アイ・ケイム・バイ(2022)

原題も「I Came By」(私は来た)

Netflixのランキングはあてにならんな(笑)

面白くないことはないけど、BC

逆にB級映画やツッコミ系好きマニアには

たまらないものがあるかも知れません(笑)

トビー(ジョージ・マッケイ)とジェシーパーセル・アスコット)

富裕層の家に忍び込み"I Came By”(参上)と落書きをして去る

グラフィティアーティスト(というより趣味か)

そのことがSNSで話題になることに喜びを感じるイマドキの若者

ジェシーは仕事で人権派の元判事の家を訪れたとき

(昼間は佐官工?として働いている)

次のターゲットとしてwifiIPアドレスをスマホで撮影し

トビーに送信しますが

家に帰ると恋人のナズ妊娠していることがわかり

トビーに引退をすることを伝えます

しかも母親と喧嘩してしまい家を飛び出したトビーは

ひとり元判事のブレイク(ヒュー・ボネビル)の

屋敷に忍び込むことにしました

すると何やら地下で物音がする

不審に思い見に行くと棚の後ろ隠し扉

中を覗いたトビーは驚き逃げます

同じ頃ブレイク卿は警視とスカッシュをしていましたが

スマホwifiに接続できないことを不審に思い急いで帰宅します

壁の父親の肖像画がずれている

何者かが屋敷に進入したんだ

 

トビーはジェシーにブレイク卿の屋敷に進入したことを相談しますが

ジェシーは巻き込まないでくれと言う

警察に通報しても貴族階級で元判事のブレイク卿にはコネがあり

刑事も思い通りに捜索できない

トビーは単身地下室に監禁されている男を助けに行きますが

コケて倒れたところをブレイク卿に捕まり

自家用焼却炉で焼かれてしまいます

 

トビーと連絡がつかなくなった母親のリジー

警察やジェイに相談しますが手がかりはつかめません

本当のことを言えば自分も捕まってしまう

ジェイブレイクの屋敷に行き郵便物を盗みますが

ブレイク卿に通報され警察に拘束されてしまいます

しかし運良く捜査官の同情を引くことに成功し解放

ブレイク宛ての郵便物をトビーの机の二重底の

引き出しに忍び込ませるのでした

(警察が宛名に気が付かないってありえる?笑)

なぜブレイク卿宛ての郵便物が息子の机に

しかもトビーのスマホの信号が最後に途絶えたのもブレイク卿の住所

それからリジーはブレイク卿の屋敷の前で彼を待ち伏せ

つけまわすようになります

 

そしてある日、ブレイク卿が通う水泳クラブで

マッサージ師として働く難民の青年が

屋敷から逃げ出すのを助けたリジ―

しかし青年は再び「亡命申請に助力する」という

ブレイク卿の甘い言葉に惑わされ彼の車に乗り込みます

青年のスマホのチャットにあったリジ―の連絡先を見つけた

ブレイク卿はリジ―をおびき出す罠を仕掛け

あっけなくリジ―は捕まってしまうのでした

そうしてブレイク卿は屋敷を売却し引っ越してしまいます



その間、秘密主義のジェイに業を切らしたナズは彼と別居

しかし彼女の通う大学の先生がブレイク卿と友人であることから

ナズの論文を読んでもらうことになり(ゴミ箱に捨てられるがな)

ナズのおかげでジェイはブレイク卿を尾行し、住み家を突き止めます

進入はお手のもの、人里離れた屋敷に忍び込むジェイ

ブレイク卿と激しい乱闘になったものの

どうにかブレイク卿を倒し監禁場所を聞き出したジェイ

 

そこにいたのはトビーでもリジ―でもない

腰巻一枚で血だらけの謎の難民でした

もしかしてあんたが噂のペルシャ人、ラビだったんかい(笑)

通報を受けてやって来た女刑事は思わず微笑んでしまいます

粘着テープで拘束されたブレイク卿の後ろの壁に描かれていたのは

"I Came By”(参上)の文字だったからです

 

扉の向こうが「ムカデ人間」(2010)くらい

インパクト(生体実験が目的)があればよかったんだけど

(そう思うのはオマエだけだ)

 

父親への復讐なのか、単にサディスティックな嗜好からなのか

ラビを監禁している理由がはっきりしない

しかもラビが生きていたら相当お年の筈だから

彼が本物か、身代わりかどうかもわからない

ただラスト、人権派と謳っていたいた判事が

実は差別主義で植民地主義帝国主義者で変態

その彼がグルグル巻きにはスカッとしますし

 

