本当の目的(2015)

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「この国自体が売春婦みたいなもの」


原題は「Три дена во септември

英題はThree Days in September 」( 9月の3日間)

マケドニア正式国名「北マケドニア」独立は1991)と

コソボ(独立は2008合作のマケドニア語映画

 

マケドニア語は北マケドニアの他に

アルバニアセルビアモンテネグロギリシャで一部使われており

ブルガリア語やクロアチア語と似ているそうです

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またどちらの国も、支配者が入れ替わったり

外部からの支配を受け続けたり

長い長い長いあいだ戦争や内戦やテロに苦しめられ

多くの悲劇を生み続けた国

(だから国籍”パスポート”や戸籍が曖昧でも気付かれないのかも)

 

クロアチア難民女性を描いた「あなたになら言える秘密のこと(2005)

でもでしたが、こういう国ではレイプや拷問が横行したり

家族を失い売春するしか生きていけない女性が

現在でも多くいるかも知れません

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BMWの男の車に誘われた、夜の女マリカ

男は(マフィアに雇われた?)借金の取り立て屋で

暴行されたマリカは睡眠スプレーを使い、男のナイフを奪い男を刺し

逃げ込んだ列車で個室の女性に相席していいかと尋ねる


ほぼ下着姿で誰がどう見ても売春婦だとわかるマリカに

同じ年頃のヤナと名乗る女性はまあまあ親切で

(お国柄か顔はどちらも不愛想)

寝ているマリカに自分のカーディガンを掛け故郷の駅で下車します

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雑貨屋で必需品を買い、店の主人の息子で幼馴染のガンツのことを聞く

ヤナの(すでに死んでいる)父親は町の名士で

父が推薦してくれたおかげでガンツは警察官になれたと

しかし村には男が十数人残っているだけで

唯一残っているのは女は90歳のばあさんひとりだけだと言います


ヤナが空き家になっている実家に向かっていると

後からマリカが追いかけていました

マリカはヤナにどうか一晩だけ泊めてくれという

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こういう国の女同士にしかわからない、女性の困っている立場

ヤナはマリカに服と食事と寝床を与えます


二日目、幼馴染の警察官ガントがヤナに会いに来る

ヤナとヤナの双子の(結婚して海外で暮らしているという)

妹クリスティーナが父親から相続したホテルを

高値で(売春宿にするため)買いたいと言う人がいるという

ヤナはクリスティーナに相談してみるといいます

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マリカは雨宿りのため立ち寄った老婆(唯一残っている女)から

「男は勃起する」けど女には害がないハーブティなような飲み物をもらい

マリカにガントがいかに悪人かを教えます

(ばあさんでネタバレ(笑)事件がその媚薬のせいでないことを祈る)


三日目、ヤナは廃墟になった(景色のいい)絶壁に建つホテルを

マリカと見に行きます

そしてまだ12歳の時、自分と妹クリスティーナに起きた悲劇を

マリカに教えるのです

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ヤナは遊びの最中ガントにレイプされ

それを目撃したクリスティーナはショックで絶壁から転落してしまう

ガントはクリスティーナに駆け寄り彼女を救出

そして町の英雄になったのです

クソ野郎なのに!(雑貨屋のお父さんはイイ人なのに!)


ヤナの回想シーンは一切ありません

なのに会話と雰囲気だけで、悲劇の過去が蘇る

「子どもの頃の話だろ?」

子どもだったからこそ許せない

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ホテルを売却するとガントをおびき寄せ

ライフルで撃ち、クリスティーナの時と同じように

絶壁から転落させて殺します


ここからの畳み方がうまい

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ヤナの正体は、実は妹のクリスティーナでした

ガント殺害後、自称ヤナは通報し

マリカが国外に逃亡できるよう

クリスティーナ(自分)の身分証とパスポートを渡します


そして自称ヤナはガントを殺害したのは

列車で偶然知り合ったマリカという女性で

(ヤナの)身分証とパスポートを盗まれ逃げられたと証言します

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なるほど、警察はヤナの身分証とパスポートを使った女を探し

自称ヤナには新しい身分証とパスポートが発行されるというわけか(頭いい)

 

本物のヤナは自殺したのか

戦争や内戦で行方不明になったか

何も語られない

わかるのは、クリスティーナはガントへの復讐のため

ヤナになりすまし故郷に帰って来たということだけ

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クリスティーナはヤナとして生きていき

マリカはクリスティーナとして生きていく

マフィアに追われる売春婦のマリカは、もうどこにも存在しない

 

マリカと、クリスティーナは二度と会うことはないでしょう

だけどこれからは(戸籍上では)永遠に姉妹になったのです

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レイプや殺人という鬱々なテーマながら、1時間半という短尺なので

気合いを入れなくてもサクッと見れるのが楽(笑)

 

しかも勧善懲悪でスカッとするラスト

まるわかりな低予算ながら、丁寧で無駄のない演出

寂れた風景と、軽蔑という目を映し出す冷たいカメラ

東欧映画、侮れません

 

華氏119(2019)

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原題はFahrenheit 11/9

119」はドナルド・トランプが第45代大統領が勝利宣言をした

2016119日」意味

 

トランプ大統領に対する批判だけを描いているのではなく

(でも愛娘イヴァンカへの近親愛はムーアが言う通りキモチワルイ)

