この能力を使えば、トランプで勝つのは分かり切っていること

何のスリルも喜びもありませんでした

そこでバルコニーから3万ポンドをばらまいたヘンリー

すると金を受け取ろうとした人々が暴動が起こし

警察官(レイフ・ファインズ二役)が

ばらまくほど金が有り余ってるなら、病院や孤児院

貧しい子供たちに寄付しろと咎めます

人の役に立つという、はじめて人生に目的が出来たヘンリーは

会計士見つけコンビを組むと、変装しながら世界中のカジノを回

新たな病院や孤児院をたくさん作ります

しかしヘンリーを知る人は誰ひとりいませんでした

そこで20年後ヘンリー肺塞栓で死ぬ

ロアルド・ダールのもとにやって来た会計士は

ヘンリー・シュガー物語を書くように依頼したのです



【解説】映画.COMより

チャーリーとチョコレート工場」で知られるイギリスの児童文学作家ロアルド・ダールの著作「奇才ヘンリー・シュガーの物語」を、「グランド・ブダペスト・ホテル」「アステロイド・シティ」のウェス・アンダーソン監督が映画化した短編。
大金持ちで働いたことことがなく、賭け事が大好きな男ヘンリー・シュガー。ある時、目を使わずにものを見ることができるという導師の存在を知った彼は、その力をギャンブルでイカサマをするために利用しようとするが……。
主人公ヘンリー・シュガーをベネディクト・カンバーバッチが演じるほか、レイフ・ファインズ、デブ・パテル、ベン・キングズレー、リチャード・アイオアディ、ルパート・フレンドらが出演。Netflixで2023年9月27日から配信。第96回アカデミー短編実写映画賞ノミネート。

2023年製作/39分/アメリ
原題:The Wonderful Story of Henry Sugar
配信:Netflix
配信開始日:2023年9月27日

 

 

ニモーナ(2023)

原題は「Nimona

原作NDスティーブンソンによる同名グラフィック・ノベル

NDスティーブンソン(女性として生まれる)はノンバイナリーでトランスジェンダー

双極性障害ADHDであることを公表しており2019年女性と結婚

Netflixでシリーズ化されたシーラとプリンセス戦士」も彼の作品)

2024アカデミー賞ノミネート、Netflixからは10作品18ノミネート中

(未配信はナタリー・ポートマンジュリアン・ムーア主演の「May December」のみ)

なんと4作品がLGBTもの

しかもついにアニメーションまでそうなったかと

悪いと言っているわけではないのですよ

ストーリーそのものもはよくできていましたし

(「ヒックとドラゴン」の2番煎じといえばそれまでだけど)

何よりヒロインのニモーナが魅力的

だけど、このモヤモヤはなんだろう(笑)

3DCGアニメーションのテクスチャー

(CGの三次元画像で質感を表現する技法のひとつ)の進化は凄いですね

スパイダーマン:スパイダーバース」のキャラクターデザインが

いかにその後のアニメーション作りに影響を与えたかがわかります

昔々、ある王国をモンスターが襲います

伝説の女戦士グロレスはモンスターを倒し

二度とモンスターが入らないよう王国を高い壁で囲いました

それから1000年もの間、グロレスが設立した騎士団に王国は守られ

騎士たちは国民から英雄として崇められています


孤児のバリスター・ボールドハートは

グロレスの一族の血筋で無いにもかかわらず

(伝統を変えようとしている)女王に実力を認められ

騎士学校に入学し首席で卒業します

騎士仲間であり恋人のアンブロシウス・ゴールデンロインとともに

女王からナイトを叙爵される式典の最中

バリスターの剣が突然レーザーを放ち女王を殺害してしまいます

 

バリスターは無実を訴えますが

(訓練のせいでとっさに反応した)アンブロシウスに右腕を切り落されてしまい

自分を信じてもらえないと悟ったバリスターは逃亡し

隠れ家を見つけ義手を作成します

中世が舞台なんですけど、同性愛が認められている世界で

スマホもPCもあってSNSが浸透している時代

街中の巨大モニターにはバリスターが女王殺しの犯人だと大々的に写し出され

騎士たちはバイクや戦闘機でバリスターを探します

 

それを見たひとりの少女が、待っていました大犯罪人

彼こそが自分と同じ嫌われ者のヴィラン(悪人)だと

これで王国をぶっ潰せるとウキウキワクワク

少女の名前はニモーナ

バリスターを探し出し、私たちはバディだと言い出します

(声を担当したクロエ・グレース・モレッツちゃんの実写版でもヨカッタかも 笑)

こんな女の子にまとわりつかれて迷惑なバリスターでしたが

ニモーナは鯨からゴリラまで、どんな動物がありました

 