ティアーズ・フォー・フィアーズ

懐かしい名曲が流れたのもヨカッタです

 

ジェイが奥さんとヨリを戻しそうな雰囲気で終わったら

もっとヨカッタですけど

あなたが"I Came By”だったのね、みたいな(笑)

残り火(2022)

デンマーク映画の完全犯罪もの

原題はKærlighed for voksne(大人への愛)

浮気をした男主導権無いし、同情の余地ない

一風変わった不倫映画を見たい人におすすめ

森と湖に囲まれたハイセンスな別荘

クリスチャンは親友と共同で建設会社を経営し

妻のレオノラは(難病の息子のため音楽家になる夢を諦めた)主婦

息子のヨハンは回復しもうすぐ高校を卒業する予定で

可愛い彼女も出来ていました

一見誰が見ても成功した幸せな家族

しかしクリスチャンは、若く魅力的な女性建築家

セニアと不倫していました

 

クリスチャンは親友と夏至祭の「たき火」のために

湖にいかだを浮かべ、集めた大量の薪を積み上げている

レオノラ車のラジオからは「たき火」で魔女を燃やすのは

デンマークだけの伝統と聞こえる

そしてクリスチャンの会社のパーティで

レオノラは夫若い女オフィスで性交をしているのを見てしまいます

レオノラ気付いたセニアは、挑発的な眼差しでレオノラを見つめる

美貌も才能も私のほうがずっと上だという、勝者の目

レオノラははっきりしない夫を

離婚するなら過去の詐欺まがいの不正を全て訴えてやる

刑務所のあなたを、あの女は5年も待つかしらねと脅し

家から追い出します

 

そこでクリスチャンはレオノラの古い友人に会うと

彼女が学生時代、浮気した恋人を崖から墜落死させたかも知れないという

噂を聞くのでした

レオノラ殺す決意をするクリスチャン

ジョギングするレオノラをレンタカーで待ち伏せして彼女を轢き

まだ動いていることを確認すると、バックして確実に殺すのでした

車を洗車し、我が家に戻ってグラスにウィスキーを注いでいると

ジョギングを終えたレオノラが帰って来きます

ジョギングコースを変えたのよ

あの女と別れて戻ってくれたのね

クリスチャンは間違ってレオノラ似た女性を殺してしまったのです

(パーカーもジョギングコースも時間も同じという偶然 笑)

しかしレンタカーをレオノラのプリペイドカードを使って洗ったため

レオノラに犯行がばれ逆上されてしまいます

詐欺だけでなく、殺人まで弱みを握られてしまった

そうしてセニアを殺す計画に付き合わされることになります

この男セニアに会ったとたん海綿体が言うことをきかない(笑)

若い女と不倫すると、若い頃に戻れた錯覚をするんでしょうね

(奥さんもあんな迫り方しちゃダメよ)

そんな中年男の心理もレオノラは見透かしていたのです

夏至祭の「たき火」見るため集まった人々

ハリネズミの死骸のニオイかと異臭に顔を背ける友人

行方不明のセニアを捜索する警察、吠える警察犬

なかなか火のつかないマッチ

やっと炎が燃え上がるとその中には朽ちたセニアの顔

 

考えてみれば、建築士としての才能も将来もあったのに

セニアはお気の毒よね

でも仕事のできる女性に、ダメンズ好きは結構多い(笑)

ラスト別荘から引っ越すクリスチャン一家

湖の底には人骨と、かぎ型の刀のようなもの

セニアは、はたして魔女だったのか

それともレオノラが魔女なのか

 

そしてオチは、なんとこの話

嫁ぐ娘への手向けに「愛ほど恐ろしいものはない」と

父親が捧げた教訓だったという(笑)

 

まあ、こんな話をされて結婚が怖くなるのは

男のほうだろうと思うけど(笑)

 

 


解説シネマトゥデイより

[Netflix作品]長年生活を共にしてきた夫婦の関係が、夫の不倫によって変化するさまを描くサスペンス。妻が夫の浮気現場を目撃したことをきっかけに、二人は互いに憎しみ合うようになる。監督を手掛けるのは、バルバラ・トップソー=ローゼンボリ。『皆殺しのレクイエム』などのダール・サリム、『白昼夢に抱かれる女』などのソニア・リヒターをはじめ、スス・ウィルキンス、ミケル・ビアクケーア、ラース・ランゼ、ミロ・カンパナーレらが出演している。