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アメリカの大統領選の特殊な選挙制度

民意は無視され、富豪による富豪のための政治

労働者たちの不満、経済状況

トランプを当選させたアメリカ社会に鋭く切り込みます

 

これを見るとアメリカだけの問題ではなく

トランプ(ロシアゲート等)と大親友アベ・チャン(モリカケ他)も

習近平 (終身独裁者)も、ヒトラー(人種主義)も

同じベクトルが働いているようにしか思えない

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ムーアはまず故郷ミシガン州2010年に当選

トランプの手本ともいえるスナイダー知事について説明します

知事に全ての権力を集中させ貧困層住むフリントという町の水道を民営化

水道水を湖から川の水に切り替え、浄化もせず鉛の混ざった水を供給し

人々は鉛中毒になり、細菌による疾病まで頻発します

 

しかし水質調査も、健康診断の結果も改ざんされ

オバマ大統領水に口をつけるパフォーマンスには、住民たちもがっかり

オバマも結局だな)

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いつの間にか民主党共和党と変わらない体質になり
国民の間に広がる政治家への不信と諦め

 

そんななかでも変化のため戦おうとする人々はいました

ウェスト・ヴァージニア州の元軍人

地元の子どもたちの環境は、アフガニスタンイラクより悪いと言う

民主党から連邦議会に立候補し選挙運動をはじめます

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さらに#MeToo運動を背景とした女性候補者による

いわゆる「ピンクウェーブ」は 民主党議席増に直結

ムーアは民主党の若手ホープ、オカシオ・コルテスさんが

救世主”になることを願っているように見えます

 

ウェスト・ヴァージニア州では公立校教員と職員が全55郡で団結

(公務員が禁じられている)ストライキを決行し賃上げを勝ち取ります

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フロリダ州パークランドの高校ではAR-15ライフル銃による銃乱射事件が起き

生徒たちは銃規制しない政治家を落選させる運動「命のための行進」を企画

全米700箇所以上、海外でも100箇所以上でデモが行われました

 

なのにいまだに半数近い国民がトランプを支持し

ウソの上にウソで塗り固めた男のほうが、信頼がおけると信じている

属国日本との驚くほどの相似形

かといって極端なリベラル派も嫌いなんだけど(笑)

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最後まで一気に見せるムーアの演出力はさすが

自分の信じる道をまっしぐら

政治に興味がない人でも、多少なり関心をもてるようにしている

 

パークランド高校の生存者、エマ・ゴンザレスさんが壇上で

犠牲となった友達を追悼する感涙のラストまで一直線に持っていく

彼女には環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんと似た

カリスマを感じました

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【解説】allcinema より

ボウリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」のマイケル・ムーア監督が、トランプ大統領を誕生させたアメリカ社会の混迷ぶりを解きほぐしていくドキュメンタリー。2016119日、アメリカ大統領選でドナルド・トランプが勝利を宣言した。誰も予想できなかった驚きの結果だったが、マイケル・ムーア監督は数ヵ月も前にその可能性に言及、警鐘を鳴らしていた。そんなマイケル・ムーア監督が、なぜ支持率でも総得票数でもヒラリー・クリントンを下回ったトランプが当選できたのか、そのからくりをアメリカの特殊な選挙制度を通して明らかにするとともに、民主党に対してもその欺瞞を暴き出す一方、民主主義を再び市民の手に取り戻そうと立ち上がった人々が巻き起こす新たなムーブメントを追い、自分たちの未来のために何が必要かを訴えていく。

 

ボウリング・フォー・コロンバイン(2002)

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原題も「BOWLING FOR COLUMBINE

アカデミー賞長編、ドキュメンタリー映画

フランスのセザール賞、最優秀外国映画賞

カンヌ映画祭では特別賞ほか多くの賞を受賞し

マイケル・ムーアを一躍有名にした作品


監督自らのインタビュー式のドキュメンタリー映画

ムーアはこの手法を原一男監督の「ゆきゆきて、神軍(1987)

ヒントにしたと答えています

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タイトルはコロラド州ジェファーソン郡コロンバインの郡立コロンバイン高校で

19994月に同校の生徒、エリック・ハリスとディラン・クレボルドが

銃を乱射した「コロンバイン高校銃乱射事件 」から

12名の生徒と1名の教師を射殺、重軽傷者24名を出した後両名は自殺しますが

ふたりが事件を起こす前、変わった様子はなく

ボウリングをしていたことがわかっています

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そしてコロンバイン高校の近くにはロッキード社のミサイル工場があり

生徒の両親の多くもこの工場で働いているいること

事件当日はアメリカ軍がコソボ紛争中のコソボへ最大の爆撃を行い

ビル・クリントンによる爆撃作戦の成功の会見を開いたわずか1時間後

銃乱射事件について会見を開いたこと

この事件から10日後、全米ライフル協会は近くのコロラド州デンバー

銃所持の権利を主張する集会を開いたことなどを

時にユーモラスに取材していきます

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この地域では銀行で口座を開設すればタダで銃がもらえ

スーパーマーケットで簡単に弾が買える

誰もが銃を持っている銃社会だから、事件が起きると考えますが


カナダではアメリカ以上の銃所持国で

スーパーでは自分のような外国人でもいくらでも弾も買えるにもかかわらず

銃による殺人事件が起こることはなく、黒人も安全に暮らせる

貧乏が原因かといえば、アメリカよりカナダのほうが失業率が高い

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流血の歴史が銃犯罪を生むのかといえば

ドイツにも、日本にも、イギリスにも、ロシアにも

虐殺の歴史はあるけれど銃犯罪はほとんどない


ならば過激なロックが若者に悪影響を与えていると人々は言う

実際にマリリン・マンソンの曲が原因で乱射事件がおきたと

申し立てがなされたそうで

マリリン・マンソン本人がインタビューに答えています

(マンソンが一番マトモで、ナイーブに見えるわ 笑)

