湿地(2006)

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原題も「Mýrin

アイスランド語ミリン=ボグー酸性の泥炭が蓄積する湿原のこと

長ったらしい副題の付いたタイトルにはうんざりする

こういうシンプルな邦題がいい

製作が2006年にもかかわらず、日本公開が2015年というのも

北欧ミステリーブームに乗っただけの気もしますが(笑)

原作が”このミス”ということだけあって、面白い


冒頭から陰々鬱々

彩度が低く殺風景なアイスランドの風景

幼い少女が脳腫瘍で死んでしまう

一方で70歳のトラック運転手の撲殺死体

なんの関係もないように見える、ふたつの死体がどう繋がるのか

そして中絶したいから金をくれとやってくる、担当刑事の娘


この超辛気くささが私好み(笑)

食べるモノまでグロいぜ、羊の頭の炭焼き?料理(笑)

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アイスランドレイキャビクにある遺伝子研究会社で

深夜まで研究するオルンという男

それは5歳になるひとり娘コーラの

極めて珍しい遺伝性の脳疾患を調べるためでした

自分にも妻の家族にも脳疾患の遺伝をもつ人間がいないのに

なぜコーラは難病になったのか


幼いコーラは死に、純白のドレスに身を包まれ

小さな棺桶は土の中に埋められてしまう

だけどその後もオルンは、コーラの病気を調べ続けます

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数か月後、初老の男が死んでいるのを近所の少年が見つけます

ベテラン刑事のエーレンデュルと相棒のシグルデュル

中年の女性捜査エレンボルクが事件を担当することになりました


男は1937年生で名前はホルベルク

死因は灰皿で殴られた頭蓋骨骨折

幼い時6歳の妹を亡くし身寄りはなく、独身

ここ数年はトラックの運転手として働いていました

部屋に残されたパソコンの画像や、トラックの中に積まれたエロ本の内容から

この爺、かなりマニアックな変態(笑)

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エーレンデュル刑事は、殺人現場の机の引き出しの裏に隠された

「ウイドル」という名前の墓標の写真を見つけます

「ウイドル」は悪性の脳疾患で4歳で死んだ女の子

娘の死後母親は自殺しており、父親は不明


アイスランドで父親の記録がないということは

レイプか、近親相姦か、男性が外国籍ということ

エーレンデュル刑事は、唯一肉親として記録に残っていた

叔母にあたるエーリンに会いに行きます

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しかしホルベルクの捜査で来たことを知ったエーリンは

露骨に嫌悪を現わし「妹をあんな目に遭わせた警察を許さない」

「ルーナルに聞けばいい」 と言います


ルーナルとはすでに退職した元刑事で

現役時代だった頃、ホルベルクとグレータル、エットリデという

悪党3人組と組んで悪さをしていたようです

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「ウイドル」の母親は3人組にレイプされ裁判で訴えますが

ルーナルに「米国基地で売春をしていた」と偽証され敗訴

妊娠し「ウイドル」を産みますが、幼くして娘は死んでしまいます


ホルベルクは殺され、グレータルは1970年代から行方不明

エーレンデュル刑事は、服役中のエットリデに会いに行き

レイプしたのは「ウイドル」の母親以外にもうひとりいたと聞き出します

シグルデュル刑事とエレンボルク捜査官は

30年以上前のレイプ事件について聞き込み捜査をはじめ

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エーレンデュル刑事は(目の不自由な)グレータルの母親を訪ねました

グレータルはカメラ好きで、よく撮影していたこと

グレータルが失踪した時の担当刑事はルーナルだったと教えられます


やがて検死結果からホルベルクにも脳腫瘍があったことがわかり

「ウイドル」がホルベルクの娘かどうか

遺骨を検死するため墓を掘り起こしますが、頭蓋骨の中はからっぽ

何者かによって「ウイドル」の”脳”は持ち去られていたのです

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脳”を保存するのにどうするか

すぐにエーレンデュル刑事は遺伝子研究会社のオレンにたどり着きます

そこでオルンは「ウイドル」は「神経線維腫症」という

特殊な脳腫瘍で亡くなっていたこと

殆どは幼少期に発症するが女性だけが重症化し幼くしてんでしまう

男性は無症状なうえ保因者」なり、女性を妊娠させた場合

ほぼ確実に胎児に遺伝するのだと説明します


「ウイドル」とコーラは同じ病気

30年前3人組がレイプしたもうひとりの女性は

オルンの母親だったのです

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しかしホルベルクの家の床下から出てきた

グレータルの遺体と、彼のカメラに残されていたフィルムから

オルンの母親はレイプされたのではなく、夫が船乗りで寂しく

実はホルベルクと不倫していたのです


自分は変態悪党の息子、つまり「神経線維腫症」の「保因者」

この先も女の子が産まれれば死に、男の子が産まれれば「保因者」

オルンは種を断絶するため、ホルベルクを撲殺

そして「ウイドル」の墓で銃身自殺をするのでした

死人たちを悼む警官合唱隊の歌声

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なんの変哲ない殺人事件が、過去の忌まわしい事件とつながっていく