ミス・シェパードをお手本に(2015)

原題は「THE LADY IN THE VAN (ヴァンの中(車中暮らし)の女性)

邦題のように決して「お手本」にはなりません(笑)

老女の路上生活もの

むしろお手本にすべきはレディ・シェパードが

ヴァンを停めて生活する近隣の人々

本音は早くどこかに行って欲しい

消えてほしいと願っているのですが(笑)

建て前では挨拶をしたり、食べ物を運んだり

親切にしています

今なら見て見ぬふりをするのでしょうが

50年以上前の1970年のロンドンは

他国からの難民や移民が今ほど多くなかったのでしょう

同じ民族、同じ宗教

身寄りも家もない老女を、邪険にするわけにいかなかったのです

冒頭、老女が運転する(明らかに人を撥ねた)ヴァンが

パトカーに追いかけられています

ヴァンはパトカーをかわし見事に逃げたつもりでいましたが・・

それから何年か後、ロンドンのカムデンタウンに引っ越してきた

劇作家アラン(アレックス・ジェニングス )は原稿を書いています

主人公は勝手に自宅のトイレを借りに来る

自称清潔好きのホームレス、レディ・シェパード(マギー・スミス

我儘で毒舌でプライドが高く、カムデンタウンでは有名人でした

しかしついにレディの車に、行政から移動命令が出ます

しかもある晩怪しい男(実はレディを追いかけた警察官)が

彼女を脅し金を巻き上げている

そのうえふざけた若者たちがレディの車に悪戯しようとします

さすがに放っておけなくなったアランは

レディのヴァンを自宅前のスペースに駐車させるのですが

なんと(認知になった母の姿とかぶることもあり)それから15

レディはそこに住み続けたのでした

ただね、実話が元とはいえお堅すぎる

しかも半端に暗い(笑)

どうせなら「マダムと泥棒」(1955)みたいに

ババアに振り回され騙されるような

コメディ的に弾けたほうが絶対面白くなったはず

フランス語、ピアノ、交通事故(過失致死傷罪

一途な信仰心、懺悔(教会では消臭スプレーを常に用意 笑)

ラストに伏線回収して真実が明かされる・・

(そしてちょっとしんみり)くらいがいい

アランがパートナー(ゲイ)と暮らすようになったくだりも

レディから励まされたエピソードのようなものがあれば

もっとしっくりきたでしょう

でも人に親切にして悪いことはありませんね

事実アランも劇作家として成功し

こうやって映画の主人公にもなれたのですから(笑)

 

 

 

【解説】allcinema より

英国の劇作家アラン・ベネットの驚きの実体験を、アラン・ベネット自らの脚本で映画化したヒューマン・コメディ。オンボロワゴン車で寝泊まりする偏屈老婦人と、彼女のために自宅の敷地を提供した劇作家の15年にわたる奇妙で心温まる交流をユーモラスに綴る。主演はともに舞台版でも同じ役を演じたマギー・スミスとアレックス・ジェニングス。共演にジム・ブロードベント。監督はアラン・ベネットとは数々の舞台でタッグを組む盟友で、映画でも「英国万歳!」「ヒストリーボーイズ」に続いてこれが3度目のコラボとなるニコラス・ハイトナー
 ロンドンのカムデン、グロスター・クレセント通り23番地。文化人が多く暮らすリベラルなこの地区に、壊れかけた一台のバンが停まっている。所有者はみすぼらしい身なりの老婦人、ミス・シェパード。ホームレスの彼女は、このバンで寝泊まりし、自由気ままに暮らしていた。プライドが高く、心配する近所の住人の親切にも、悪態で返す偏屈ぶり。ある日、ついに退去命令を受けて途方に暮れるミス・シェパード。劇作家のベネットは、そんな彼女に自宅の敷地を提供する。一時しのぎになればと軽い気持ちで提案したベネットだったが、まさかそのまま15年間も居座り続けるとは思いもしなかった。頑固で変わり者の彼女に振り回されつつも、決して互いに深入りすることのなく、一定の距離を保って奇妙な共同生活を送るベネット。それでも作家として、ミス・シェパードの謎めいた人生に興味を抱かずにはいられないベネットだったが…。

ひとつの太陽(2019)

「世界で一番公平なのは太陽だ
 緯度に関係なく地球上のどの場所にも
   一年中公平に光を注ぐ」 

 