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そして武装する権利の擁護」 全米ライフル協会会長

チャールトン・ヘストンにインタビューを申し込み

それがもう映画の中に出てくるようなスゴイ豪邸(映画の中だけど 笑)

ヘストンはムーアを快く迎え

彼の映画のポスターが飾ってある部屋に案内します

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そこでムーアは2000年に(ムーアの故郷)ミシガン州のフリントの小学校で

6歳の男児6歳の女児を射殺してしまった加害者が最年少の

銃による殺人事件についてどう思うかヘストンに尋ねます

ヘストンは答えられず部屋を出て行ってしまう

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これを見るとヘストンは間違いなく悪い人じゃない

彼は全米ライフル協会にちやほやされ

広告塔として元スターの知名度を利用されているだけ


しかも1923年生まれのおじいちゃん

子どもが銃を持つことは自分の意図することではなく

コロンバイン高校銃乱射事件 」もフリントの小学校で起きた事件も

本当に知らなかったのでしょう

まして暴力に命を奪われた人々に手向ける言葉が

すぐに思い浮かぶ人なんて、そういない

(撮影の翌年アルツハイマーを理由に会長を引退)

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一方でムーアのアメリカをいい国にしたいという熱い思いは伝わるけど

アメリカの銃社会や、人種差別や、政治問題を

こんなに堂々と批判してよく殺されないものだと思う

他の映画監督が、ここまでワスプやKKKNRAを非難したら

宿泊先のホテルに少なくても銃弾3発は撃ち込まれているはず(笑)


それだけアメリカ政府さえ手出しできない

ムーアにはビッグな後ろ盾があるということなのでしょう

ムーアと、ムーアのアメリカへの反逆ネタの映画を利用し

莫大な利益を得ている、なにか大きな存在が動いている(気がする 笑)

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最後にムーアは事件の被害にあった少年ふたりを伴って

大手スーパーマーケット、Kマート本社を訪れ

全ての店舗で銃弾の販売をやめさせることに成功、幕を閉じます

(だからKマートは経営破綻したのか)

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アメリカは変わらない

それどころかこの映画が製作された18年前より

さらに状況は悪くなっている

よその国を爆撃し、自国では銃乱射事件が起き続ける

 

昔見た時は、重いテーマながら

ありえない突撃インタビューに笑えたのですが(笑)

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トランプの大統領選とか、ミリシアとか

最近ではアメリカのリアルな姿を見れるようになり

この映画が伝えるアメリカの問題を

以前より真剣に考えるようになった気がします

 

 

【解説】allcinema より

 カメラとユーモアを武器に世の中の不合理に鋭く迫る異端のジャーナリスト、マイケル・ムーアが、全米に大きな衝撃を与えたコロンバイン高校銃乱射事件を足掛かりに、アメリ銃社会の矛盾を強烈に斬りまくった傑作ドキュメンタリー。全米ライフル協会会長チャールトン・ヘストンにお得意のアポなし取材を敢行するなどまさに命を張った渾身の一作。ドキュメンタリーとして46年ぶりにコンペに出品されたカンヌ国際映画祭では、その圧倒的人気に急遽<55周年記念特別賞>を新設してその功績を称えた。
 1999420日、アメリカ・コロラド州の小さな町リトルトン。2人の少年は朝の6時からボウリングに興じていた。いつもと変わらぬ1日の始まり…のはずが、この後2人の少年は銃を手に彼らの通う学校、コロンバイン高校へと向かった。そして、手にしていた銃を乱射、12人の生徒と1人の教師を射殺し23人を負傷させた後、自殺した。マイケル・ムーアは問う、“なぜアメリカはこんなにも銃犯罪が多いのか”と。その疑問を解消するため、マイケル・ムーアはカメラとマイクを手に様々なところへアポなし突撃取材を始めるのだった。

ローズの秘密の頁(2016)

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原題は「The Secret Scripture (秘密の聖書)

原作はセバスチャン・バリーの同名小説(2008)

私的には予想外の結末で面白かったのですが(笑)

批評家からはかなりの酷評と低評価だったそうです

 

原作のほうがあまりに素晴らしいのか

北アイルランド人の描き方が間違っているのか

聖書を日記にしたことが、神への冒涜になるのか

理由はわかりません

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1980年代半ばアイルランド西部にある精神病院
老朽化のため壊されることになり、患者たちは転院しなければなりません

そこでただひとり転院を拒み続ける

ローズ・クリア(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)という老女の

再鑑定を大司教から依頼されてやって来た

精神科医のスティーヴン・グリーン(エリック・バナ

 