よくできたミステリー

レイプ犯が神経性の難病の「保因者」というのも新鮮

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ところで、エーレンデュル刑事の不良娘はどうなった(笑)

 

 

 

【解説】KINENOTEより

アイスランドの首都レイキャヴィクを舞台にしたアーナルデュル・インドリダソンの犯罪捜査小説シリーズの1作を映画化。監督は「2ガンズ」のバルタザール・コルマウクル2006アイスランドアカデミー(エッダ)賞最優秀作品賞等を受賞。トーキョーノーザンライツ2015にて201527日、9日、13日に上映された。

アイスランドレイキャビク。北の湿地にあるアパートで他殺体が発見される。捜査官のエーレンデュルは、机に隠された一枚の写真に目を留める。捜査を進めるうちに、長く埋もれていたある真実に突き当たる……。

これが私の人生設計(2014)

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原題は「Scusate se esisto! 」(申し訳ありませんが私は存在します!)

イタリア映画がジェンダー差別を描くとこうなる

実在するイタリアの女性建築家、グエンダリーナ・サリメイの

ローマにあるコルビエール(長さ1キロの住宅団地)

再開発のためのプロジェクトがモデル

 

アメリカの"MeToo運動とは違い、あくまで前向きで明るいし

ヒロインと支えあうゲイ男性の、変態加減もちょうどいい

(”奴隷72”が最高 笑)

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幼いころから建築家としての才能を示し

世界各国で学位を取り活躍すしていた女性建築家のセレーナ・ブルーノは

新たな仕事を求めて故郷のイタリアに戻ますが

イタリアの建築業はいまだに男尊女卑で、女性というだけで仕事はありません

貯金は尽き、バイクは盗まれてしまうし、ついにレストランでアルバイト


しかし世界各国で仕事をしたのが役に立ち

外国人観光客に英語や日本語でメニューの紹介をするセレーナ

その仕事ぶりがイケメンオーナーのフランチェスコの目に留まり

ふたりの距離は縮まり、ついにデートに誘われるのですが

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そこはゲイ・バーで、ステージに上がり上半身裸で踊りだすフランチェスコ

ゲイなのになぜ優しくしたの、と怒り出すセレーナ

一生懸命なキミをほっとけなかった、とフランチェスコ

イタリア男はゲイだろうが、なんだろうが、イタリア男だ(笑)


でも確かに、まっすぐで努力家なセレーナは可愛い

巨大公営住宅のリフォーム建築案の一般募集に

(盗まれたバイクを探している時に知り合った)住民たちから

女性だけの談話室や、学生が勉強できるスペースが欲しいと聞きます

そしてその巨大公営住宅の共用部分を、今までのコンクリート色ではなく

明るい緑色にしようと思いつきます

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設計図を描くのに忙しく、レストランを休んだセレーナを心配して

彼女の屋根裏の狭い部屋にやって来たフランチェスコ

自分のアパートをシェアしようと提案してくれます

でもそこはたびたびフランチェスコの若い恋人、ニコラがやってきて

寝室からスゴイ”喘ぎ声”が聞こえたり


恋人のほかにも”買った男”が訪ねてくる部屋でした

私はこういうシーンやコスプレが大好物なのですけど(笑)

 

ジェンダー差別のある人(特に男性)にとっては

不快で、気持ち悪く、我慢できないのでしょう

同性愛者や独身女性に対して、子どもを産めない非生産的な人間だと決めつける

(そんなオマエは何を生み出したのか言ってみろ)

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公営住宅のリフォーム建築案のコンペに来ったセレーナ

まさか女性が建築家だと思わない面接官は

セレーナ・ブルーノを、ブルーノ・セレーナ(男)だと勘違いしてしまう

プロジェクトを成功させたいセレーナは

ブルーノは出張で大阪にいるので、代わりに面接に来た秘書と嘘をつきます

 

そこでフランチェスコにブルーノになってもらい

チャットで指示するからリモート会議で替え玉を演じてとお願い

話は噛み合わないうえ、恋人が金の招き猫を突然出したり

おまけにスーツ姿の下半身は裸だし(笑)

ただひとり、面接で一緒だった”もやし男”ピエトロくんだけが

その異変に気付きます

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一方でフランチェスコは離婚した妻から

何を聞いても”ふつう”としか答えない

息子のエルトンを2週間預けられてしまいます

だけどエルトンは父親がゲイだと知らない

ホモグッズを隠し、同居するセレーナと恋人のふりをする


そこにセレーナの母親と(訛りで言葉が通じない)叔母が訪ねて来て

フランチェスコの恋人ニコラまでやって来て

エルトンに料理やらデザートをふるまい、てんやわんや

フランチェスコとセレーナは冷や冷やで気が気でないものの

やっと笑顔になるエルトン

本当は楽しいことが好きだったんだ、パパに甘えたかったんだ(笑)

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セレーナのリフォーム建築案が通り、プロジェクトが成功しかけた時

請負業者の社長が、緑の共用部分はいらない

そこにショッピングモールを作ると言い出しました

 