原題も「陽光普照」 (A-SUN )
ここでの太陽とはたぶん親(特に母親)のことでしょう

だけど親が子にいくら愛情を注いだからって
日向ですくすく可愛がってもらい成長する子もあれば
雑草のように踏みつけられたり
日陰のじめじめした環境で育つ子もいる


でもどの子が美しい花を咲かせ、実を作り種を蒔くかは
誰にもわからない

非行、少年犯罪、妊娠、受験、親の期待
若者の苦悩を全部詰め込みながら
ここまで綺麗にまとめあげた演出の巧みさには驚きます

「パラサイト 半地下の家族」と同年公開ですが
ひたすら台詞が多く五月蠅い「パラサイト」より(個人の感想です)
本作のほうがアカデミー賞に相応しかったのではないでしょうか(笑)

冒頭、バイクに乗ったチンピラ2人組が
飲食店で働く若者、オレンの手首を切り落とします
スープの中に落ちる手首

 

首謀者のアーフーは実刑
実行犯ツァイトゥは執行猶予でしたが
ツァイトゥの父親はアーフーの父親アーウェンに
ツァイトゥの保釈金をねだりに来ます
多額の保釈金を払えるわけもないアーウェンは
ツァイトゥの父親を邪険にします

時を同じくして15歳の少女シャオユーが
アーフーの子を宿ったと訪ねてきます
シャオユーは両親をバスの事故で亡くし
叔母(母親の妹で独身)に引き取られたものの馴染めないでいました
アーフーの母親は美容師で、シャオユーに仕事を教えながら
出産まで面倒を見ることにしました

アーフーの兄アーハオは医大を目指す予備校の優等生で
やさしくて心遣いがあり、アーウェンの自慢の息子でした
アーハオはその予備校でグオ・シャオゼンという女の子と出会い
親しくなります

その時アーハオがシャオゼンにした、司馬光の水がめの話 
アーハオは俗説とは違う、彼なりの解釈をしていました
これがこの物語のメインテーマだと思うんですね

司馬光は、幼少の頃から神童として知られていました
子どもの頃、庭で友だちとかくれんぼをして遊んでいたところ
司馬光は友だちのひとりが見つからないという
司馬光がその友だちを探しにいくと、大きな水がめを見つけます
みんなはきっとあそこだと騒ぎ、司馬光が石を投げて水がめを割ると
そこに隠れていたのは司馬光本人だったのです

シャオユーの妊婦検診の日、どうしても仕事を抜けれない母親は
アーハオに付き添いを頼みます
そこでアーハオはシャオユーに「アーフーに会いたい?」と尋ね
彼女を鑑別所に連れて行きますが面会できるのは家族だけでした
「知らなかった、ごめんね」

アーフーと面会したアーハオはシャオユーが来ていることを伝えます
シャオユーの妊娠を初めて知ったアーフーは驚き怒りますが
その時からアーフーは変わります

 

アーフーも本当は優しい男の子なんですね
でも幼い頃から優秀な兄と比べられ、父親から辱められ
捻くれてしまった

逆にアーハオはアーフーが羨ましかった
いつも親や周りの期待に答えなければならない
自分は何者なのか、本当に医者になりたいのか
そしてマンションから飛び降りてしまった

あんなにいい兄さんがなぜ死ななければいけないんだ
葬式に参列したアーフーは
「おまえが死ねばよかったのに」という思いを感じずにいられない
でも彼が捻くれることは、もうありませんでした

シャオユーと結婚
出所してからは洗車場で真面目に働き、夜はコンビニでアルバイト
シャオユーも子育てしながら美容師の卵として母親を手伝います
アーウェンもアーフーを少しずつ見直していくようになります

 

そこにやって来たのが、昔の仲間ツァイトゥ
彼はアーウェンが保釈金を払わなかったことを根に持ち
アーフーの職場までやって来て嫌がらせし
ヤバイ仕事を頼むようになるのです

アーフーの働く洗車場は、超高級車専用なので
ツァイトゥの態度はヒヤヒヤもの(笑)

アーウェンは何とかアーフーと付き合うのをやめさせようとしますが
ツァイトゥの挑発は止まりません

そしてツァイトゥに頼まれた現金引き渡しの日
ツァイトゥが行方不明になってしまいます

ヤバイ奴らがやって来てアーフーはリンチにあいますが
アーフーが大金を一銭も使っていなかったことで信用され
ツァイトゥが何者かによって殺されたことを知らされます

 