ふたりは女王殺しの汚名を晴らすため、バリスターに剣を与えた従者

ディエゴを見つけて誘拐します

ディエゴが(隠れてバリスターの甲冑を着ていた)スマホの動画を見せると

そこには校長が剣をすり替えている姿が録画されていました

騎士学校に向かったバリスターは、アンブロシウスと校長に証拠を突きつけますが

校長は騎士たちに命じてスマホを破壊

 

アンブロシウスが校長に詰め寄ると、校長は彼を刺し

瀕死のアンブロシウスに女王を殺したことを認めます

彼女はいくら才能があっても有色人種が騎士になることなど

女王が伝統を見直すことに反対していたのです

それを聞いたアンブロシウスは無傷で立ち上がります

彼はアンブロシウスに化けたニモーナでした

さらに校長の自白をネット上に拡散、国民は校長こそ女王殺しだと

政府(軍)に反発しますが

 

ニモーナの正体を探るため古い巻物を探し出した校長は

彼女が伝説の女騎士グロレスに倒されたモンスターで

校長の自白は、バリスターがモンスターを利用して

捏造した動画だと発表します

アンブロシウスはバリスターに会いに行くと

巻物に書かれていたニモーナの過去を伝え

ニモーナに騙されているのだと主張します

バリスターがニモーナにモンスター(ニモーナにとって禁句)かと問いただすと

ショックを受けたニモーナは壁の向こう側の森に隠れてしまいます

そこでニモーナは昔を思い出します

1000年前、ニモーナは仲間をつくろうといろいろな動物に姿を変えましたが

どの動物たちも彼女を受け入れてくれませんでした

ある日、少女の姿を見たニモーナは初めて人間に変身します

少女はグロレスという名前で、すぐにニモーナと親友になり

ニモーナが変身できることも歓迎してくれました

しかし、グロレスの両親や村人たちがニモーナの変身を見たとき

人々は彼女がモンスターだと攻撃します

抵抗し誤って村に火をつけてしまったニモーナに

グロレスは剣を向け、彼女を森の奥へと追い払ったのです

かってグロレスに嫌われ憎まれ、今度はバリスターに恐れられている

ニモーナの人々に対する憎悪が膨れ上がった時

彼女はグレート・ブラック・モンスターに変身してしまいます

再び王国に入り、街中を壊しながら騎士学校のある王室に向かいます

はちゃめちゃだったけど、自由でワイルドで

なにより友だちを、バリスターを守ろうとしてくれたニモーナ

その彼女が哀しみで巨大なモンスターになってしまった

バリスターはニモーナを止めるため必死で自分の愚かさを謝罪します

偏見、恐怖、無知、決めつけという差別で苦しめてしまったこと

誰より彼女の孤独をわかってあげれたはずなのに

ニモーナが少女の姿に戻ると、バリスターは思い切り彼女を抱きしめます

しかし校長はニモーナを殺すためレーザー砲の発射命令を出します

アンブロシウスは、レーザー砲を発射したら

ニモーナだけでなく多くの民間人まで死んでしまうと抗議しますが

校長にとって下級国民の命などどうでもいいことでした

本当のモンスターはどっち、って話よね

ニモーナは、みんなの願いを叶えればより良い世界になるのだから

私さえいなければ誰もが安心して暮らせるのだから

今度は人々を救うため犠牲になって歴史に残ると言い

赤い不死鳥に変身すると、自らレーザー砲に飛び込みます

爆発により校長は死に

衝撃で壁が壊れると、その先に美しい山間の谷が現れます

やがて壁の裂け目から人々は自由に森へ移動できるようになり

ニモーナとバリスターは英雄として讃えられ

バリスターとアンブロシウスの関係も修復します

しばらくして、バリスターはかつての隠れ家を訪れてみます

すると彼を呼ぶニモナの声がして

彼女生きていたことを知ったバリスターは嬉しく思うのでした

 

 

【解説】映画.COMより

近未来的な発展を遂げた中世の王国を舞台に、女王殺しの濡れ衣を着せられた騎士と変身能力を持つ少女の友情と闘いを描いた長編アニメーション。
孤児出身でありながら騎士学校を主席で卒業したバリスターは、騎士任命式の最中に起こった女王殺しの犯人に仕立てあげられ、追われる身となってしまう。隠れ家に身を潜めて汚名をそそぐ機会をうかがう彼は、さまざまな生き物に自在に姿を変えることのできるいたずら好きの少女ニモーナと出会い、一緒に真犯人探しを始めるが……。
ニモーナ役でクロエ・グレース・モレッツバリスター役でリズ・アーメッドが声の出演。N・D・スティーブンソンの同名グラフィックノベルを原作に、「スパイ in デンジャー」のニック・ブルーノ&トロイ・クエインが監督を務めた。Netflixで2023年6月30日から配信。第96回アカデミー長編アニメーション映画賞ノミネート。