それにはセレーナもキレた

そこには住民の希望も、公募の意味もない

救いようのないバカ”だと

自分こそが計画の発案者のブルーノだとカミングアウトます

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そうして妊娠していることを隠していた女性も

社長と同じサッカーチームを応援してゴマをすっていた男性も

実はフランチェスコと同じゲイ仲間も

みんなでカミングアウトしていく姿は爽快

 

一番信頼していた秘書ミケーラににまで

訴えるなら不正を暴露します」と言われ

セレーナの建築案を認めざる得なくなった社長

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悪しき風習を断ち切っセレーナの生まれ故郷の山村で、母と伯母の料理に舌鼓を打つ

恋人になった?”もやし男”ピエトロと、フランチェスコたち

 

映画としては冒頭からテンポよく全体的にポップで楽しい

ストーリーも、ジェンダー問題に自ら前進していていくので

見ているこちら側まで前向きな気持ちになれ

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特に働く”アラサー女性”におススメしたい

だだしゲイの男友達が欲しくなるのにはご注意を(笑)

 

 

【解説】allcinema より

世界で活躍したイタリア人女性建築家が、いまだ男社会のイタリア建築業界を相手に悪戦苦闘しながらも、ポジティブに奮闘していく姿を描いたコメディ・ドラマ。主演はパオラ・コルテッレージ。監督はその夫でもあるリッカルド・ミラーニ。
 建築家として世界を舞台に活躍してきたセレーナ。いまだ独身の彼女は人生を見つめ直し、新たな飛躍を誓って故郷ローマに戻る。ところが、男性中心のイタリア建築業界では思うような仕事に就けず、貯金も底をついてしまう。仕方なくレストランでウェイトレスとして働き始めたセレーナは、優しく接してくれるイケメン・オーナーのフランチェスコに心惹かれる。しかし彼がゲイと分かり、あえなく失恋。そんな中、公営住宅のリフォーム建築案の公募があると知り、男と偽って応募したところ、みごと採用されてしまうセレーナだったが…。

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス(2018)

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原題はMaudie(モード=ヒロインの名前)

モード・ルイス(1903年-1970年)はカナダの

フォークアート(土地固有の文化を描いたアート) 画家

カナダの田舎の風景、動物や草花をモチーフ絵を描き

カナダで最も愛されている画家のひとり


身体障害者に対する差別が強かった時代

若年性関節リウマチを患い、手足が不自由になり

体も小さく、虐められ学校を中退

母親と共にクリスマス・カードを作り、友人や近所の人達に売って

わずかな収入を得ていましたが

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1935年に父1937年には母が亡くな

  住居は兄がれましたが、兄夫婦離婚して家を売却

モードはノバスコシア州ディグビー郡叔母に預けられます

この先の彼女の人生が映画のストーリー


サリー・ホーキンスは彼女にしか出来ないと思うほどハマリ役

イーサン・ホークはこんなに演技が巧かった?と驚きます(笑)

愚痴っぽく、不親切で、カッとして妻を殴ることもある

だけど後になって自分のしたことを後悔してしまう

隠れた優しさを心の中にもっている、不器用な男を見事に表現しています

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叔母の家に移ってすぐ、モードは(サリー・ホーキンス)は

雑貨屋でエヴェレット・ルイス(イーサン・ホーク)という男が

家政婦を募集しているのを知り面接に行きます

エヴェレットは魚の小売業を営みながら薪を売り

空いた時間は(自分も孤児だった)孤児院の手伝いをしていて

家のことをする暇がなく女手を必要としていました


だけど一目見てモードは障害者だし、変わってる

とても家事はできそうにない、おまけに年増のブス

エヴェレットはすぐにモードを追い出しますが

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孤児院の先生はエヴェレットの短気で気難しい性格を

重々承知しているのでしょう

来てくれた女性なら誰でも採用しなさいとアドバイスします

渋々モードを迎えに行くエヴェレット

案の定モードはトロくて何もできずイライラマックス


それからエヴェレットに「出ていけ」と言われれば出ていくモード

その彼女を彼が迎えに行く繰り返し

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夜中にエヴェレットがムラムラして手を出そうとすると

ヤルなら結婚して、だけど自分は出産した経験があり

その子は障害児ですぐに死んだとカミング・アウト

(叔母がクラブで夜遊びしたモードを咎めたのはそのせいだろう)

これじゃあ萎えるし、ヤル気も失せる(笑)


そんな生活の中モードの癒しは給料で手に入れた絵の具で

リビングの壁や窓に花や動物の絵を描くこと

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ある日ニューヨークから避暑にやって来たサンドラと名乗る女性が

エベレットから魚を買ったのだけれど届かないと訪ねてきました

モードはエヴェレットに注文やら納品を忘れないためには

カードにメモするのだと教え、サンドラに魚を届けに行きます

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そして領収書代わりに渡されたカードのイラストを見たサンドラは

言い値でカードを買うので、もっとカードを書いてほしいと頼みます


モードは知的にも障害者に見えますが、実はすごく知能が高いんですね

何かとまっとうなことを言い返してくる

そこにまたエヴェレットがむかつくのです(笑)

