5時から7時までのクレオ(1962)

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若い女は愛されることを愛す 」


原題も「Cleo de 5 a 7 」(クレオ5~7)

なかなか見ることの出来ない、ヌーヴェルヴァーグ左岸派の傑作を

まさか無料配信で見れる時代がやってくるとは(笑)

不思議で、密度が濃く、文学的で、洒落ている

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さらに、本作ではふたつのお宝映像を見ることができます

ひとつは作曲家のミシェル・ルグランが俳優として出演した唯一のもので

ミュージカルのようにピアノを弾きながら歌います


ふたつめは作中の(女を人形として扱ってるという痛烈なイヤミの )

サイレント映画に出演している

ジャン=リュック・ゴダールアンナ・カリーナ

ジャン=クロード・ブリアリエディ・コンスタンティーヌ

しかもこの映画自体が、リュミエール兄弟へのオマージュということ

シネフィルなら思わずニヤリとすることでしょう

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196162117時、パリ

若い女性が占い師にタロット占いをしてもらっています

占い師は、まず最初に彼女に献身的な未亡人がいるといい

次に紳士的な大人の恋人、だけど彼には頻繁に会えない

次に彼女を笑わせてくれる男性の存在

医者という邪悪な存在は病気を現わし

救世主は、おしゃべりな若者

だけど最後には死を予告するような死神のカード

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女性は占い師に手相も見てくれと要求しますが

占い師は一瞬手のひらを見て鑑定を拒否します

そして女性が立ち去った後、占い師は彼女の死を宣言するのです


タロットカードだけカラー、あとはモノクロ映像で

物語はタロットカードの予言通り進行していきます

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クレオは売れっ子のシャンソン歌手

マネージャー?メイド?の中年女

アンジェールが身の回りの世話をしてくれています


クレオは健康診断を受け、その結果がわかるのが19

きっと癌で死ぬんだと不安でなりません

恋人も、作曲家も、気にしすぎだと慰めますが

クレオの心は晴れない

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出かけた先のカフェのジュークボックス

カエルを飲み込み、水を吐き出す大道芸人

怖いもの知らずの女性ドライバーのタクシーに乗る

なにをしても、何を見てもクレオの心は晴れない

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ヌードモデルをしている古い友人と映画を見ても

クレオの心は晴れない


クレオはタクシーの運転手にモンソー公園の中を走れと頼みます

日本でいえば上野公園にタクシーが入り込むようなもの(笑)

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川の橋にぶつかり、タクシーを降りたクレオはひとりの男に声を掛けられます

男はアントワーヌと名乗り、お調子者で、背も高くないし、すきっ歯

当然こんな男を相手にするつもりはありません


だけどアントワーヌから、自分はアルジェリア戦争に参戦している兵士で

今日が最後の休暇日だ聞くと、彼に心を開いていきました

癌で死ぬか、戦争で死ぬか、人間はいつどこで死ぬかわからない

クレオはアントワーヌに自分と同じ境遇を感じたのです

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クレオは本名はフロランスだと教えます

するとアントワーヌは、権高く毒蛇で死ぬクレオパトラよりも

春の女神フロランスの名の方が君に相応しいと伝えます

 

ふたりは病院に検査結果を聞きに行くためにバスに乗ります

アントワーヌが花売りから抜き取った白い一輪の花が

クレオを死というトラウマから解放する

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医師は放射線治療は辛いが、必ず回復するとクレオに告げます

19時、クレオは病をカラリと受け入れ

少なくとも2時間ぶりに、幸せを感じていました

 

が、突然画面は真っ黒になり(笑)

ヒロインの未来を、否定も肯定もしないラスト

この切り捨ての消化不良こそヌーヴェルヴァーグ(笑)

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細かいチャプターでの時間指定は

今の映画やドラマに多くの影響を与えていますし

鏡の使い方や、猫の湯たんぽ、女性の職業人など

作り手が女性ならではの小道具の使い方や、感性に優れています

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また街でゲリラ撮影しているため、カメラの方を見る人々がたくさんいて

それがヒロインの被害妄想を効果的に表現するという試みに

成功しています

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深いこと考えずに、この洒落た雰囲気を楽しむだけでも良し

 