2023年製作/102分/アメリ
原題:Nimona
配信:Netflix
配信開始日:2023年6月30日

 

彼方に(2023)

原題は「The After」

最愛の妻と幼い娘が、連続通り魔事件の犯人と遭遇したことによって

亡くしてしまった男の物語

いわゆる「感動ポルノ」ものになるのでしょうが

(英語の「ポルノ(porn)」には、視聴者の感情を誘引させるため

”意図的に作られたコンテンツ”という意味もあるそう)

 

私はむしろ、このような深い傷を負った人間に対して

知らないこととはいえ、不用意な言葉やジョークが

相手の傷口をさらにえぐることもあるかも知れないと

気付かされました

ロンドンにある会社の重役ダヨ(デヴィッド・オイェロウォ)は娘のローラと

妻のアマンダ(ジェシカ・プラマー)の待ち合わせ場所に向かいます

今日こそは仕事を休んでローラの発表会に行こうと決心したとき

 

(友人で共同経営者?から)取引先とトラブルがあったという電話が入り

妻子と離れて脇に寄ったところ

突然ナイフを持った男が現れ、娘を刺し高台から突き落とします

ダヨと通行人たちが犯人を取り押さえたものの

パニックになった妻が娘を追って高台から飛び降りてしまいます

それから数年後、ダヨはライドシェアの運転手をしていました

(日本でいう白タクで、イギリスでは合法)

ダヨに入っている留守電の様子から、かっての共同経営者はおろか

ソーシャルワーカーとも連絡を取っていないことがわかります

その日はローラの誕生日

スマホの動画を見ながら「ハッピーバースデー」を歌う

仕事が忙しいからと、なんでもっと一緒にいてやらなかったんだろう

後悔の念だけが、波のように押し寄せてくる

そうして涙を拭くと、ストイックに

さまざまな乗客を乗せていきます

 

空港で予約していた家族を拾うと、一家の娘がローラに似ていることに驚きます

もしローラが生きていたら、これくらい大きくなっていたのだろうか

しかし乗車中夫婦はずっとくだらない口論をしていて

ダヨはそのことを態度に表すことはありませんでしたが

ローラににた娘を可哀そうに思い同情します

目的地(家)に到着しても、夫婦はずっと喧嘩したまま

ダヨは荷物を運ぶために車から降りると、娘に降りないのかと尋ねます

車から降りた娘は、突然ダヨの背中に抱きつきます

思わず娘の手を握り返すダヨ

驚いた両親が駆け付け、ダヨから娘を引き離すと

ダヨは縁石に倒れこみ泣きじゃくってしまいます

両親は彼を訴えることもなく、娘を連れてその場を立ち去るのでした

私はローラが娘の身体を借りて、父親に会いに来たのだと思いました

今日が誕生日なのだと

 

そうしてしばらく泣いた後、ダヨは涙を拭き

何事もなかったように車に乗り込み発進させるのでした

世の中には想像もできないような深い哀しみが

人それぞれにあることを忘れてはいけない

 

そういうことなのだと思います



【解説】Netflix公式サイトより

残虐な犯罪により失意のどん底にたたき落とされた男。ライドシェアサービスのドライバーとして虚しい日々をやり過ごすなか、ひとりの乗客の存在が、彼の心を揺さぶり、悲しみと向き合わせる。

出演:デヴィッド・オイェロウォジェシカ・プラマー、アメリー・ドクボ

2023|年齢制限:13+|18分|ヒューマンドラマ

第96回アカデミー短編実写映画賞ノミネート。

 

ボーはおそれている(2023)

「みんな、どん底気分になればいいな」

アリ・アスターSNSによる発信

 

原題は「Beau Is Afraid

A24史上最高の製作費(3500万ドル=約53億円)をかけた超大作

批評家からは好意的な評価を受けたものの、興行収入1,100 万ドルという大赤字

それでもすでに同じくホアキン・フェニックス主演による

次回作が決まっているというのだからA24の太っ腹なことよ(笑)

「難解だ」という評判を聞いていたので、時前に

「ミッドサマー」と「ヘレディタリー 継承」を鑑賞

「ヘレディタリー 継承」とは多くの共通点が感じられました

アリ・アスター自身、母親にトラウマがあるのかと思ったよ)

