原題は「Anatomie d'une chute 」(落下(転落)の解剖)
第81回ゴールデングローブ賞で脚本賞と非英語作品賞を受賞
第96回アカデミー賞では作品賞を含む5部門にノミネート
人里離れた雪山に立つフランスの山荘で男の転落死体が見つかり
発見者は彼の11歳になる盲目の息子
死因は頭部の殴打による傷
外部からの侵入者はなく、当時家にいた妻に容疑がかけられます
男は妻に殺されたのか、それとも自殺か事故なのか
それから1年以上裁判が繰り返され
ふたりの夫婦生活が明らかになっていくというもの
「推定無罪」(1990)のような、どんでん返しもオチもありません(笑)
検察側も弁護側も状況証拠しかなく、最後まで自殺か他殺かわからない
ラスト母親は無罪を勝ち取りますが
これは観客が陪審員(裁判官)になったつもりで
物語の中にある伏線を回収していき
「あなたなら有罪にするか、無罪にするか」を
判断させる映画なのだと思いました
女流作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は女学生から
論文を書くのための取材を受けていると
論文より女学生に興味があるようで、逆に質問を始めます
(後に彼女がバイセクシャルを公表していることがわかる)
すると会話を打ち消すほどの大音量の音楽(50Centの「P.I.M.P.」)が流れ
学生は帰ることにし、車に乗り込む姿をベランダから見送ると
屋根裏の改造をしてる夫に(作業中はいつも大音量の音楽をかけるらしい)
執筆すると伝え寝室に籠ります(執筆活動は耳栓をして寝室でするらしい)
視力に障がいのある息子のダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は
愛犬のスヌープ(介助犬だろう)をお風呂に入れ終わると
散歩に行くため家を出ます
約1時間後、ダニエルが家に戻ると何かに足がぶつかります
それは倒れている父親のサミュエルで、胸に耳を当てると心音がしません
大声で母親を呼ぶダニエル
すぐにサンドラは警察に通報
やがて捜査がはじまるとサンドラは無実を訴え
古くからの友人であるヴァンサン(スワン・アルロー)に弁護を依頼します
(ヴァンサンは一方的にサンドラに好意を抱いている)
ヴィンセントはサンドラから詳しい情報を聞き出し落下の状況を整理
屋根裏の窓の下には物置小屋があり、そこに頭をぶつけたことが
サミュエルの致命傷だと推定
サンドラは腕にあるアザもサミュエルと争ったものでなく
キッチンのカウンターにぶつけたものだといいます
(後にサミュエルと争ったときのものであると訂正)
しかし検察側は、検視の結果致命傷は頭を殴打されたもので
物置の壁に付着した血痕の位置と、物置の屋根に残留物が残っていないことから
他殺であると理論付けます
(弁護士側は雪解けによって屋根に衝突時の血痕が流れたと反論)
ダニエルへの聞き取りも行われ、ダニエルは散歩に行く前
両親に争ってる様子はなく、落ち着いて会話していたと話します
しかし実況見分が行われると
大音響の中、普通の話し声で会話が聞こえないことがわかります
「勘違いだった」「忘れ物をして家に戻った」と評言を変えるダニエル
サンドラはサンドラで夫はうつで通院していて
(うつの薬を止めてからはアスピリンを過剰摂取していた)
酒とアスピリンを飲み自殺しようとしていたことを思い出します
(嘔吐してしまい未遂に終わった)
一方サミュエルの持っていたUSBから、彼が死の前日
夫婦の会話(喧嘩)を録音していたことがわかります
それによってダニエルが盲目になった原因(事故)が
サミュエルのせいだと責任を感じていたこと(妻に責められていたこと)
そのせいでセックスレスになり、サンドラが複数の女性と浮気したこと
フランス語が得意でない妻がフランスの田舎に連れてこられたことへの不満
ダニエルを学校に通わせず勉強を見ることに夫が文句を言い出したこと
夫のアイディアを妻が盗んで執筆し小説を完成させたこと
(夫にアイディアはあるが、小説もペンションも子育ても結果が出せない)
お互いの相手に対するストレスがぶつかりあい
ついには物を投げ、殴り合うような音で録音は終わります
でも妻が夫を殺したという証拠にはならない
夫が自殺するような心境であったとも思えない