彼女はカトリック教の神父から「ニンフォマニア」(色情狂)と

報告書にタイプされてしまい精神病院に入れられ

その後自分が産んだ赤ちゃんを撲殺したとして

精神障害犯罪者”として40年以上収容されていました

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グリーン医師は院長にローズの転院を少しだけ遅らせるように頼み

担当の女性看護師ケイトリンと共に、彼女の話を聞き

聖書に書かれた日記を読み、過去の書類を調べます

 

第二次世界大戦の初期の1942

イギリス領北アイルランドにドイツ軍が侵攻してきたため

シッターをして働くローズ(ルーニー・マラ)は職を失い

叔母が経営する故郷の南アイルランドの禁酒ホテルに避難し

地元の独身男たちは、都会から来た洗練された若い女に興味を持ちます

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ある日ローズは酒屋の息子マイケル・マクナルティ(ジャック・レイナー)

声をかけられお互い好意を抱きますが

マイケルは英国軍の兵士不足のため

RAFRoyal Air Force =イギリス空軍 )のパイロットに志願していました

地元の一部の男たち(IRAか)はマイケルを裏切り者とみなし

北アイルランドから来たローズに「どちら派か」と詰め寄ります


海水浴をしていると、見知らぬ男から

海岸は「女人禁制」とか「男の目を見ていいのは妻だけだ」と警告を受けます

ローズが男の言葉を気にせず、帰り道を歩いていると

今度は家まで送っていくという

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男はカトリック教会のガント神父(テオ・ジェームズ)で

それからというものローズの行くところに何かと姿を現すようになります

彼は神父の身でありながらローズに恋をしてしまったのです


一方で仕立て屋のジャック(エイダン・ターナー)から猛烈にアプローチされ

ダンス・デートしているところを目撃したガント神父が嫉妬に狂い

神父とジャックは殴り合いの喧嘩になってしまう

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叔母はローズと男たちの小さな町での噂に耐え兼ね

ローズには生まれながらの魔性があると

彼女を人里離れた家畜小屋に隠すことにします

ひとり自給自足の生活をはじめるわけですが


なんとそこに戦闘機が墜落し、パラシュートが絡まり木にぶら下がっている

パイロットを救助するとそれはマイケルでした

イギリス軍の兵士を探しに来た、ジャックら3人組からマイケルを隠し

マイケルの傷が癒えるまでと、ふたりは穏やかに暮らしていました

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ご都合主義なストーリーと言えば

まあ、その通りそうなんですが(笑)


そこにローズの居場所を知ったガント神父がやってくる

山奥でひとりで暮らすローズを不憫に思い家政婦として雇いたいと言う

ローズは「しばらく考えさせて」とやんわり断りますが

神父は諦めきれません

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やがてマイケルの傷が治り、復員しようとした日

ふたりは激しく結ばれ、(プロテスタント)教会で結婚式を挙げます

指輪の代わりは葉巻の帯、神父の祝福を受ける

 

しかし幸せもつかの間

ローズがマイケルと暮らしていると知った神父は

彼女が「色情狂」である可能性が高いという報告書を作成し

それを盗み見したシスターによって

ローズを精神病院に入院させるという同意書に叔母がサインしてしまう

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山小屋にはマイケルを追う3人組が再びやってきて

ローズはマイケルを逃がしますが

(行方不明になった夫を見つけたと思った)警官にローズは捕らえられ

聖マラキ病院強制入院させられてしまいます

 

そこでは反発する患者は拘束され、薬や電気ショックを与えられます

見舞いに来たガント神父は、ローズに「夫がいれば退院できる」と

プロポーズを示唆しますが、彼女から「妊娠している」と告白されるのです

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それでも神父はローズが好きで、なんとか救いたいと思ってる

それは彼のせいでローズが入院させられてしまった後悔と

彼なりの懺悔だったのかも知れません

 

妊婦の入院患者は(葉巻を作る)別病棟に移され

出産を待つことになるのですが、そこで産まれた子は養子に出されると知り

隙を見て病院を脱走し、泳いで海峡を渡り逃げようとするローズ

 

世間では赤子はゴーント神父の子だと思われていました

カトリックなので誰もローズとマイケルが結婚式を挙げたことをしらない)

脱走の知らせを受けた警官とガント神父はボートでローズを追い

警官は対岸でローズが赤子を殴っているのを見てしまう

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ローズが目を覚ますとそこはベットの上で、息子は死んだと聞かされます

その後、ガント神父からマイケルが3人組に殺されたことを知らされ

ローズは神経が衰弱し、神父とマイケルの見分けさえつかない

しかも取り乱すたびに電気ショックを与えられ、本当に正気を失ってしまう

 

ローズは残っている記憶を留めるため、「ローズ記」として

聖書に覚えていることを書き留めていくようになります

 

私は息子を殺していない

マクナルティという夫は存在する

へその緒を切ったのが間違いだった

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過去の書類に不審な点はない

ふと看護師のケイトリンが、ローズが息子を産んだ日と

グリーン医師の誕生日が同じことに気付く

 

しかもグリーン医師に再鑑定を頼んだ大司教のサインはガント

グリーン医師は両親と住んでいた売却予定の家に行き

父からの遺言を見つけます

 