白くぼやけた出産シーンから始まり

どうやら医師か看護師が赤ちゃんを落としたようで

母親が怒り叫んでいます

その赤ちゃんが成長し中年になったのが

ボウ・ワッサーマン(ホアキン・フェニックス

(産まれたときの事故が原因か)極度の不安障害(発達障害)で

セラピストに(ティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンに通っています

彼は幼いころ、オーガズムによる心臓発作で腹上死(笑)したと聞かされている

父親に本当は何があったかを知りたくて、彼の分身(あるいは一卵性双生児)が

母親のモナ(パティ・ルポーン/若いモナ:ゾーイ・リスター=ジョーンズ)によって

屋根裏部屋に閉じ込められてしまう夢に苦しんでいました

さらに母親と一緒にクルーズ旅行に出かけたとき知り合った

エレインという女の子のことを忘れられずにいました

彼女はボウに「待っていて」ほしいとメモを書いた写真を渡し

去っていきます

ボウの住むアパートの前には、危険なホームレスがたくさんいて

ボウが通るたび襲ってきます

彼らはオピオイド麻薬性鎮痛薬)中毒による精神異常者で

のちにボウの母親が、オピオイドを製造している

大規模な複合企業CEOであることの伏線になっています(たぶん)

父親の命日で実家へ帰る日

ボウの部屋に「音を静かにしてくれ」というメモが何度も舞い込みます

おかげで眠れず寝坊、大急ぎで出発しようとしたとき

デンタルフロスを忘れていたことに気付き洗面台に戻ると

スーツケースと鍵を何者かに盗まれてしまいます

ボーは母親に電話して状況を説明しますが、母親は彼の話を信じてくれません

ボウは落ち着くため、セラピストに渡された薬を飲みますが水がない

蛇口を捻っても水が出ない

ネットで調べると水なしで飲んだ場合、死に至ることもあるらしい

ドアに本を挟み、向かいのドラッグストアに走り売り物の水を飲むと

今度はお金が足りない(笑)

その隙に、どんどんホームレスたちがボウの部屋に入っていく

ボウが戻ろうとすると、挟んでいた本が抜かれ締め出されてしまいます

非常階段でホームレスの様子を伺っていると(律儀に皿洗いしている 笑)

急に騒ぎ出し逃げ出してしまいます

窓を破り部屋に入ると全身刺青男の死体

ボウが再び母親に電話をかけると、UPS配達員を名乗る男が出て

落下したシャンデリアによって首が切断された死体を発見し

ボウが母親の特徴を言うと、たぶんその女性だといいます

蛇口が捻りっぱなしの風呂から水があふれ、ボウは風呂に入ります

すると天井にしがみついている(アパートを工事している業者の)男

殺人アリに刺された男が落下し(全身刺青男もアリによって死んだ)

ボウは男と格闘し、何とか風呂を出ると全裸でアパートを飛び出します

路上で警察官に助けを求めるものの、逆に銃を向けられてしまう

警官から逃げたボウはフードトラックにはねられ

さらに乗用車にはねられ、狂人の全裸男に刺されて重傷

目が覚めるとやたらファンシーな部屋で(笑)

夫ロジャー(ネイサン・レーン)は外科医で

ボウを車ではねた親切な夫人グレース(エイミー・ライアン)に世話をやかれます

夫婦にはひとり娘のトニ(カイリー・ロジャース)がいて

亡き息子の戦友だったジーブス(ドゥニ・メノシェ)を

庭のトレーラーに住まわせています(トニとは仲がいいようだ)

ボウが再び家に電話をかけると、今度は弁護士を名乗る男が出て

遺体をできるだけ早く安置するユダヤ人の習慣があるにもかかわらず

母親の遺言で息子が帰るまで遺体を埋葬できないことを伝えられます

ボウが母親を埋葬するために家に帰るというと

ロジャーは傷口が開いたため(でも縫わない)明日送っていくといいます

しかし翌日緊急の手術が入り、また明日送っていくといいます

不安になるボウにトニが親友のリズと車で送っていくと申し出ます

ドライブ中ボウにマリファナを吸えと勧めるトニ

吸わないと母親のところに送っていかないと怒り

やむを得ずマリファナを吸ったボウは気を失い

目が覚めると元の屋敷に戻っていました

母親の死んだニュースを見てトニのノートパソコンにゲロを吐き

あきれたトニは死んだ兄の部屋の壁に落書くと

ペンキの缶の中身を半分づつ飲もうとボウに提案します

(ボウは兄の代わりに選ばれた人間で、自分は選ばれなかったと思ってる)

ボウが拒否すると、トニは大量のペンキを飲みそのまま死んでしまいます

 

「なぜそんなことをするの」

ボウは森に逃げ、トニを殺したと勘違いした?グレースは

全身凶器のジーブスにボウを追わせます

森で迷子になったボウは、薪を集めている妊婦の女性を見つけます

彼女は「森の孤児たち」という劇団のコミュニティの一員で

ボウをリハーサルに招待してくれます

洪水で離れ離れになった妻と3人の息子たちを探し続ける男の物語で

感動したボウはすっかり自分が主人公のつもりになります

(ここの数十分のシーンが一番の睡魔との戦い 笑)