ジャン=リュック・ゴダールをこんなに可愛く撮れるのは

世界中でアニエス・ヴァルダしかいません(笑)

 

 

【解説】KINENOTEより

新進女流監督アニエス・ヴァルダがみずから脚本を書き演出した心理ドラマ。撮影はジャン・ラビエ、音楽は「新・七つの大罪」のミシェル・ルグラン。出演者は新人女優コリンヌ・マルシャン、アントワーヌ・ブルセイユ、ミシェル・ルグラン、特別出演としてジャン・クロード・ブリアリ、サミー・フレー、ジャン・リュック・ゴダールなど。A・T・G第十二回上映作品。黒白・部分カラー・スタンダードサイズ。特集『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』にて2017722日より再上映(配給:ザジフィルムズ)。

 

私はあなたのニグロではない(2016)

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「殺人や不倫は神が赦してくれる でも人種の融和は認められない」

原題も「I Am Not Your Negro

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1950年代後半から60年代にかけて

マルコムXマーティン・ルーサー・キング牧師と知り合いであり

自身も公民権運動活動をしていた黒人作家

ジェイムズ・ボールドウィンの発言や記録映像をもとに

アメリカの黒人に対する人種差別を扱ったドキュメンタリー映画

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最近ではプロテニスプレーヤーの大阪なおみさんの

警察官による人種差別的な暴力の被害に遭った

黒人犠牲者たちの名前の書かれたマスクが話題になりましたが

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本作のなかでも白人警察官による暴力シーンがいくつも登場します

首を膝で押さえつける窒息死

妻や子どもの目の前で無抵抗の人間を容赦なく殴る、蹴る

しかも何人も警察官が集団で

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古い映像では木にぶら下がるいくつもの首つり死体

惨殺された死体の山が映し出されます

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こんな酷いことが昔アメリカであったのか、ではない

これは今日もどこかで起きている現実

警察官に目を付けられたら終わり、いつ殺されるかわからない

黒人の命は常に危険に晒されているのです

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なのにテレビや映画では、そんな事実はひとつもないような

黒人の生活は向上していると、白人の都合のいいように描かれている

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ボールドウィンは言う

「なぜ“ニグロ”が必要なのか それを自分に問いかけてほしい」

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一方的に抑圧する側と、抑圧される側
これは人種差別だけでなく、階級や、いじめ

いろいろな社会の構造の問題を表してる言葉だと思います

同じ病理は日本にも、世界中にもますます広がっている

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重いテーマで、生々しい心情を表した言葉がきついですが

映像や音楽の使い方がうまく、数々の名作映画を使っての解説もうまい

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特に黒人への迫害を今の言葉で叩きつける

エンドクレジットで流れたケンドリック・ラマー の

「ブラッカー・ザ・ベリー」(The Blacker The Berry には

ガツンときます

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【解説】ウィキペディアより

私はあなたのニグロではない』(I Am Not Your Negro)は、ジェイムズ・ボールドウィンの未完成原稿『Remember This House』を基にしたラウル・ペック監督による2016年のドキュメンタリー映画である。サミュエル・L・ジャクソンがナレーションを務めるこの映画は、ボールドウィンによる公民権運動指導者のメドガー・エバース、マルコム・Xマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの回想を通してアメリカ合衆国の人種差別の歴史、そして米国史についての彼の個人的な考察が描かれる。第89アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。

ドキュメンタリーはサミュエル・L・ジャクソンがナレーションを担当し、ジェームズ・ボールドウィンの未完成原稿『Remember This House』と彼の1970年代のメモや手紙に基づく内容となっている。回想で彼の友人で公民権運動の指導者のマルコム・Xマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、メドガー・エバースの人生が紹介される。

 

 

民衆の敵(1931)

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民衆の敵とは特定の人物の事ではない

 それは社会全体で解決すべき問題である」


原題は「THE PUBLIC ENEMY (公共の敵)

 

デビュー間もないジェームズ・キャグニーを有名にし

その後「ゴッド・ファーザー」(1972)に代表される

全てのギャング映画の楚となった傑作

やっと見ることができました

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映画史に残る有名なシーンも多く

愛人(メイ・クラーク)の顔にグレープ・フルーツを押しつける

馬を殺しに行く

土砂降りの雨のなか、二丁拳銃で殴り込み

衝撃的で、あっけない幕切れ

若きギャングスターのはかなくも壮絶な青春

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1931年製作なので、今見るとちょっと拍子抜けな部分もありますが(笑)