そこにはガント神父から養子を譲り受けていたこと

死ぬ前に息子ががローズ・クリアの子と打ち明けられたことが書かれていました

そしてもうひとつ、ローズが大切にしていたマイケルの勲章

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ローズは息子を殺してはいなかった

ガント神父が保護し里子に出し、大切に育てられたのがグリーン医師


グリーン医師はなぜ大司教がローズの再鑑定を自分に依頼したのか

その理由をはっきりと理解します

売り家の看板をはずしローズを迎えに行く

(ついでに素敵な看護師も迎えに行け 笑)

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ガント神父がいつか母子が暮らせるようになる、この日までのために

ローズの息子を連れ去ったのかどうかはわからない

もしかしたら子どもは、本当にガント神父の子だったのかも

知れないとさえ思ってしまう

 

でもそんなことはどうでもいい

立派に育った息子の姿と、やさしさと思いやりに

彼女の40年間の苦しみが報われたことには違いありません



 

【解説】allcinema より
「マイ・レフトフット」「父の祈りを」のアイルランドの名匠ジム・シェリダン監督が、同国の人気作家セバスチャン・バリーのベストセラーを映画化した大河ロマン。第二次世界大戦時のアイルランドを舞台に、40年間も精神病院に収容されていた老女のミステリアスな愛の物語を綴る。主演は「キャロル」のルーニー・マーラと「ジュリア」のヴァネッサ・レッドグレーヴ。共演にジャック・レイナー、テオ・ジェームズ、エリック・バナ
 アイルランドの古い精神病院、聖マラキ病院。取り壊しが決まり、患者たちは新たな病院に転院することになるが、ただ一人老女のローズだけはここを動こうとしなかった。彼女は自分の赤ん坊を殺したとの罪で40年間もこの病院に収容されていた。そんなローズの問診をすることになったグリーン医師は、彼女が一冊の聖書に自らの人生を書きつづっていることを知り、彼女の語る過去に耳を傾けていく――。第二次世界大戦中、故郷の田舎町で暮らしていた若きローズは、男たちの注目の的だった。中でも神父のゴーントはしつこく付きまとっていた。そんな中、イギリス空軍に志願したことで裏切り者と白眼視されていた青年マイケルと恋に落ちるローズだったが…。

女と男の観覧車(2017)

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原題は「WONDER WHEEL コニーアイランドにある観覧車のこと)

「女と男の観覧車」というより「疲れた女の観覧車」(笑)

しかもジム・ベルーシは回転木馬の操縦士だし(笑)

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ウディにしてはコメディ要素が少なく

モテ男が恋人の娘を好きになってしまうという展開も

ウディの人生の機微(きび=微妙な事情)を

ペーソスに投影しているように感じます

 

語り手がカメラ目線なのも「アニーホール」「マンハッタン」など

ウディと共同執筆を手掛けたマーシャル・ブリックマン風

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ウディお得意の1950年代の美術や衣装は逸品で

遊園地のネオンサインや、夕日、日照り雨といった光と色調の素晴らしさ

カメラはヴィットリオ・ストラーロ

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コニーアイランドのダイナーでウェイトレスとして働く

元女優のジニー(ケイト・ウィンスレット)は

回転木馬の操縦係の夫ハンプティ(ジム・ベルーシ)と再婚同士

連れ子のミッチーと3人、観覧車の見える部屋で暮らしていました

 

そんなある日、ギャングと駆け落ちして勘当されたハンプティの娘

キャロライナ(ジュノー・テンプル)がFBIに情報を提供して

夫から命を狙われているので匿ってほしいとやって来ます

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ウェイトレスの仕事と、息子のミッチーの放火騒ぎで忙しいジニーは

難色を示しますが、ハンプティはやっぱり娘が可愛い

キャロライナをジニーの勤めているダイナーで働かせ

宝くじで当てた貯金で夜学に通わせる

 

そんな時ライフセーバーをしながら劇作家を目指す

ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と知り合ったジニー

元女優だったジニーは演劇の話でミッキーと意気投合

ふたりは不倫するわけですが

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ミッキーは(ウディの投影)決して女性が傷つくことは言いません

自分のことを正直に言い、好きな場所に連れて行く

記念日には安値でも自分の好きだと思うものをプレゼントする

それが彼なりの恋人へのやさしさ

ジニーはハンプティと別れミッキーと結婚したいと思うようになります

(ジニーの最初の夫はジニーに浮気され自殺している)

 

ハンプティもウディの投影

昔は趣味の釣りに一緒に行ったのに、今では釣りが嫌いだと言う

真面目に働き連れ子の面倒も見ているのに、今ではさらに金を無心する

妻が若い男と浮気しているとも知らず

昔のようにお互いが思いやれる関係に戻りたいと願う

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だけどミッキーとキャロライナが知り合ったときから風向きが変わった

キャロライナは頭はトロいけど邪心がない、あるのは正直な自分だけ

ミッキーは何より自分に正直であることを大切にするタイプ

とはいえジニーと恋人同志である以上

いくらキャロライナのことが好きでも友達の関係のまま

 

自分の誕生日にジニーがあまりにも高価な時計を買ってきたため

「受け取れない」と断ると彼女は狂ったように豹変してしまう

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しかもキャロライナから「美味しいピザの店がある」と

紹介されてふたりでディナーに行った夜

ギャングがキャロライナの命を狙い探していると知りながら

あえてキャロライナに知らせなかったジニー

 