そこにボウを知っている、父親はまだ生きていると告げる男が現れ

ボウは彼こそが父親だと思いましたが、やって来たジーブスの攻撃により爆死

さらにジーブスは劇団員たちを惨殺しながら、ボウを森の奥へ追います

が、劇団員と揉み合って転んだ拍子に自分の肩をマシンガンで撃ちぬいてしまい

(ロジャーが付けた)ボウの足首モニターを作動させると火を吹き

ボウはそのまま倒れてしまいます

朝になり目が覚めると森を抜け、ヒッチハイクで家にたどり着いたボウ

すでに葬儀は終わっていて、棺桶には首のない遺体

部屋に貼られていた写真から、ボウと関係を持った全ての人たちが

母親の会社の社員(雇われていた)だったことを知り

疲れ果てたボウはソファーに横になります

そこに葬儀に遅れてやってきた、元従業員だという女性が花束を置いていきます

彼女がエレインだと気づいたボウは、約束通りずっと待っていたことを伝えます

エレインはすぐに納得し(財産目当てか)ボウを寝室に誘います

セックスをすると死ぬのではないかとためらうボウでしたが

エレインに童貞だと打ち明けられない(笑)

エレインのリードで絶頂に達すると、生き延びていることを知り安心しますが

エレインのほうが死んでしまい、すでに体は硬直してしまいました

そこに母親が現れ、エレインの死体を召使に片づけさせます

母親は葬儀が終わって数時間で女を連れ込んだことを責めますが

ボウは遺体が別人(ボウの子守だった女性)であることに気付いていました

 

「なぜそんなことをするの」

すると母親は、セラピー中の音声録音を聞かせセラピストを呼ぶと

ボウをずっと監視していたことを打ち明けます

(まさかの「どっきりカメラ」ってやつだわ)

ボウが森で父親と会った、真実を知りたいと言うと

母親は彼を屋根裏部屋に案内し閉じ込めます(夢は夢ではなかった)

そこでボウは双子の兄弟と、巨大ペニス怪獣の父親を見ます

ワンフェスの18禁コーナーかと思ったわ 笑)

次の瞬間ジーブスが屋根裏に侵入

巨大ペニスの触角に刺されて死んでしまいます

(父ちゃん、こんな姿でも息子を助けたかったのかな 笑)

母親に許しを乞うボウに、彼女はボウをいかして憎んだか

それでも大事に育てたことを吐き出し

(まだ発達障害が理解されない時代で、思い通りいかない子育てだったのだろう)

悪ガキに母親の下着を盗ませたとか

スーパーで迷子になった時、母親が必死に探しているのを知りながら隠れていたとか

苦しめられてきたことを責めます

悪ガキを連れてきたのは脅されたから

スーパーで隠れたのは怒られるのが怖かったから

ボウはいくら理由を説明しても、話を聞いてくれない彼女の首を絞め

(これを見ると、親殺しした子どもの気持ちも理解できる)

外に飛び出すと湖に行きモーターボートに乗ります

洞窟に入ると突然ボートが止まり

そこは大勢の人が集まるアリーナ(コロシアム)で

(「トゥルーマン・ショー」かよ 笑)

ボウは母親を軽んじた(会いに行かなかった)ことで、裁判にかけられます

ボウの人間性を判断するうえで

検察官は彼がホームレスたちにいかに冷たかったこと

(全身刺青男から逃げていたこと)

母親の葬儀に出るのを、ロジャーに「明日」と言われ

その通りにしたことが挙げられます

しかもボウの弁護士は母親の部下に投げ殺されてしまい

ボウを弁護する者は誰もおらず、有罪が確定します

ボウは母親に必死で言い訳し、死刑から逃れようとしますが

足をボートに打ち付けられ動けません

 

「なぜそんなことをするの」

やがてボートのモーターが爆発しボートは転覆

ボウが浮かび上がってくることはなく

母親と検察官の姿が消えると

アリーナの観客たちも消えていくのでした

アリ監督曰く、これは「ユダヤ人の”ロード・オブ・ザ・リング”」だそうです

長い歴史の中、国を奪われ住む場所さえ追われてきたユダヤ人の物語

旧約聖書ヨブ記)ヨブは神を信じ、家族と仕事を大切にする清い人でした

ある日、主の前で神々の会議がありその中にサタンもいました

サタンはヨブに受難を下せば神を信じなくなるでしょう、と告げ
主はヨブを試すため受難を与え続けることにします

その日からヨブの一家は過酷一途の人生を廻ることになります

家畜が死に、ついに家族全員が殺されてもヨブは

わたしは裸で母の胎を出ましたので、裸でかしこに帰ります

主が与え、主が取られたのです

主のみ名は、ほむべきかな(神を賛美することば)