驚いたのは機関銃で撃たれたとき、本当にコンクリートが砕け散ったこと

数少ない銃撃戦の中で迫力が際立っていました


またサイレントからトーキーになって間もない頃の作品で

顔の表情で見せる演技が巧い、母親役のベリル・マーサがいい

表情だけで息子をどれだけ案じているかという気持ちが伝わります

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アイルランド系のトム(ギャグニー)とマット(エドワード・ウッズ)は

幼い頃から悪戯ばかりしている親友で相棒

盗んだ商品をプティという地元の悪党に横流し、小遣いを貰っていました

ある日毛皮泥棒を依頼され、警察官を殺してしまいますが

プティに裏切られ逃げられてしまいます

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ギャグニーの若い頃から存在感ある悪役顔(笑)

でもレオナルド・ディカプリオのような甘い美少年さも垣間見れる

 

やがて禁酒法の時代なり、トムとマットに暗黒街の大物

パディ(ロバート・エメット・オコナー)から声がかかります

しかし同じ悪党でもプティと違い、パディ親分は人間として優れている

たとえ若造でも分け前は平等

仲間を危険な目にあわせようとはしません

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そして大金の入った若い男のすることといえば

高級車に高級なスーツ、高級そうな女

そして苦労させた母親への親孝行

(テーブルの大きなビア樽がシュール 笑)

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だけど兵役を終えたばかりの兄、マイケル(ドナルド・クック)は

堅気で堅物で聖人様、血で汚れた金は受け取れないと拒否

札束をビリビリ破いて投げ捨てるのですが

 

早くに父親を失くし、兄のマイケルが父親代わり

トムがどんなに凶悪でも、マイケルだけにはかないません

この家族愛がラストに繋がる

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トムとマットの活躍で、パディ親分のシェアは拡大しますが

親分と協力関係にあった実力者が落馬事故で死んだのをきっかけに

ギャング同士の抗争が始まってしまいました

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パディ親分はトムやマットを守ろうと匿いますが

年上の女の誘惑され、トムは隠れ家を飛び出してしまいます

トムを追ったマットは、待ち伏せしていたギャングに撃たれて死んでしまう

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トムは雨の中、マットの復讐をするため

ひとりでバーンズ一家に乗り込むものの瀕死の重傷を負ってしまう

しかも病院から誘拐されてしまうのです

 

パディ親分はトムを助けるため、自分のシマを全てバーンズ一家に譲るつもりでした

しかし帰ってきたトムはすでに惨殺されていたのです

倒れ込むようにフラフラと歩くマイケル

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どんなクライマックスもワンカットで撮ってしまうという技法

無駄なカメラの動きも、無駄なシーンも、ひとつもない

 

パディ親分がトムに言った言葉が蘇る

「人間には ”良い” か ”悪い” の二種類しかない」

この先、マイケルはどちらの世界に進むのだろう

見るものに委ねられた深いラスト・・

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嬉しそうに枕カバーを変えている母親が切ない

 

 

【解説】allcinema より

数あるギャング映画の中でも最も共感できない主人公を擁する、強烈なW・ウェルマン監督作(だからこそ、反語的にこの映画のキャグニーを愛する連中も多い。半世紀が過ぎても色褪せないそのワルぶりよ)。貧しいアイルランド家庭に育った男は、母と弟たちとの家庭を護るため、進んで暗黒街へと乗り込み、惨虐の限りを尽くして急速にのしていく。もはや母の注進も受け入れず、彼女も腫れ物に触るように息子を扱うのだった……。ウェルマンは贅肉を削ぎ落としたスタイルで、この悪のヒーローを、その非業の最期(笑ってしまうくらい呆気なく凄まじい幕切れ)まで一直線に描ききる。それはハード・コアな域にまで達するパンクに等しい

アスファルト(2015)

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原題も「ASPHALTE」(アスファルト

新型コロナで世界を覆う不寛容というトレンド

なくならない差別や蔑視が今、私たちの心に暗い影を落としています

 