そしてキャロライナは行方不明になります

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ミッキーはジニーのしたことを軽蔑し

なぜこんなイカれた女を好きになったのかと後悔する

 

一方、夫のハンプティはキャロライナがいなくなってしまい

ジニーに昔のような関係に戻って、ずっとそばにいて欲しいと懇願する

いくら冴えない中年のデブでも、大金を盗んでも結局許してくれる

アンタみたいな女にはもったいない男だよ

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息子の放火も、不倫も、どちらも火遊び

失敗したら命取り

なのに心にぽっかり空いた穴を埋めるため、何度も繰り返してしまう

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ケイト・ウィンスレットの演技は彼女の最高傑作といえるほど圧巻だけど

ブルージャスミン(2013)の女神的なケイト・ブランシェット

壊れっぷりのほうが衝撃的だったかな

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【解説】allcinema より

ウディ・アレン監督作品初登場となる「リトル・チルドレン」「愛を読むひと」のケイト・ウィンスレットが、ままならない日常に疲れ果て、刹那の情事にすがりつくうらぶれた中年女性を演じる哀愁の愛憎ドラマ。共演はジュノー・テンプルジャスティン・ティンバーレイク、ジム・ベルーシ。
 1950年代、ニューヨーク郊外のリゾート地コニーアイランド。遊園地のレストランでウェイトレスとして働く元女優のジニー。今は回転木馬の操縦係を務める粗野な男ハンプティと再婚し、自身の連れ子リッチーと3人で、騒々しい遊園地のそばで暮らしていた。夫婦喧嘩が絶えず、息子も問題ばかりを起こして、苛立ちばかりが募る、満たされない日々が続いていた。そんな中、海岸で監視員のバイトをしている脚本家志望の若者ミッキーと出会い、彼との道ならぬ恋に忘れかけていた夢が再燃していくジニー。ところがある日、ギャングと駆け落ちして音信不通だったハンプティの娘キャロライナが突然現われ、命を狙われていると助けを求めてきたことから、運命の歯車が狂い始めるジニーだったが…。

プリズナーズ(2013)

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原題も「Prisoners 」(囚人や捕虜のこと)

 

林で鹿を撃つオープニングの映像美

屋外の景観はもちろん、室内の撮影にも手抜きをすることはありません

暗くよどんだサウンド雰囲気があり

本作でもヴィルヌーヴのセンスが光ります

カメラはロジャー・ディーキンス

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ペンシルベニア州の田舎町

工務店を営むケラー・ドーヴァージャックマン家族と共に

隣家のフランクリン・バーチテレンス・ハワード

感謝祭のお祝いのため訪れていました

 

そこでケラーの6歳の娘アンナと

フランクリンの7歳の娘ジョイが行方不明になってしまう

ケラーの長男ラルフと、フランクリンの長女イライザは

散歩に出かけた時、アンナとジョイが怪しいRV車で遊び

車の中に人がいたといいます

現場に向かうとそのRV車はすでに去っていました

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そしてダイナーで食事する怪しく見える男(ギレンホール )

幼女誘拐犯はこの男だ!と思ったのですが(笑)

事件を捜査することになるデビッド・ロキ刑事でした

 

幼い娘を誘拐された父親の心情を

ジャックマンが迫真の演技で見事に表現しています

子どもが行方不明になったら正気でいられるはずがない

しかも昨日まで平和で幸せだった家庭に、不和が生じる

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すぐにRVは見つかり

アレックス・ジョーンズという男が容疑者として拘束されますが

アレックスは知的障害で会話もほとんどできない

車からもなんの痕跡も見つからず、釈放されることになります

 

ケラーはアレックスに詰め寄り娘の居場所を聞き出そうとすると

彼は「僕がいたときは泣かなかった」と言い

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しかもアンナとジョイが作った替え歌まで知っている

ケラーはアレックスが何かを知っていると確信し

拉致監禁しフランクリンを誘ってアレックスにリンチするのです


いくら娘を救うためでも、フランクリン(黒人)はためらいがある

もしアレックスが無罪で逮捕されたら、家族を守れない

アメリカでは人種によって酌量や刑期が違うのでしょう

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ロキ刑事性犯罪の前科のある人物にあたっていたとき

神父の家の前で、窓から神父が倒れているのを見つけ

慌てて部屋の中に入ると、単に泥酔していただけなのですが(笑)

偶然、地下に(”迷路のペンダントをしている死体を発見します


さらに少女の拉致事件の解決祈るキャンドルを灯す集会で

不審な男を見かけ追いかけますが逃げられ似顔絵を公開します

子ども服売り場の店員からの情報で、テイラーという男が見つかり

テイラーも幼い頃拉致されていたことがわかります

しかし苛立つロキ刑事のミスのせいで自殺してしまう

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しかもテイラーの家で見つかった子供服についていたのは豚の血で

幼児誘拐犯を空想する模造犯だと結論付けされます

 