 

だと、生涯罪を犯すことなく、主の言葉に逆らうこともなかったそうです

アリ監督は、ボウを現代のヨブに例えたのですね

(だからといってパレスチナへの占領が許されるわけではない)

さらに、ボウ・ワッサーマンの、ボウ(Beau)のeauはフランス語で

姓の「Wasser」はドイツ語で、それぞれ水を意味するそうです

母親の名前モナ(Mona)は「マドンナ」(ma donna)の短縮形(mona)で

聖母マリアの意味もあり

モルヒネアスピリン等の薬物の名称としても使われている)

そう思うとラストは決して悲しいものではなく

どんな受難も神から仕組まれたものだったと悟ったボウは

自ら水(母体)に還っていったということなのでしょう(子宮回帰)

死んで母親(主)の愛に抱かれる

ただ主人公を襲う数々の受難というのが、毒母ばかりでなく

刺青男に全裸男、「ミザリー」な夫婦と全身武装

極めつけはペニス怪獣という(笑)

さすがに3時間は長かった

(ディレクターズ・カットでやってくれ 笑)

 

ちなみにユダヤ人はこれを見て面白いと思うのでしょうか

 

 

【解説】映画.COMより

「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」の鬼才アリ・アスター監督と「ジョーカー」「ナポレオン」の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組み、怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描いたスリラー。
日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。
共演は「プロデューサーズ」のネイサン・レイン、「ブリッジ・オブ・スパイ」のエイミー・ライアン、「コロンバス」のパーカー・ポージー、「ドライビング・MISS・デイジー」のパティ・ルポーン

2023年製作/179分/R15+/アメリ
原題:Beau Is Afraid
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年2月16日

 

 

伯爵(2023)

原題は「El Conde」(伯爵)

1973年から1990年までチリの大統領の座に就き

2006年に91歳で没したアウグスト・ピノチェトの死は自らの偽装で

250年前から生きている不死身の吸血鬼だった、という

しかも "鉄の女" と呼ばれた元イギリス首相マーガレット・サッチャー

同じ吸血鬼でピノチェトの母親だったというオチ

 

いやはや、なんともとんでもない発想ですが

そういえば日本でも、妖怪と妖怪の孫が政権を握り好き放題していたなと

ピノチェトサッチャーが吸血鬼でも不思議ではない話(笑)

18世紀フランス、王党派の軍人クロード・ピノシュは

吸血鬼であることがばれ、殺されそうになったところを逃げ

革命派に混じりとマリー・アントワネットの処刑を目撃します

その後国外に逃亡、各国の革命の鎮圧に参加し

1935 年にはアウグスト・ピノチェトという名前でチリ軍に入隊

1973年に将軍に上り詰めたアウグストは

アメリカの支援により)クーデターを起こし

サルバドール・アジェンデ社会主義政権を打倒

(世間にはアジェンデの死を自殺と公表)

独裁者となった彼は自分のことを「伯爵」と呼ぶように要求します

退任後、不正に得た富や暗殺、失踪や人権侵害などの捜査が始まると

アウグストは自分の脈を止めて死を偽装し、葬儀が終わると妻ルシアと

長年執事を務めているフョードル(アウグストに吸血鬼にされた白系ロシア人

とともに大陸南端極寒の孤島に隠遁(いんとん)します

庭にはギロチンで家畜の首を落とし、心臓をミキサーにかけて飲む

(21世紀の流行りはスムージー風? 笑)

しかしそろそろ生きることに疲れ果て、死にたいと願うようになります

そこで財産のすべてを、死後妻と5人の子どもたちに譲ると言い出しますが

財産がどこに、どれくらいあるかわからない

覚えていないというのです

そこで娘のひとりが、資産の調査のため会計士の女性カルメンを雇います

彼女は教会お墨付きの真面目な修道女で欲に目がくらむこともない

しかしカルメンの本当の正体は、教会が派遣した

悪魔退治のためのエクソシストでした

若くて美しいカルメンは流暢なフランス語でアウグストを魅了

死ぬことを望んでいたアウグストに、再び生きる意欲と性欲が湧き(笑)

妻ルシアがフョードルと関係を持っていることも知っていましたが

カルメンが現れたことで、ババアはくれてやる

(そういうセリフはありません 笑)と黙認

若返えるためサンディアゴまで飛び、生きた心臓を求め彷徨います

カルメン調査した書類と債権を自分の部屋に隠し

悪魔祓いするため自分の正体をアウグストに明かします

しかしアウグストに聖水の攻撃は全く効かず

カルメンは彼と性行為をしたうえ、首を噛まれ吸血鬼にされてしまいます

カルメンはアウグストへの愛を(本当は財産目当て)主張しますが

やっぱり250歳も年の差があると趣味も話も嚙み合わない

男が大金をはたいたお宝(女から見たらガラクタ)あるある(笑)