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やがてモードの絵は評判になり、テレビ局までやってきて

(当時の)ニクソン副大統領から注文まで来るようになります

だけどふたりの生活は質素なままで、相変わらずエヴェレットは毒舌


ダメ妻が画を書くために俺が家事をしてるんだと

こんな旦那はいない的な発言を堂々として

テレビを見た人からは非難轟々

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サンドラを頼ってモードが出て行った時も

(たぶん孤児院で一緒だった)漁師仲間は

オマエのような人間と、いままで持ったほうが凄いと言う


実際、世間からのエヴェレットの評判は悪かったそうですが(笑)

「ビック・アイズ」(2014)の亭主に比べたら、よっぽどまし

気難しくて口は悪いけれど、本当は妻を大切に思ってる

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結婚の誓いを交わした後のダンス、自分たちを例えた灰色の靴下の話
「ひとつはヨレヨレ、もうひとつは穴が空いてボロボロ」

欠けた者同士にしかわかりあえない、怒りのぶつけあいと愛情


「要らない」と言い張る網戸を取り付けるエヴェレット

モードを手押しの台車に乗せて走るエヴェレット

モードの(本当は障害はなく生きていた)娘を探すエヴェレット

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夫婦って結婚した時点での愛情って関係ないんだな(笑)

何年も何十年もかけて特別な存在になる


ラストでモードとエヴェレット本人の動画が流れますが

絵であふれた小さなお家で、ふたりとも本当に幸せそう

このたくさんの絵が、ふたりが築いてきた幸せの数なのでしょう

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大傑作とまでは言わないけれど、すごくいい映画

おススメです

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【解説】映画.comより

カナダの女性画家モード・ルイスと彼女の夫の半生を、「ブルージャスミン」のサリー・ホーキンスと「6才のボクが、大人になるまで。」のイーサン・ホークの共演で描いた人間ドラマ。カナダ東部の小さな町で叔母と暮らすモードは、買い物中に見かけた家政婦募集の広告を貼り出したエベレットに興味を抱き、彼が暮らす町外れの小屋に押しかける。子どもの頃から重度のリウマチを患っているモード。孤児院育ちで学もないエベレット。そんな2人の同居生活はトラブルの連続だったが、はみ出し者の2人は互いを認め合い、結婚する。そしてある時、魚の行商を営むエベレットの顧客であるサンドラが2人の家を訪れる。モードが部屋の壁に描いたニワトリの絵を見て、モードの絵の才能を見抜いたサンドラは、絵の制作を依頼。やがてモードの絵は評判を呼び、アメリカのニクソン大統領から依頼が来るまでになるが……。監督はドラマ「荊の城」を手がけたアシュリング・ウォルシュ

 

希望の灯り(2018)

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原題は「In den Gängen 」(通路にて)

ざっくりとしたあらすじは巨大スーパーマーケットに入った新人従業員が

周りのスタッフと触れ合いながら、一人前になる話

 

アキ・カウリスマキジム・ジャームッシュ作品のような

繰り返す日常を淡々と描いていて

そんな中でも小さな事件が起こりますが

何もなかったように再びもとの生活に戻るというもの

(だからといってカウリスマキをパクったこの邦題はいただけない)

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だだ東西ドイツ統一後の旧東ドイツ人の

かっての東ドイツを懐かしむノスタルジーや負け犬感が

カウリスマキジャームッシュより哀愁を感じる

 

映画は三人の主人公にちなんだ、大きく3つの章に分かれています

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第一章クリスティアン

旧東ドイツの僻地にある西ドイツ資本で建てられた

倉庫型の巨大スーパーマーケット

コストコ」のような、といえばわかりやすい

 

そこに建設現場をクビになった全身刺青の青年

クリスティアンが面接にきます

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上司は刺青を隠すように指示し(でも見えている 笑)

彼を飲料売り場のブルーノに預けます

ブルーノはクリスティアンに職場のいろいろなことを教え

クリスティアンは黙々と、時には失敗しそうになりながら仕事をこなします

 

隣の通路は菓子部門で、フォークリフトの運転をこなしている年上の女性

マリオンに一惹かれてしまいます

彼女のフォークリフトから小さなヘアゴムを見つけ

寂しいひとり暮らしのアパートに持ち帰る

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第二章 マリオン

クリスティアンの気持ちに気付いているのか

マリオンはコーヒーマシンの前のクリスチャンを「新入クン」と呼び

「コーヒーを奢ってくれないの?」と声を掛けます

そして作業服の下に隠された彼の腕の入れ墨を賞賛するのです


クリスティアンフォークリフトの講習を受け

(授業で見るビデオがギャグホラー 笑)免許を所得

ブルーノの指導の下、高度な技も身につけていきます

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マリオンの誕生日には(処分する予定の賞味期限切れの)