ツァイトゥも本当は祖母思いで気の弱い子だった
でも守るべきものがなくなって、反社会的になってしまった
彼の気持ちもわからなくはないですよね

洗車場の社長も過去に訳ありそうだし
アーハオの彼女シャオゼンも
鑑別所の太っちょも、片腕になったオレンも
みんな何かを抱えて生きている
苦しみを乗り越えようとしている

 

そしてこんな形でしか息子を守れなかったアーウェン
自分勝手でしかないけれど、それも彼なりの愛の示し方だったのです

ラスト、アーフーと自転車で2人乗りをする母親
とても微笑ましい光景だけど、お母さん
それ盗んだ自転車だから(笑)

 

監督の鍾孟宏(チョン・モンホン)は評判が高いらしいですが
日本では劇場公開になったことはないということ
脚本もですが、映像がとにかく素晴らしくバランスがいい
なんと監督自らも撮影しているそうです
(撮影監督の中島長雄は鍾孟宏のペンネーム)

興行に惑わされず、良い作品を求める
もしかしたら今一番注目すべき映画作家かも知れません


 

【解説】映画.COMより
次男の逮捕をきっかけにバランスを失った家族の崩壊と再生を描き、第56回金馬奨で作品賞など5冠に輝いた台湾発のヒューマンドラマ。チェン家の次男アーフーが事件を起こし、少年院に送られた。自動車教習所の教官である父アーウェンは問題児のアーフーを完全に見放し、医大を目指す優秀な長男アーハオに期待を寄せる。母はどちらの息子にも同様に愛情を注いでおり、夫婦の間には諍いが絶えない。ある日、アーフーの子を妊娠したという15歳の少女シャオユーがチェン家を訪れる。さらに追い打ちをかけるように、突然の悲劇が家族に降りかかる。監督は「ゴッドスピード」「失魂」のチョン・モンホン。2019年・第32回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門上映作品。
2019年製作/156分/台湾

2046(2004)

「あなたが私を愛してなくても
 私はあなたを愛している
 だからもう私は別の男を連れて帰らない
 あなたも女を連れてこないと約束して」

 

「ムリだ」

原題も「2046」(ニーゼロヨンロク)

1996年、香港がイギリスから中国へ返還

中国とイギリスは社会主義への移行準備期間として

返還後50年間は香港の資本主義を守る協定「一国二制度」を結びます

つまり2046年は香港人にとって運命の年

「終わり」「出発地点」「変化」という意味もあったでしょう

(その後「一国二制度」の解釈は一方的に捻じ曲げられ25年で協定は破られる)

長年南洋諸島を旅していた元新聞記者で小説作家の

チャウ(トニー・レオン)が香港に戻りとあるホテルの

2047号室に宿泊し、壁の穴から隣の

2046号室の様々な人間関係を覗き見ることになります

2046号室は「花様年華」でチャウとチャン夫人(マギー・チャン)が

逢瀬を重ねたホテルの部屋番号ですが

チャウのプレイボーイぶりは「花様年華」の続編というよりも

欲望の翼」のヨディ(レスリー・チャン)のオマージュ

(フィルムも故レスリー・チャンへ捧げられている)

ホテルのオーナーの娘ジンウェン(フェイ・ウォン)は

日本のビジネスマン、タク(木村拓哉)と付き合っていますが

父親に交際を反対され、タクは日本に帰ってしまいます

愛し合いながら、言葉もろくに通じず文通さえままならない

国を隔てられたふたり

一方でチャウに本気で恋していく娼婦バイ・リンチャン・ツィイー

チャウを愛しながら別れを選ぶ賭博師スー・リーチェン(コン・リー

シンガポールで死んだ恋人が忘れられないダンサー

ルル(カリーナ・ラウ) という女たち

チャウはタクを主人公(自分の分身)にして新たな小説を書き始めます

タイトルは「2047

小説の中の登場人物たちは「失われた愛を見つけることができる」

2046」という場所を目指しミステリートレインに乗り込みます

でも「2046」が本当にあるかどうかは誰も知らない

なぜなら「2046」から帰ってきた者はいないから

ただひとりの「男」を除いて

しかし「男」は再び「2046」に向かう列車の中にいました

(それにしても木村拓哉の色気のなさよ 笑)

「男」はアンドロイド(マギー・チャン)に温もりを求めやがて愛してしまう

しかし「男」の求愛にアンドロイドは答えない

車掌は長旅で感情機能にタイムラグが生じていると説明しますが

「男」はアンドロイドは自分ではなく、他の男を愛しているのだと

彼女を諦める決断をするのです

現実の世界に小説(妄想)の世界が侵食して交錯するって

若い人にしたら呆けたのかって思われるかも知れないんですけど(笑)