そんな時代でも、お互いの足りない部分を補ったり

認め合ったりすることが出来るはずと信じたくなるような

見終わったあとはちょっとハッピーな気持ちになれる

年齢も人種も違う男女の3つの小喜劇

 

古い団地の1室に住民が集まり

壊れたエレベータを取り換えようという会議が行われていました

ただひとり2階に住む男、ギュスタヴ・ケルヴェンは費用負担を拒否します

結局、男はエレベータを使用しないという条件で支払いを免除されますが・・

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エレベータの故障をモチーフとして物語が展開するのかと思いきや

そうではなく(笑)

不器用で意思疎通が苦手な、別々の男女が出会い

親子でもないし、エロティシズムという形でもない

ちょっと定番と違う、男女の交流を深めていくというもの

 

新しいエレベータになった直後、男は車椅子生活になってしまいます

ここで素直に住民たちに怪我を打ち明け費用を支払えばいいわけですが(笑)

深夜になると誰にも見られないよう、エレベータに乗り

食料を調達するために出かけるものの店はすべて閉まっている

そこで病院に設置された自販機でスナック菓子を買うことにします

そこで夜勤の看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)に見つかり

とっさに自分は写真家でロケハンに来たと嘘をついてしまう

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それから毎晩、看護師の休憩時間に合わせて病院に行くようになった男は

彼女の写真を撮りたいと提案します

しかし約束の夜、エレベータが故障して男は閉じ込められてしまいます

 

エレベータのドアが開いた時、男は足を引きずりながら歩いていました

病院に着いたときにはすでに夜が明け

ちょうど夜勤明けの看護師と会うことが出来ました

そこで男は正直に自分は何者であるかを伝えるのです

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ふたつめの物語は、母親が留守がちで

ほとんどひとりで過ごしている高校生のシャルリは

隣に引っ越してきたばかりのイザベル・ユペールと知り合います

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彼女の職業は女優でそれなりに有名だということ

でも若いシャルリはユペールのことを知りません

そこで彼女が主演している映画を見せてほしいと提案します

その映画も普通の高校生に理解できるようなものではないのですが(笑)

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今は役がつくこともなく、落ちぶれてしまったユペールが

オーディションに合格するよう、シャルリは世話を焼くようになります

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最後の物語は、NASAの手違いで帰還用のカプセルが

団地の屋上に不時着してしまった宇宙飛行士のジョン・マッケンジー

アルジェリア系移民のマダムの部屋を訪ねるというもの

 

飛行士とマダムは全く言葉が通じないものの

人の好いマダムは飛行士に息子の服を貸し、息子の部屋に泊め

得意料理のクスクスを作り、宇宙服を洗濯してあげる(笑)

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そんな明るいマダムだけど、息子は刑務所に入所しているんですね

面会でこっそり「NASAの宇宙飛行士を匿ってる」と教えると

アルツハイマーか」と息子に逆に心配される始末(笑)

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マダムの優しさに触れた飛行士も、壊れた水道管を直してあげようとします

そしてやっとNASAから迎えが来た日

マダムと飛行士は本当の親子の別れのように抱き合いました

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登場人物たちは、全員恵まれていない人たち

それは自分のせいではなく、不遇だったり、運が悪かっただけ

それでも彼らはそれを誰かのせいにしたりはしないし

誰かを傷つけたりもしない

 

それどころか、それは小さなことかも知れないけれど

自分にできることで他人を助けようとするのです

しかも決して見返りを求めることはありません

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人工的で、ゴミだらけで、灰色の道路のアスファルトにも

陽に照らされたり、雨に濡れたり、時に光輝く時がある

同じように世間から見捨てられた人々の心の中にも

美しいものは宿っている、そんなメッセージを感じることができました

 

 

【解説とあらすじ】KINENOTEより

俳優・監督のサミュエル・ベンシェトリがイザベル・ユペールらを迎え、自身の著作をユーモラスに映画化した群像劇。車いす生活を送る冴えない中年男やいわくありげな美人看護師ら6人の孤独を抱えた者たちが郊外の団地でめぐりあう出会いと奇跡を紡いでいく。ほか、「ラストデイズ」のマイケル・ピット、「ふたりの5つの分かれ路」のヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、サミュエル・ベンシェトリの息子であるジュール・ベンシェトリらが出演。劇場公開に先駆け、フランス映画祭2016にて上映(上映日:2016625日)