エストーティ(ネスレのチョコ菓子)に

ろうそくを灯し、ふたりで楽しく食べます

やがて同僚たちもクリスティアンとマリオンが

お互い好意をもっていると感付いてくるわけですが

そこでクリスティアンはマリオンが結婚していることを

初めて聞かされるのです


シフトのせいでマリオンとなかなか会えませんでしたが

会社のクリスマスパーティーでマリオンを見つけたクリスティアン

建設現場で働いていた頃の話などして再びふたりの距離は縮まります

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しかし年が明けるとマリオンはクリスティアンを避けるようになります

彼が理由を聞くと、彼女は泣いてクリスティアンのせいではないと言う

そして突然、病気休暇で会社にこなくなります


ショックを受けたクリスティアンは昔の悪い仲間に会って酔っ払い

翌日の仕事を遅刻してしまい、上司から警告を受けます

ブルーノはクリスティアンに、マリオンの夫は「ろくでなし」で

マリオンはDVを受けている

彼女が好きなら付き合うべきではないと教えます

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クリスティアンは花束を持ってマリオンの家を訪問します

ドアは開いていて家に入ると、マリオンがお風呂に入るところを見てしまう

そして彼女に気づかれ、花束を置いて逃げ出し

自分のしたことを後悔したのか、バーに行って酒を飲む

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第三章 ブルーノ

ブルーノは東ドイツ時代はトラックの運転手をしていてました

昔の仕事や、社会主義政権を懐かしんでいて

それを隠そうとしません


西ドイツは世界中に高級車や電化製品を売る

資本主義経済体制で成功した代表のような国
東ドイツ国営のトラック会社など利益にもならない

そこに巨大スーパーマーケットを建て

元の従業員たちに西側的な教育をして再就職させたのです

だから従業員たちは、お互い助け合い慰め合う

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しかし新しいスタートは、彼らにとって得るべきものより

多くのものを失いました

 

ブルーノはクリスティアンがかって刑務所にいたと知っても

咎めることはありませんでした

ここではみんなが負け組なのです

(マリオンの家が豪邸なのは、夫が西ドイツの人間だと思う)


マリオンが仕事に戻ることになりクリスティアンに花束のお礼を言います

クリスティアンはマリオンにエスキモーの挨拶の話をし

ふたりは冷凍庫でお互いの鼻をこすりあわせる

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ささやかな幸せもつかの間、ブルーノが自殺したという知らせが入ります

彼に家族がいるというのは嘘で、ひとり暮らしの家は荒れていました

従業員たちは彼の死を哀しみ葬儀に出席します


クリスティアン飲料部門でブルーノの代わりを務めることになりました

そこでマリオンはかつてブルーノから学んだ

フォークリフトテクニッククリスティアンに披露しています

空のフォークリフト上昇させ再びゆっくり下降させると

フォークリフトの油圧海の騒音のような音がする

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右袖、左袖、手首の刺青を隠す

フォークリフト、煙草、食品ロス、バス停、自宅

毎日同じ繰り返し

 

ブルーノが死んでも何も起こらない

昔の不良仲間とも何も起こらない

マリオンとも何も起こらない

結局何も起こらない

 

ただ東ドイツにも、東ドイツの幸せがあったということ

 

 

【解説】allcinema より

 東西統一後のドイツを舞台に、“負け組”とされた旧東ドイツ出身の人々のままならない日常と小さな幸せを綴ったクレメンス・マイヤーの短編『通路にて』を映画化したヒューマン・ドラマ。主演は「ハッピーエンド」「未来を乗り換えた男」のフランツ・ロゴフスキ、共演にザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト。監督は長編2作目のトーマス・ステューバー。
 深夜の巨大スーパーマーケット。内気な青年クリスティアンは、ここで在庫管理担当として働き始める。未知の世界に戸惑うクリスティアンに、上司の中年男ブルーノは父親のような包容力で接し、仕事のイロハを教えていく。そんな頼りがいのあるブルーノだったが、東ドイツ時代への郷愁に囚われている。ある時クリスティアンは、菓子部門で働く年上の女性マリオンと出会い、心惹かれていくのだったが…。

希望のかなた(2017)

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原題は「TOIVON TUOLLA PUOLEN」(希望の向こう側)

カウリスマキが欧州の社会問題を描くとこうなる(笑)

シリアからの難民を取り上げたデッドパン(無表情)でシュールなコメディ

そして人々の善意こそが希望であるというメッセージ

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洋品店にシャツを卸売りするのを商売にしている

ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)

酒浸りの妻に別れを告げ、店を畳み、そのお金を元手にポーカーで賭け

念願のレストラン経営に乗り出します

 

しかしそこはランチに缶詰を出すような店

3人いる従業員も個性的で癖のある人物ばかり

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その頃、貨物船に隠れたひとりの青年がヘルシンキの港にたどりつきます

簡易のシャワールームで身体の汚れを落とす

こういうワンコインでタオルと石鹸を供給するシャワールームがあるということは

それだけフィンランドには難民やホームレスが多いのかも知れません

 