年を取ると、過去を作り上げてしまうことが本当にあるんです

そのうえで男が人生で出逢った女たちを

(付き合った事実があったかは関係ない)描くとこうなる

高嶺の花、人妻、金持ち、謎の女、付きまとう女、ツレない女

魅力の感じない女、慰めてくれる女

お金と引き換えに買う恋

言葉や国の壁に隔たれた恋

人間とAIの恋

本気の恋を忘れるための恋

彼女たちとの恋愛が成就することはない

今となっては愛していたかどうかもわからない

だけどその面影は、年齢を重ね思い出していくたび

美しく輝いていくのです

チャウの勧めでジンウェンはタクに会うため日本へ旅立ち

父親はふたりの結婚を認めることにします

チャウが書き上げた「2047」を彼女に贈ると

ジンウェンは「2047」はすばらしい小説だけど

結末が悲しすぎるから変えてほしいと言います

チャウはやってみますと答えましたが

100時間考えてもハッピーエンドになる方法がわかりませんでした

「叶わぬ恋」描き続けるウォン・カーウァイ

集大成か、それともマンネリか、悩むところですが(笑)

スタイリッシュな脚本と

クリストファー・ドイルの、どのシーンを切り取っても

絵になるカメラは本作でも溜息モノなことに間違いありません

残念だったのは(俳優の個性や国際色を尊重するあまり)

全編広東語でなかったこと

カサブランカ(1942)のボギーのセリフと、カーウァイは

日本語で喋らせちゃダメよ(笑)




【解説】より

花様年華」「ブエノスアイレス」の巨匠ウォン・カーウァイ監督が、トニー・レオン木村拓哉らアジアを代表するトップ・スターたちを結集し手掛けた壮大なSFラブ・ストーリー。過去に囚われた一人の小説家が近未来を舞台にした物語を執筆、次第に小説家の現在と物語の中の未来が時空を超えて交錯していくさまを、美しい映像で綴る。
 1967年の香港。新聞記者から物書きへ転向したチャウは、これまで何人もの女たちと刹那的な情愛を繰り返していた。ある日、彼はとあるホテルの2046号室に泊まることに。そして、宿泊先のオーナーの娘ジンウェンが日本人青年との叶わぬ恋に苦しんでいると知ったことがきっかけで、『2046』という近未来小説を書き始める。それは2046年が舞台。主人公の男は美しいアンドロイドたちが客室乗務員を務める謎の列車に乗り、そこへ辿り着けば“失われた愛”を取り戻せるという<2046>へ向かった――。そんな内容をしたためるうち、いつしかチャウは主人公に、心の底から愛した女性と結ばれなかった過去が甦ってくる自分自身を投影していた…。

世界の中心で、愛をさけぶ(2004)

大ヒットしましたね、今さらながら初見(笑)

タイトルはアメリカのニュー・ウェーブを代表する作家

ハーラン・エリスン の「世界の中心で愛を叫んだけもの

The Beast that Shouted Love at the Heart of the World

からの引用でしょう



アプローチは「君の膵臓を食べたい」(2017)とほぼ同じ

不治の病で余命僅かな女子高生とクラスメイトの男子との純愛

だけど「セカチュー」というよりは「自己チュー」に近い(笑)

台風が近づいているある日、朔太郎(サク)(大沢たかお)と
もうすぐ結婚する予定の 律子(柴咲コウ)が荷物を片付けていると
子ども時代の服のポケットからカセットテープを見つけます
何かを思い出した律子は急いで家電量販店に行きウォークマンを購入
そこには息が途絶えそうな女の子の声が録音されていました
サクが仕事から戻ると律子の姿はなく「出かけてきます」の置手紙
心配したサクが幼なじみで律子との仲人である
龍之介(リュウ)(宮藤官九郎)が経営する店を尋ねると
偶然にもテレビで台風の中継をしている高松の駅前に律子が映っていました
急いで高松に向かったサクでしたが、立ち寄った実家で
古いウォークマンとカセットテープを見つけ聞き入ってしまいます

亜紀(アキ)(長澤まさみ)は才色兼備で高校のマドンナ、アイドル

そんな彼女と初めてのスクーターふたり乗り

ラジオへの投稿(ジュリエット役が白血病になるは蛇足)

交換日記ならぬ交換テープ、無人島での一泊

白血病、闘病、婚姻届け、ウエディングドレス、記念撮影

(条件は髭爺の初恋相手の遺骨を盗むって・・お墓に手くらい合わせろ!)