ルシアもフョードルに頼み、念願の(夫は噛んでくれなかった)吸血鬼になります

遺産が手に入るはずだった5人の子どもたちは

父親が死ぬどころか吸血鬼が増えてしまい

「俺たちで吸血鬼4人を殺れるか?」と相談します

兄妹たちには、もっと活躍して欲しかったんですけどね(笑)

そこにアウグストが虜になったカルメンに嫉妬した

マーガレット・サッチャーがイギリスから飛んで来きます

(上流社会の女性にはハンドバッグとティーカップが似合う法則)

彼女はかって吸血鬼にレイプされ、首を噛まれたうえ妊娠

赤ん坊を産んだもの、孤児院に預けたといいます

そして首脳会談で会ってすぐにわかった、アウグストこそわが息子だと

マーガレットは、カルメンが吸血鬼になったのは

彼女がローマ・カトリック教会から使命を受け

ピノチェト一族の(腐敗した)情報を収集するために

アウグストに惹かれているふりをしていただけと

アウグストにカルメンを処刑するよう命じるのです

カルメンフョードルによって捕らえられ、ギロチンにかけられます

さらにフョードルは彼女の書類を見つけ燃やしてしまうと

ルシアと5人のたちとともに、遺産を手に入れるために

アウグストとマーガレットを殺す計画を立てます

しかし彼らがどんな陰謀を企てたとしても

サッチャーピノチェトに適うはずがない(笑)

アウグストはルシアの心臓に杭を打ち込み、フョードルの首を(のこ)で切ると

マーガレットとともに未来へ飛び立つのでした

残された兄妹たちは、屋敷から出来る限りの財産を持ち去り

代わりに音信不通になったカルメンを探すため

修道女たちが孤島の空になった屋敷を目指すのでした

怖いのは生き血を吸い永らえるヴァンパイアだけじゃない

その権力を利用しようとする政治家や軍人、富に群がる家族や仲間

神の教え、お言葉だと人を集め説教(集金)する詐欺師

その数のほうが無限なのです

チリの政治家一家に産まれたパブロ・ララインによる

怖いもの知らずのホラー・コメディ

モノクロの映像美、宗教、欲望、死というテーマを逆手に

こんな嫌味な映画を作った監督、いままでいなかったという点で傑作

 

そして日本でも、妖怪の復活を待っている人たちが

多くいるのだろうなという恐怖

ゴキブリやネズミはどこに餌があるのかを探すのが得意だから

 

 

【解説】映画.COMより

スペンサー ダイアナの決意」などで知られるチリの名匠パブロ・ララインによるダークなホラーコメディ。チリ近代史を下敷きにした異世界を舞台に、独裁者ピノチェトを吸血鬼として描き出す。
大陸南端にある廃墟のような屋敷でひっそりと暮らす吸血鬼アウグスト・ピノチェト。生き血を飲み続けて250年も生きながらえてきた彼だったが、生きることに疲れ、永遠の命を手放すことを決意する。しかし家族はそんな彼に、最後にもうひと仕事してからでないと死なせないと言い放つ。やがてピノチェトはある人物との思いがけない関係を通し、反革命的な情熱を持って人生を生き続けることに新たな希望を見いだしていく。
主人公ピノチェト役に「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」のハイメ・バデル。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞し、第96回アカデミー賞では撮影賞にノミネートされた。Netflixで2023年9月15日から配信。

2023年製作/111分/チリ
原題:El Conde
配信:Netflix
配信開始日:2023年9月15日

 

彼女とTGV(2016)

「人生はいつも目の前にある」

 

原題は「La femme et le TGV」(女性とTGV

TGV「(le)Train à Grande Vitesse」とは

フランス、イギリス、ベルギー、オランダ、ドイツ、スイス、イタリアを結ぶ

フランス国鉄SNCF)の新幹線のこと

1989年生まれのスイス人監督ティモ・フォン・グンテンが

70歳になったジェーン・バーキンを迎え、フランス語で撮影したスイス映画

わずか30分のショートムービーにかかわらず

2時間の映画を見たような余韻が残ります

(人間の記憶なんてそんなもの 笑)

誰でも子どもの頃、飛行機や走り去る列車に

手を振った経験があると思いますが

(今でもTDLUSJに行けばやるけど 笑)