そのあと青年は警察に向かい、難民申請をします

カーリド(シェルワン・ハジ)と名乗り

シリアのアレッポから戦火を逃れ、あちこちの国をめぐり

ネオナチから逃げて貨物船に乗ったら偶然この街にたどり着いたといいます

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故郷で家は爆撃され両親も弟も婚約者も亡くしてしまい

唯一生き残った妹と逃れたものの、ハンガリーの国境で生き別れ

フィンランドは誰にでも平等な国だと聞き

ここで妹を探したいというのが彼の希望でした

 

しかし難民認定されず、強制送還されることになってしまいます

カーリド施設を脱走し、ヴィクストロムのレストランのゴミ置き場に

ホームレス同然に隠れていました

ヴィクストロムに見つかったカーリド「出て行け」「いやだ」言い合

殴り合いになってしまいますが

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次のカットでは、食事を与えられるカーリドと

事情を知り「ここで働きたいか?」と尋ねヴィクストロム

 

警察が来れば匿い、小遣いをあげ寝泊まりする場所を提供する

挙句の果てには身分証明書まで偽造し

難民キャンプで見つかった妹を、国際運送のトラックの運転手を雇い入国させる

だけど運ちゃんは「こんな素晴らしい荷物を運べたんだ、金は要らない」

粋なはからい

 

従業員には給料を前払いしたり、ヴィクストロムは手元に残ったお金を

よくも知らない他人のために、ほとんど使ってしまうのです

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そしてカーリド(難民)と対比させているのが

従業員が拾ってきた捨て犬カウリスマキの愛犬)

犬と人間を比較するなんて、と批判する人もいるかも知れませんが

どちらも大切な命、誰かが守ってあげないと生きていけない

 

ヴィクストロムは従業員に「明日まで捨ててこい」と言いながら

結局飼うのを見逃してしまう(笑)

別れた妻にも会いに行ってしまう


ヴィクストロムもレストランの従業員たちも

難民センターで知り合ったイラク人の青年マズダック

自分たちも貧乏なのにもかかわらず、親切な人ばかり

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ヴィクストロムは金策のために

フィンランドでは今、寿司が人気らしいと聞き

書店で日本食のレシピ本や時代小説を買いスシ・レストランに改装

 

そこにイキナリ日本人の団体客がやって来て

食材は足りないわ、みそ汁は出来ていないわ

ワサビどっさりのなんちゃって握りを作ってみたものの

もちろん食べられるような品物ではない

なのに客は文句も言わず静かに帰っていきます(笑)

 

カウリスマキ親日家でも有名ということ

会話のシーンや、小物の使い方(センスは微妙)

バスショット(胸から上を撮影すること)には小津的なものを感じます

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だけれど誰もがヴィクストロムやマズダックのように

無償で親切にしてくれる人間ばかりではない

差別や迫害を超えて、難民を見つけては本当に殺そうとするネオナチ

 

妹を女性従業員の家に預かってもらい帰宅する途中

カーリドはネオナチに腹を刺されてしまいます

ヴィクストロムがカーリドの部屋に寄るとそこにカーリドはいなく

血痕だけが残っていました

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翌朝、難民申請する妹を警察に送り届ると

カーリドは荷物を枕に(公園のような場所で)横になる

刺された箇所にはガーゼが貼られ、どうやら治療したようす

(ヴィクストロムが見つけて病院に運んだのかな)


カウリスマキ曰く
「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者

さもなければ社会に侵入して仕事や妻や車をかすめ取る

ずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くこと」

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現代のユーロ脆弱もろくて弱いことな体制と

難民を迎える官僚制のひっ迫、財政難、それに対する国民の不満

解決の難しい社会問題を、人道的で誠実

しかもちょっとふざけて描いている(笑)

 

家族と離れ、お金もなく、言葉も通じない苦労

いつかすべての国の内戦が終わり、経済が復興し

難民たちが自分の国に帰れるよう祈るばかりです

 

 

 

【解説】allcinema より

フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督が難民問題をテーマに贈るハートウォーミング・ドラマ。2017ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞作。フィンランドの首都ヘルシンキを舞台に、妹の行方を捜すシリア難民の青年が、非情な現実に希望を打ち砕かれそうになるさまと、そんな彼に優しく手を差しのべる市井の人々の小さな善意が織りなす心温まる人情ドラマをユーモラスに綴る。主演はシリア人俳優のシェルワン・ハジとカウリスマキ作品の常連サカリ・クオスマネン。
 内戦が激化するシリアを逃れ、フィンランドの首都ヘルシンキに流れ着いた青年カーリド。過酷な長旅の中で混乱に巻き込まれ、今やたった一人の家族である妹ミリアムと離ればなれになってしまった。彼の唯一の望みは、その妹を見つけ出し、フィンランドに呼び寄せることだった。しかしカーリドの難民申請は無情にも却下されてしまい、彼は収容施設から脱走する。ヨーロッパ全土を揺るがす難民問題が暗い影を落とす中、容赦ない差別や暴力に晒され、行き場を失うカーリド。そんな時、レストラン・オーナーのヴィクストロムという男と出会い、彼の店で働かせてもらえることになったカーリドだったが…。