叶わなかったオーストラリア旅行・・

いやいや、アンタ

婚約者を追って四国に帰ったのに、彼女そっちのけで

初恋の相手の回想にばかりふけるってどうよ(笑)

 

しかも、お互いの名前の漢字を初めて知るとかクラス名簿くらいあるでしょ

それとも四国は先生も生徒も「ひらがな」でしか呼び合わない教育制度なの(笑)

そのうえウォークマン1台買うお金もない高校生が

オーストラリアまでの旅費を(どうやって?)捻出し

白血病の少女を嵐の夜に空港に連れ出し「助けてください!」

それでも、そこまではただの「ツッコミ」として許すとしよう(笑)

幼かったころの律子は(母の通院先の)アキとサクの

カセットテープ文通”の配達係だったんですね

その最後のテープを届けに行く途中交通事故にあってしまった

なんのあてもないけど、そのテープを「サク」に届けるため高校に行く

そして雨宿りした髭爺の写真館で、若いカップルの結婚写真を見る

アキの恋人「サク」が、自分の今の婚約者

朔太郎だったことを知るのです

朔太郎に電話をする律子・・

ここからの展開がもう「ツッコミ」では許せない

「何があったんだ」とトンチンカンな返事の朔太郎

(そこは「どうしてそこに」「なぜ知っている」じゃねえか)

写真館へ律子を迎えにいくものの、すでに律子はおらず

爺にアキの死から逃げていたことを告白

(いいかげん律子のことも心配しろよ)

しかもアキの遺灰を散骨する旅に律子を誘うのか

ここはかなり引く(ハネムーンの代わりだとしたら更に最低)

それに墓を荒して盗んだ遺灰を撒くより

普通に遺品(例えば少量の髪の毛とか、ふたりの思い出の品とか)を

土に埋めるなりしたほうがよっぽど自然で感動的

成人してからの朔太郎と、律子は原作にないキャラだそうですが

実際あまり盛り込まず(律子が不憫すぎる)

若いふたりの初恋と、愛する人の死と

それを乗り越えていく大人への成長過程を

シンプルに描いたほうが良かった気がします

ちなみに主演のみなさんの好演に罪はないです(笑)




【解説】allcinema より

空前のベストセラーとなった片山恭一の同名小説を「ロックンロールミシン」「きょうのできごと」の行定勲監督で映画化した本格ラブ・ストーリー。最愛の人の死を胸の奥に抱えたまま、現在の愛に葛藤する一人の男の姿を切なく描く。主演は「解夏」の大沢たかおと「着信アリ」の柴咲コウ。共演に「ロボコン」の長澤まさみ
 結婚を控えていた朔太郎は、婚約者・律子の突然の失踪に困惑する。律子の行き先が四国と知り、彼女を追って四国へ向かう朔太郎。しかし、そこは朔太郎の故郷であり、彼の初恋の相手にして最愛の人・アキとの思い出が眠る場所でもあった。朔太郎は次第に初恋時代の思い出の中に迷い込んでいく――。高校2年の朔太郎は、アキとの甘く淡い恋に浸っていた。ウォークマンでの声の交換日記や無人島への一泊旅行…。ところが、約束されていたと思われた2人の明るい未来は、アキが不治の病であることが発覚し一転してしまう。

スパイの妻(2020)

英題も「WIFE OF A SPY

日中戦争での731部隊の生体実験と

それに関わった夫婦の騙し合い

ヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞(監督賞)を受賞

スリリングで目が離せないシーンもあったものの

戦時中の謝った情報や地下活動を見せることも

最後まで核心に触れることもなく

まるで中途半端なテレビドラマと思ったら

本当にテレビドラマを劇場用に編集したものでした(笑)

 

もし重要な部分を時間の都合上カットしたのならもったいない

オリジナルのまま配信したほうが良かったと思います

結局残るのは「よいもの」だけなのだから

(アベ・チャンの国葬や、旧統一教会等カルト宗教問題で少々病んだレビューになってます 笑)

1940年神戸

聡子(蒼井優)は貿易会社の社長夫人として優雅に暮らしていました

しかしある日、幼なじみであり神戸憲兵分隊本部の分隊

泰治(東出東大)に呼び出され

旅館「たちばな」の近くで水死体となって発見された草壁弘子という女性が

夫の優作(高橋一生)と甥の文雄(坂東龍汰) が出張先の満州から

日本に連れ帰った女性だというのです

 