外にある寂れた団地。人知れず車いす生活を送ることになった中年男性といわくありげな看護師、一人で留守番をすることの多い少年とその隣りに引っ越してきた落ち目の女優、不時着したNASAの宇宙飛行士と服役している息子を待ち続けるアルジェリア系移民の女性。それぞれ孤独を抱えた6人のもとに、出会いと奇跡が訪れる

 




ジャック・ドゥミの少年期(1991)

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原題は「JACQUOT DE NANTES」(ナントのジャコット)

ナントとはフランスのロワール河の河口にある都市で

ジャック・ドゥミ(=ジャコット)の故郷のこと


アニエス・ヴァルダが、病気を患い映画監督から離れたドゥミのために

ドゥミの少年時代を描いた作品

小さな男の子だったドゥミがどのようにして映画と出会い

映画を作るように至ったのかを優しく丁寧に伝えています

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ドゥミの代表作といえばミューズ、カトリーヌ・ドヌーヴ主演作の

シェルブールの雨傘(1964)や「ロシュフォールの恋人たち(1967)ですが

自分が生まれ育ったナントを舞台にした作品も多く

本作のロケーションもナントで、ドゥミの生家でも撮影されたそうです

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幼い頃からオペラや人形劇に親しんできたドゥミは

自作で段ボールで人形を作ってみたり

ディズニーアニメに大きな影響を受け

やがて中古の手動式映写機を手にし

近所の子どもたちを集め芝居をさせた実写映画や

コマ撮りアニメを制作するようになります

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上映会はリビング、観客は家族だけ

ほんの数十秒かも知れない動画を両親は称える

こういう子どもの頃の体験って大切なのだろうな

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戦争、疎開ナチスからの占領を経験しながら

どんどん映画に夢中になっていくドゥミ

だけど父親の要望は、息子が堅実な職に就くこと

高等職業学校に進学させられることになります

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普通の少年ならここで反発するのでしょうが

ドゥミは職業訓練を受けながら、映画の道も諦めてはいませんでした

工業学や整備士の資格もしっかり所得し、余暇には美術学校に通う

高校を卒業する頃には、ドゥミが映画の道を進むことに

父親が反対することはありませんでした

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そうしてドゥミはパリの映画学校(ETPC写真撮影技術学校)

通うことになるのです

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物語の途中途中に挿入される、晩年のドゥミの顔のアップ

瞳、眉毛、皺、シミ、白髪・・

アンタどれだけ旦那フェチなの(笑)

ヴァルダにとってドゥミが自分の一部であることがよくわかる

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ドゥミはこの撮影中に死去してしまい

ラスト、海辺の彼と寄せる波

回想するドゥミを回想するヴァルダ

人形劇が終わっても席を立たない少年は言う、「また幕が開くよ」

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映画監督、アニエス・ヴァルダ
1962
ジャック・ドゥミ結婚、1991年ドゥミと死別59歳没)

ドゥミの希望で死因白血病と発表

しかし死後数年後、ヴァルダ自身のドキュメンタリー映画

夫はエイズだったと打ち明けます

1980
年代、バイセクシャルだったドゥミ

ヴァルダと離れて暮らす時期がありました

 

再びふたりは近づき、お互い再発見しあいましたが

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やがてエイズ発症

 

まだエイズや同性愛に対する風当たりは強く

ドゥミはエイズ知られるのを恐れその事に多くのエネルギーを使いましたが

ヴァルダは夫がエイズであることすら受け入れました

夫の自分の知らなかった部分までこんなに愛せるなんて

美しすぎて泣ける

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これはシネフィルから、シネフィルへのラブレター

こんなふうになれたならな、と憧れます



【解説】映画.comより

シェルブールの雨傘」など数々の名作を生んだジャック・ドゥミ監督の映画愛に溢れた少年時代を、ドゥミの妻アニエス・バルダ監督が愛情を込めて映画化。晩年の本人の姿や代表作の名場面を織り交ぜながら、ドゥミの創造の源となった幼い日々の思い出を優しいまなざしで描く。フランス西部の港町ナントで暮らす8歳の少年ジャコは、自動車修理工場を営む父と髪結いの母のもとで幸せな毎日を過ごしていた。ある日、ジャコは友人から映写機を借りたことをきっかけに、映画づくりに熱中するようになっていく。