陪審員の心情がどう動くか、盲目の息子の評言にかかります
評言台に立つ前日、ダニエルは父親が自殺を図ったという
アスピリンを餌と一緒にスヌープに食べさせます
翌朝ぐったりしたスヌープを見て、マージを呼び泣き叫ぶと
(法務局からダニエルの面倒を見るため派遣された女性)
彼女は冷静にスマホで検索し薬を吐かせます
なんとかスヌープは一命を取り留めましたが
ダニエルは裁判でそのことを評言します
つまり父親が自殺しようとしていたことを
愛犬を使って証明してみせたのです
さらに父親から、いつか愛する人が死ぬ準備をしておかなければならない
その後も自分の人生は続く、と伝えられていたことも
無罪を勝ち取ったサンドラは、ヴァンサンら弁護士チームと打ち上げをし
ダニエルが待つ家に帰ると抱擁を交わします
それから眠る準備をすると隣にスヌープがやってくるのでした
さて伏線を回収していきましょう(笑)
ダニエルがスヌープをお風呂に入れていて、臭いを確認している
※何かの臭いが付着したということか
※しかも人里離れた雪山で1時間以上散歩するか
父親はいつも大音量の音楽かけて作業する
※息子は盲者で音から情報を得なければならないのに、大音量の音楽をかけるか
※本当だとしたら息子のストレスは相当なもの
息子が夫を発見した時、妻は耳栓をして昼寝していたという
※裁判で息子の呼び声に気付いたのは、耳栓が片方はずれていたと評言
※発見時も音楽は大音量で鳴っていたはず
夫の死因は金槌のようなもので殴打されたもの
※改装中で現場には金槌などの工具が多くあったはず
息子が失明したのは夫が迎えを怠り事故に遭ったせい
※妻は長年夫を責め続け、息子も父親のせいだと刷り込まれている可能性
息子の治療費で金銭が困窮し、ロンドンからフランスの田舎に引っ越し
※息子は負担に感じていたのでは
息子が学校に行かず夫が勉強を見ているのは夫の提案
※息子の将来を思うなら盲学校に通わせ点字等勉強させるべき
夫が自殺未遂した嘔吐物を食べた犬が一度死にかけている
※介助犬の訓練を受けた犬が拾い食い、まして嘔吐物を食べるか
帰宅した妻に、犬が寄り添う
※介助犬が介助者を離れるか(犬のボスは息子ではなく妻か)
以上だけでも、妻(または息子)が夫を殺害する動機は十分あります
2度、3度見たらもっと出てくるのでしょうね(笑)
そこでサミュエルの死には④つの原因が考えられると思います
①妻が殺した
②息子が殺した
殺したあと、ふたりで窓枠から夫(体重は85キロ)を放り投げ
息子が散歩に行っている間に妻が証拠隠滅
③妻と息子が共謀した
夫に窓枠を覗かせ、後ろから突き落とした
④妻と夫の争いを見た、声を聞いた犬が
夫の作業中襲いかかり、逃げようとした夫が誤って転落した
(妻と息子はそのことを知らない)
最後に最も重要なのは、妻が「小説家」であること
すべての評言が、私たちが見せられたすべても
母子の作り話を映像化したものに過ぎないのかもしれない
よって私の判決も、証拠不十分で無罪
ダメ夫のいない新たな人生を、歩んでほしいと願いました
【解説】映画.COMより
これが長編4作目となるフランスのジュスティーヌ・トリエ監督が手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞したヒューマンサスペンス。視覚障がいをもつ少年以外は誰も居合わせていなかった雪山の山荘で起きた転落事故を引き金に、死亡した夫と夫殺しの疑惑をかけられた妻のあいだの秘密や嘘が暴かれていき、登場人物の数だけ真実が表れていく様を描いた。
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。
女性監督による史上3作目のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。主人公サンドラ役は「さようなら、トニー・エルドマン」などで知られるドイツ出身のサンドラ・ヒュラー。第96回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされた。
2023年製作/152分/G/フランス
原題:Anatomie d'une chute
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年2月23日