不安になった聡子が(会社を辞め小説家になると言い出した)文雄に会いに行くと

文雄は封筒を取り出し、誰にもばれないように優作に渡して欲しいと頼みます

聡子は会社行き、優作に(封筒を渡すかわりに)何があったのか

本当のことを教えてほしいと懇願します

死んだ弘子は満州の看護師で軍医の愛人だったと言います

優作が医薬品を入手するため、満州関東軍の研究施設に行くと

そこにはあったのはペストによる死体の山でした

そして優作は弘子から、関東軍が細菌兵器の人体実験をしていることを聞くのです

人体実験の詳細が書かれたノートを入手し優作は

それを文雄に英訳するように頼み、国際的に発表しようとしていたのです

それは日本国家に反逆する事聡子は優作を止めますが

優作「絶対的な正義を選択する」決意は揺らぎませんでした

 

さらに聡子は地下室で人体実験の証拠となるフィルムを発見してしまいます

優作の言っていることは本当だった・・

物語のモチーフである、1940年の満州国におけるペストの流行は

実在した関東軍731部隊の細菌兵器の研究開発による

ペストに感染させたノミを日本軍が散布したことによるものだと

主張されているそうです

(それだと日本軍も感染してしまいそうだがな)

優作を守るため、聡子は文雄を泰治に売ってしまう

そして戦争犯罪(禁止兵器の使用)告発のため

優作とアメリカへ亡命を決意するのです

どんなに苦しくても、たとえ裏切り者でも

妻として愛する夫に尽くす喜び

 

聡子は大量の死体の写ったフィルムを隠しアメリカ行きの貨物船に乗り

優作は文雄が英訳した資料を持ち

上海経由でアメリカに渡り合流する計画を立てます

しかし 聡子は何者かの通報により憲兵に捕らえられ、密航に失敗

しかも国家機密だと思っていたフィルムは優作が趣味で撮った映画でした

聡子はスパイの罪こそ問われなかったものの

辻褄のあわない言動に精神病院に入院させられてしまいます

 

1945年、神戸が爆撃され病院も破壊されます

聡子は「これで日本は負ける 戦争も終わる お見事です」と

海岸で泣き崩れるのでした

 

エンドクレジットの前の字幕は

終戦の翌年に優作の死亡が確認されたが

 その報告書には偽造の形跡があり

 その数年後に聡子はアメリカに旅立った」というものでした

結局、犯罪はあったとしても何も明かされず

アメリカで夫婦幸せに暮らしましたということか(笑)

(簡単に日本人がアメリカに行ける時代でもねえけどな)

 

作品そのものの出来は決して悪く無いものの

最大の欠点はリアリティの無さ

敗戦の美化、迫害者の美化

「戦争メルヘン」(新語出た!)

 

戦犯、男と女、売国奴、裏切り・・という反戦ドラマではありますが

最後まで曖昧な結末は「上級国民ドラマ」(新語出た!その2

公用文書は黒塗り、権力を利用して法さえ握りつぶす

戦前戦中の思想が、今の政界のイメージに相応しいことを思えば

公開する意味はあったかも知れません

 

 

【解説】allcinema より

「岸辺の旅」「散歩する侵略者」の黒沢清監督が蒼井優高橋一生を主演に迎えて贈る歴史ラブ・サスペンス。1940年代を舞台に、偶然にも国家機密を知ってしまった夫婦が、それぞれに信念と愛を貫き、戦争という大きな時代のうねりに立ち向かっていく中で辿る過酷な運命を描く。共演は東出昌大坂東龍汰恒松祐里笹野高史。第77ヴェネチア国際映画祭でみごと銀獅子賞(監督賞)を受賞。
 1940年、神戸。瀟洒な洋館に住み、貿易会社を営む夫の福原優作と何不自由ない生活を送っていた聡子。ある日、仕事で満州に渡った優作は、同地で衝撃的な国家機密を目にしてしまう。正義感に突き動かされ、その事実を世界に公表しようと秘密裏に準備を進めていく優作。そんな中、聡子の幼なじみでもある憲兵隊の津森泰治が優作への疑いを強めていく。いっぽう聡子は、優作がたとえ反逆者と疑われようとも、彼を信じてどこまでもついていこうと固く決意するのだったが…。