だけどテイラーの書いていた「迷路」と

神父の地下で死んでいた男の「迷路」の形のペンダントが一致する


神父は男が懺悔で「神との戦い」のため

16人の子どもを殺害したと告白したあと

男を殺したことを認めています

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そしてケラーに拷問を受けるアレックスもまた

「迷路」という不可解な言葉を発します

ケラーは謎を解くためアレックスの叔母のホリーを訪ね

アレックスが釈放されたときの自分の行動を謝罪し

ホリーから話を聞くことができました


ホリーと(行方不明の)夫は、息子が癌で死んだあと信仰を失い

アレックスを養子にしますが

夫が飼っていたペットの(アレックスが嫌いな)蛇と

事故のせいで言語障害になったと言います

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神父に殺された男、アレックス、幼い頃拉致されたテイラー

知的障害、幼児誘拐、蛇、迷路

3人の男の共通点を結び付けるものは何なのか

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そんな時フランクリンの娘、ジョイが保護されたという知らせが入ります

ジョイはアンナと監禁されていた家から逃げますが

ジョイより年下のアンナは走るのが遅いのでしょう

捕まってしまいます

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ケラーがジョイにアンナのことを詰め寄ると

ジョイはその家に「あなたもいた」と悲鳴をあげます

やっぱり犯人はアレックスで、娘はホリーの家にいたんだ


ケラーが何食わぬ顔で、お詫びに家を修理したいとホリーを訪ね

家に入れてもらいますが、ホリーに脚を撃たれ

(コーラのようなペットボトルの)薬を飲まされます

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ホリーは息子の死を復讐するため、夫と「神との戦い」を誓ったと

それはあなたのような悪魔を作り出すため

幼い子どもを誘拐し、子を失った両親に

自分たちと同じ苦しみを与えるというものでした


そしてアレックスは最初拉致した子で、テイラーは2番目

ホリーの夫のせいで迷路と蛇がトラウマになり

知的障害は薬によるものでしょう

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ケラーは古いセダンの下に掘った穴に閉じ込められてしまい

そこでアンナの大事にしていた赤いホイッスルを見つけます

感謝祭の夜、アンナは失くした赤いホイッスルを探すために

ジョイと自宅に行き、アレックスにさらわれたのです

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ケラーの父親の住まいだった廃墟からアレックスを発見したロキ刑事は

ホリーに知らせるため家に入ると

「迷路」のネックレスと同じネックレスを付けた男の写真を見つけます

幼児を16人殺害と告白した男は、ホリーの行方不明の夫だったのです

ロキ刑事がホリーを探すと、薬物を注射されたアンナが倒れていました


ホリーを撃ち合いになり、ロキ刑事は頭から血を流しながら

アンナを車に乗せ猛スピードで病院に運ぶ(サイレン鳴らせよ)

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アンナは助かり、怪我の治療を受けたロキ刑事の病室に

母親と助けてくれたお礼をしにきました

アンナの首に下がっているのは、失くした赤いホイッスルではなく

新しく買ったものだと母親が説明します


ホリーの家の家宅捜査がはじまり

誘拐された幼児たちの遺体を探すため、家の回が掘り起こされる

その日の作業が終わり、帰ろうとした時

ロキ刑事は、かすかに聞こえるホイッスルの音に気付きます

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「最悪の事態に備えて準備しろ」

たぶんホイッスルは防犯用にケラーが与えたもの

伏線の回収もオチも良く出来ている


幼児拉致誘拐犯が、ペドフィリア(幼児性愛者 )ではなく

自分の息子が死んだ苦しみと、神への憎しみを

同じ幼い子を持つ親に判らせるためという動機


アンナも、ジョイも、アレックスも死ななくて良かった

やっぱりヴィルヌーヴは深い





【解説】allcinema より

前作「灼熱の魂」が高い評価を受けたカナダ人監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが、ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホールを主演に迎えて贈る緊迫のクライム・サスペンス。アメリカの田舎町を舞台に、何者かに掠われた6歳の少女の捜索を巡って繰り広げられる、冷静沈着に捜査を進めていく刑事(ジェイク・ギレンホール)と、自らの手で一刻も早く我が子を見つけ出そうと暴走していく父親(ヒュー・ジャックマン)の対照的な姿をスリリングに描き出していく。共演はヴィオラ・デイヴィスマリア・ベロテレンス・ハワードメリッサ・レオポール・ダノ
 ペンシルヴェニア州ののどかな田舎町。感謝祭の日、工務店を営むケラーの6歳になる愛娘が、隣人の娘と一緒に忽然と姿を消してしまう。警察は現場近くで目撃された怪しげなRV車を手がかりに、乗っていた青年アレックスを逮捕する。しかしアレックスは10歳程度の知能しかなく、まともな証言も得られないまま釈放の期限を迎えてしまう。一向に進展を見せない捜査に、ケラーは指揮を執るロキ刑事への不満を募らせる。そして自ら娘の居場所を聞き出すべく、ついにアレックスの監禁という暴挙に出てしまうケラーだったが…。

複製された男(2013)

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原題は「Enemy」(敵)