特捜部Q カルテ番号64(2018)

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原題は「Expediente 64」(ファイル64

過去の未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の

「特捜部Q」シリーズ待望の4作目

 

1961年にスプロー島にあった女子収容所と

「特捜部Q」でアサドが異動になるまでの1週間

アパートの解体中に見つかった3体のミイラ化した遺体の捜査が

並行して描かれます

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デンマークでは、従兄弟と関係すると近親相姦になるのでしょうか

ニーデは従弟のテーイと愛し合っていましたが

父親に見つかり更生施設に入れられてしまいます

 

ニーデと同じ部屋のリタは漁師に

お金がなくても女の子ができること”をして欲しいものを手に入れたり

看護婦のギテと”ヒヨス”と幻覚作用のある草の(マリファナのようなもの)

お茶を飲み淫らな行為をしていました

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テーイの子を妊娠しているニーデは、リタに脱走させてあげると騙され

漁師にレイプされそうになったうえ、収容所に連れ戻され

クアト医師に中絶され、不妊手術まで行われます

(手術シーンがリアルすぎてヤバイ)

 

1960年頃までにデンマークで行われていた
強制不妊手術はわかっているだけで約11,000

しかも「優生思想」や移民に対するヘイトクライムにより

病気や移民女性の強制不妊手術を医師や官僚や警察が

組織的に施していたというのです

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もちろん私は差別や、強制的な不妊手術には反対ですが

北欧の国々のように社会保障の高い国の国民ほど

実は移民や障害者に対する不満が大きいのではないかと思います

自分たちの払っている高額な税金が、移民や仕事のできない人間に使われ

物価は上がり、教育の質は下がり、治安は悪化

将来が不安になる

 

スプロー島の収容所を出所したニーデは

リタと、看護師のギデと、クアト医師を訴えますが

フィリップ弁護士によって裁判は却下され

3人と弁護士に復讐する決意をします

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カール警部補(ニコライ・リー・コス)とアサド(ファレス・ファレス)

紅一点のローセ(ヨハン・ルイズ・シュミット)は

スプロー島の管理人や、遺体で見つかった弁護士の妻から証拠を集めますが

 

管理人は殺され、ローセは襲われ

カールとアサドが乗った車は火が放たれ証拠の書類が燃えてしまう

ただひとつ残ったのが「ファイル64

ニーデのカルテでした

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カールがニーデに会いに行ってる頃

アサドはスーパーを営む友人の娘、マールが行方不明になり

マールが父親に内緒で中絶手術をしたクアト医師の病院に探しにいきます

 

しかし同僚の警官がクアト医師の仲間で

アサドは腹を撃たれて倒れてしまいます

そこに気を失っていたマールが目を覚まし、クアト医師を殴り

危篤のアサドに駆け付けたカールが救急車を呼びます

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クアト医師は「優秀な者だけが子孫を残す資格がある」

という考えを信奉する「寒い冬」の代表でした

それは寒冷地に住む白人種こそ優生種と信じる団体で

クアト医師らは社会的弱者を強制断種するための不妊手術を現在でも続けていて

一方では白人種の高齢女性や不妊女性には高度な不妊治療をしていたのです

 

日本でも女性の強制不妊手術を訴える動きが出てきていますが

その背景にある社会問題もしっかり追及するべきでしょう

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3作に比べるとサスペンス性は薄れ、残忍さも欠けて

犯人もオチも予想がついてしまいますが()

カールとアサドとローセのトリオはやっぱりいい

 

病院で目が覚めたアサドに「特捜部に残ってくれ」と頼むカール

アサドを抱きしめるローセ

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原作はシリーズ8作目まで発表されているんだから

まだまだこのトリオで続けてもらわなきゃ困るよ(笑)


【解説】映画.comより

累計1000万部以上を売り上げるデンマークの大ヒットミステリー小説「特捜部Q」の映画化第4作。過去の未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署「特捜部Q」。今回彼らが挑むのは、1980年代に起きたナイトクラブのマダム失踪事件。調査によると、ほぼ同時に5人の行方不明者が出ているという。やがて、壮絶な過去を抱える老女と、新進政党の関係者が捜査線上に浮上する。キャストにはカール役のニコライ・リー・カース、アサド役のファレス・ファレスらおなじみのメンバーが続投。「恋に落ちる確率」のクリストファー・ボー監督がメガホンをとり、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」のニコライ・アーセルが脚本を手がけた。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。

花のあと(2009)

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テレビドラマの延長といった感じで

映画としての出来はそれほどではないのですが(笑)


まずヒロインを演じた北川景子の顔が時代劇に合わない

(でも袴姿の女剣士はほれぼれするくらい美麗)

ヒロインが思いを寄せる宮尾俊太郎のあまりの棒読み台詞

(なぜ俳優でなくバレエダンサーを起用した 笑)


でもストーリーそのものは悪くない

下級武士の悲哀や、好きな人と決して結ばれない恋心

腹黒い上司の悪、復讐・・

藤沢周平は日本人の心に響くツボを押さえている(笑)