線路脇の小さな家に住むエリス(ジェーン・バーキン)は

1日2回、定刻びったりに通過するTGVにスイス国旗を振るのが日課

自転車で通勤している自営のパン屋にも

(今ではパン作りもせずお菓子を売っているだけ)

TGVを見送ってから家を出て

夕方TGVが通るまでに帰るという徹底ぶり(笑)

ある日無謀運転する若者ジャックが、店の前に無断駐車

パン屋の向かい側にはダンススタジオがあり

ダンサーのガールフレンドに会うためでした

エリスが来客用の駐車場だと激怒すると

(といっても客が来ることはない)

ジャックは次に来たときにお菓子を買うと詫びます

エリスはそんな言い逃れを信じませんでした

エリスは別居していた夫に先立たれ

ひとり息子は自立して家を出て行き

自分の好きなように生活している頑固ババアあるある

(ペットのセキセイインコが可愛い)

そんなエリスが庭の芝刈りをしていると手紙を発見

そこには毎日TGVに笑顔で旗を振るエリスへの感謝の言葉が綴られていました

差出人はTGV の運転士をしているというブルーノ

次の日には、チーズの贈り物とともに手紙が入っていました

感動したエリスは鉄道会社に電話し、ブルーノの連絡先を聞きますが

個人情報は教えられないと断られます

そこでエリスは古いタイプライターを持ち出し

鉄道会社宛に、ブルーノへのお礼の手紙とチョコレートお菓子を贈ります

そうしてふたりの文通が始まるのです

高速車両から投げた手紙(窓は開けれるの?)が

狙った場所に届くなんてありえないと思うのですが

これ実話なんですね

毎日のTGVへの挨拶を待ってくれていた人がいる

エリスは会ったこともない彼に恋し

気持ちは若返り(学習意欲まで沸きパソコンを購入 笑)

手紙を通じてお互いを語り合うようになります

エリスの誕生日、カフェで息子のピエールと待ち合わせすると

(幼いころは一緒に旗を振っていた)

彼が持ってきた誕生祝いは、老人ホームに入居するためのカタログ

息子が仕事の電話に出ている間に、怒ったエリスは帰ってしまいます

TGVが通過する時間に間に合わせるため)

しかし時間を過ぎてもTGVは来ません

こんなこと、今までいちどもなかったのに

手紙が落ちていないか線路を探すけれど何も見つけられない

追いかけてきたピエールは落ち込んだ母親を抱きしめます

(でも老人ホームのパンフレットはちゃっかり渡す)

エリスが鉄道会社に確認の電話すると

TGVのルートが変更されたことを教えられます

ショックで疲れ切ったエリスは、ドアをノックする音にも気付かず

椅子に座ったまま眠りについてしまいます

翌朝、エリスはドアの下にブルーノからの手紙を見つけます

そこにはエリスが不在で残念だったこと

TGV通り過ぎることがもう出来なくなった寂し

その日のチューリッヒ発の電車で、移動になると綴られていました

 

エリはナイトガウンまま(笑)自転車に乗り駅に向かいます

しかしチューリッヒは遠い

偶然車で通りかかったジャックに駅まで乗せてもらうことにします

ジャックが上着を貸そうとするのも無視してホームまで駆ける

しかし列車のドアまり、落ち込むエリス

そこに彼女の名前を呼ぶ声

電車の窓には優しそうに笑顔を浮かべる男性と

彼の妻と娘だと思われる女性が座っていました

 

列車は出発し、呆然と立ちすくむエリス

そうよね、妻子がいたって不思議じゃない

おかげでなにか吹っ切れた

でも私は、ブルーノがエリスに贈った手紙や贈り物は

決して善意だけではでなかったと思います

30年以上笑顔で手を振ってくれた彼女に

彼も毎日会うことを楽しみにしていたのだから

それを「ときめき」といわず、なんと呼ぶのでしょう

 

エリスはジャックを雇い、パン屋を新装開店することにします

オープンの日、店の前には大勢の客が行列を作っていました

エピローグ

実際の女性とTGV機関士の微笑ましい映像が映し出されます

ふたりはその後も友好を深めていたのですね

 

世界中からファッション・アイコンとして愛されてきた

ジェーン・バーキンが選んだ最後の出演作

かっての面影はほとんど残っていなかったけど

(老いを象徴するような「手」のシーンがたくさんある)

最高の笑顔はいくつ年齢を重ねても魅力的

人を癒す力があることがわかります

 

 

【解説】映画.COMより

実話をもとに孤独な女性と鉄道運転手との間に起こる物語を、ジェーン・バーキン主演で描いたスイス製短編作品。第89回アカデミー賞の短編実写映画賞にノミネート。日本では2016年・第11回札幌国際短編映画祭で上映されている。

2016年製作/30分/スイス
原題:La femme et le TGV