これがヴィルヌーヴが描くドッペルゲンガー

原作はポルトガルノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴ

The Double二重生き写し、コピーの意


ドッペルゲンガーとは、自分の姿をもうひとりの自分で描く幻覚の一種

本人に関係のある場所に出現して、本人に関係のある人間と会話できる

ドアの開け閉めや車の運転が出来る忽然と消える

ドッペルゲンガーを、本人が見ると死ぬ

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大学の歴史教師アダム(ジェイク・ギレンホール)は

ボロ車に乗り、マンションにほとんど家具もなく質素な生活

高圧的な母親に頭が上がらないやさしい性格で

恋人のメアリー(メラニー・ロラン)とは

毎晩のように一緒に過ごしていますが、ちょっと倦怠期気味


単調な生活を繰り返すアダムでしたが

ある日同僚から「面白かった」と聞いた映画をレンタルして見ると

そこには自分とそっくりな俳優が映っていました

その日から、その”そっくりな男”に憑りつかれてしまいます

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映画のエンドクレジットに流れるキャスト名から

インターネットで男の芸能事務所探し出し、訪ねてみる

そこでフロントから”そっくりな男”宛ての封筒を受け取ります


そっくりな男”の名はアンソニージェイク・ギレンホール

封筒の中の手紙の住所に行き、電話を掛ける

しかしアンソニーは不在で、出たのは奥さんのヘレンでした

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突然知らない男から電話がきて、顔も声もそっくりだから会いたい

と言われたら誰でも不審に思うはず

しかもアンソニーには浮気疑惑があるんですね(笑)

ヘレンは誰からの電話なのか(浮気相手の夫かも)どうしても知りたい

ネットでアダムの勤める大学を探し出し、会いに行ってしまいます

すると目の前に現れたのは、夫とそっくりどころか、夫そのもの


ヘレンがアンソニーにそのことを話すと

アンソニーもアダムが気になりだします

ふたりはホテルの一室で落ち合うわけですが

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一卵性双生児でもない、ただのそっくりさんでもない

アダムはアンソニードッペルゲンガーかも知れないと気づきます

もしそうならどちらかが死ぬ

もう二度と会わないと部屋を飛び出しますが


今度はアンソニーがアダムに憑りつかれてしまう

そしてアダムの恋人メアリーの虜になってしまう

メアリーと寝るため”もう二度と現れない”ことを条件に

アダムと一晩入れ替わる

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一方のアダムもアンソニーの高級マンションに行き

「鍵をなくした」と管理人に部屋を開けてもらおうとすると

管理人が奇妙な話をし始めます

楽しかったこと、鍵の話、また誘って欲しいこと


アンソニーがメアリーと激しいセックスを楽しんでいる時

アダムも妊婦のヘレンから誘惑されていました

だけど女は騙せない(笑)

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ヘレンは指輪がないことで彼が夫でないことに気付き

メアリーは指輪の跡を見逃さなかった

逆上したメアリーとアンソニーは車中で喧嘩になり交通事故死してしまう


翌朝、事故のニュースの流れるラジオをそっと消すアダム

そしてアンソニー上着から、彼が渡した封筒に入った鍵を見つける

「今夜は遅くなる」とヘレンに告げ、寝室を覗くと

そこに居たのは巨大蜘蛛の姿をしたヘレンでした

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意味わかんなかったんですけれど(笑)

いろいろな解説を読んで私なりの解釈はこう


最初の秘密クラブで踏み潰される蜘蛛は

性欲を我慢できない男たちの、妻の嫉妬や怒りを消し去りたい願望

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中盤に登場するエイリアンのような巨大蜘蛛は

糸と蜘蛛の彫刻家”と呼ばれるルイーズ・ブルジョワの代表作

「ママン」(母親の化身)をイメージ


キリスト教で蜘蛛は「罪深い衝動」(浮気)

ユングの心理学の蜘蛛は「縛りつける」(束縛)

Enemy」(=敵)は自分をコントロールする敵は自分自身ということ

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アダムは幼い頃から母親(イザベラ・ロッセリーニ)に抑圧と支配され

その反動で役者を目指しますが売れず

妻の妊娠をきっかけに役者を諦め

大学の歴史講師として働くようになります


しかし影ではSMクラブを経営し(高級マンションに住んでいる)

昼間は講師として働き、夜は質素なアパートで

美人のキャリアウーマンと情事を楽しんでいました

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アダムは妻に浮気を隠すため

無意識にドッペルゲンガー作り出していたのです


しかし蜘蛛(妻の嫉妬)は身動きが取れなくなるほど

巨大に膨れ上がっていました

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でも、イチバンお気の毒だったのはメアリーよね



 

【解説】シネマトゥディより

ノーベル文学賞作家でポルトガル出身のジョゼ・サラマーゴの小説を実写化したミステリー。至って普通の日々を送ってきた教師が、ある映画に自分と酷似した男が出ているのを見つけたことから思わぬ運命をたどっていく。メガホンを取るのは、『灼熱の魂』『プリズナーズ』などのドゥニ・ヴィルヌーヴ。キャストには『ブロークバック・マウンテン』などのジェイク・ギレンホール、『マイ・ファミリー/遠い絆』などのメラニー・ロランら実力派が集う。全編を貫く不穏なムード、幻惑的な物語、緻密な映像が混然一体となった世界観に引きずり込まれる。

何も刺激のない日々に空虚なものを感じている、大学で歴史を教えているアダム・ベル(ジェイク・ギレンホール)。ある日、何げなく映画のDVDを観ていた彼は、劇中に出てくる俳優が自分自身とうり二つであることに驚く。彼がアンソニー・クレア(ジェイク・ギレンホール)という名だと知ったアダムは、さまざまな手を尽くして彼との面会を果たす。顔の作りのみならず、ひげの生やし方や胸にある傷痕までもが同じであることに戦慄(せんりつ)する。