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海坂藩の寺井家のひとり娘以登(北川景子)

幼い時から親の甚左衛門(國村隼)から剣の手ほどきを受け

藩一番の剣術道場の強者を破るほどの剣豪でした

花見の日、以登は道場の筆頭剣士江口孫四郎(宮尾俊太郎)に声をかけられ

寺井家の屋敷で試合をすることになります


自分より強い男との初めての出会い

唯一「おなご」と侮らず本気でぶつかってきてくれた男

しかも礼儀正しく、紳士でやさしく、イケメンだ(笑)

惚れないわけがない

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お互い好意を寄せるものの、以登には江戸に許嫁がおり

孫四郎奏者番の娘加世と結婚し、奏者見習いとして働きだします

しかし加世は御用人、藤井勘解由市川亀次郎)の愛人で

結婚後も不倫関係を続けていました

しかも孫四郎が初めて幕府に対する使者として江戸に向かうとき

藤井勘解由は「江戸のしきたりは違う」と孫四郎に嘘の手順を教えます

そのため返答書が突き返されてしまい、孫四郎は責任をとって切腹してしまう


言葉がなくても、娘の心情を察する國村隼がいい(出た!枯れ専 笑)

そして江戸から帰ってきた以登の許嫁、片桐才助(甲本雅裕) がいい

孫四郎とは違い、風采の上がらない容姿なうえ

下品で、がさつで、大飯ぐらいで、酒のみで、しかもスケベ

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しかし父親の甚左衛門はいたく彼を気に入っていて

来年の春には祝儀をあげようとしている

その理由が徐々にわかってきます


以登は藩一番の剣士で、礼儀も作法もわかっているはずの孫四郎が

なぜ仕事でミスをしたのかどうしても知りたい

その理由を探るよう才助に頼むのです

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するとこの才助、ヘラヘラしているわりには意外と頼りになる男で(笑)

孫四郎の江戸行きのいきさつを調べます

藤井勘解由と加世の不倫は城内でも噂になっていて

孫四郎もそのことを知っていたといいます

藤井勘解由は孫四郎に間違った手順を教え

孫四郎の死後も加世と不倫を続けている

しかも城下の豪商から多額の賄賂を受け取り、家老たちにも配分して

自分の地位を安泰なものにしているというのです

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以登には淡い恋心もあったのでしょうが

孫四郎と同じ剣士として藤井勘解由の卑劣さが許せなかった

藤井勘解由に果たし状を送ります


そこでも才助は余計な詮索はせず、何も言わず

ただそっと以登を支える、なんともいえない男らし

見た目とのギャップの差にヤラレル度は100点満点(笑)

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そして果し合いの日、相変わらず卑怯な男藤井勘解由は

3人の剣の達人を使って以登を暗殺しようとします


さすがザ・歌舞伎で半沢直樹市川亀治郎(笑)

わかりやすい憎たらしさが半端ありません

北川景子ちゃんはまるで”バーチャ・ファイター”のキャラの如し

殺陣はイマイチだけど(笑)ビジュアル的には最高


3人の剣士を倒し、懐剣で藤井勘解由にトドメを刺す

そこに才助がやって来て

藤井勘解由の死は、彼が賄賂を受け取っていること知る

何者かの強請り(ゆすり)によるものだろうと片付けるのです

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そうして才助は以登の家に婿入りし、7人の子を儲け

甚左衛門の名を継ぐと、昼行灯と呼ばれながらも中老、家老と出世し

筆頭家老として、長い間勤めを果たしたということ


冒頭でも言った通り、映画としての出来はそれほどでもない

だけど重松清原作の「青い鳥」(2008)もそうだったけど

この監督は原作者の訴えたいテーマをきちんと理解している

だから原作小説を読み終えた時と同じように

小さな感動と余韻が残るのです

 

 

【解説】allcinema より

架空の小藩“海坂藩”を舞台にした藤沢周平の短編時代小説を北川景子主演で映画化。女でありながら剣の道を愛し、武士の家に生まれた女としての運命を受入れながらも、決して心の芯を曲げることなく凛として生きた一人の女性の姿を描く。共演に甲本雅裕宮尾俊太郎市川亀治郎。監督は「青い鳥」の中西健二
 江戸時代、東北の小藩、海坂藩。組頭・寺井甚左衛門の一人娘、以登は、男にも劣らぬ剣の使い手。ある日彼女は、下級武士ながら藩随一の剣士、江口孫四郎と出会う。一度でいいから孫四郎と剣を交えてみたいとの想いが高まる以登。父はその願いを聞き入れ、竹刀での立ち合いが実現する。結果は完敗だったが、真摯に向き合ってくれた孫四郎に対し憧れ以上の感情が湧いていた。しかし、以登は婿を迎えなければならぬ身。すでに片桐才助という許嫁がいた。以登は孫四郎への想いを静かに断ち切る。ところが数ヵ月後、孫四郎が大事なお役目で失態を演じ切腹したとの報せが届く。やがてそれは、藩の重臣、藤井勘解由による陰謀だったと知る以登だが…。