 

アダムス・ファミリー2(1993)

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原題は「Addams Family Values

Value(バリュー)には価格のほかに、論理や価値観という意味もあります

前作に引き続き「他人と違うことを否定しない」がテーマですが

笑えるか引くかギリギリのところをついてくるギャグ

しかもやり返しは「半沢直樹」の倍返しどころじゃない(笑)

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ゴメス(ラウル・ジュリア)とモーティシア(アンジェリカ・ヒューストン)の

あいだに次男ピューバートが生まれ

新しい子どもが生まれると上の子はいらなくなる ”という

アダムス家の言い伝えを信じている

ウェンズデー(クリスティーナ・リッチ)とバグズリーは

ピューバート殺害を企てています

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そこでゴメスとモーティシアは住み込みのナニーを雇い

ピューバートの面倒をみてもらうことにしました

やってきたのは金髪美女のデビー(ジョーン・キューザック

実は彼女、遺産目当てに富豪の男と結婚する連続殺人犯

兄フェスター(クリストファー・ロイド)の持つ莫大な財産を狙い

屋敷にやって来たのです

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もしかしたらこの映画が”キモかわいい”の元祖なのかも知れません

顔面蒼白の髭赤ちゃん、ピューバートがラブリーだし

クリストファー・ロイドも、悪女のジョーン・キューザック デビーも

主演作の中でいちばん可愛いんじゃないかな

そして我らがクリスティーナ・リッチ

自分のイメージ作りのためには胸を小さくする手術までしたとか

(元が巨乳って言うのもズルいが)

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デビーの策略によってウェンズデーとバグズリーが

ひと夏をサマー・キャンプを過ごすことになり

同じくキャンプに参加する(白人の)女の子や指導員から

事実上の差別や虐めを受けるのと

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フェスターがデビーの魔性の虜になり、骨抜きにされついには結婚

財産を使われ家族と引き裂かれる様子が並行して描かれます

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反省小屋でディズニーのアニメ

演劇の役決めは、ワスプかワスプ以外か(ROLANDか 笑

一方のフェスタ―はデビーに白いスーツを着させられ

金髪のカツラをかぶせられる

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アメリカでは政治と映画のテーマって

ものすごく強く繋がっているような気がして

この映画が製作された1993年は、大統領がジョージ・HWブッシュ から

クリントンになった年

(その後クリントンの不倫騒動を揶揄した「パーフェクト・カップル」(1998)

という映画も制作されましたが)

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だけどアダムス一家は不死身、その理由はメンタルの強さ

保護者見学の寸劇でインディアンに扮したウエンズデーが先住民弾圧の歴史を語り

火を放って劇をめちゃくちゃにする気分のいいこと(笑)

「キャリー」(1976)をちゃっかりパクってるのもツボ

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でもラストは、ちょっとハッピーエンドの予感

ウェンズデーには好きなってくれる男の子

フェスタ―にはフェスタ―そっくりな、運命を感じる女性が現れます

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人気作品の続編としては、希少な前作にも負けない良い仕上がりで

(ハンドくんの出番が少ないのが唯一の不満 笑)

いかにも「アダムス・ファミリー3」ありき終わり方でしたが

ラウル・ジュニアが急死してしまったため(199454歳没)かないませんでした

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自分の行動が周囲から浮いているのかも、とか

変わっている”と嘲笑されているような気がする、とか

もしそんな悩みを持っている人がいたなら見てほしい

 

たとえ人と考えや、見た目が違っても

自分たちのアイデンティティー(自分は自分である)を貫く、という

強さと魅力を教えてくれるのだから

(現実には、度の過ぎたイタズラはダメよ 笑)

 

 

【解説】KINENOTEより

オバケ一家の奇想天外な日常を描いたホームコメディの続編。原作は『アダムスのオバケ一家』のタイトルでTVシリーズ化もされたチャールズ・アダムスの同名漫画。監督はカメラマン出身で前作で監督デビューした「バラ色の選択」のバリー・ソネンフェルド。製作は前作に続き、「ザ・ファーム 法律事務所」のスコット・ルーディン。撮影はドナルド・ピーターマン。音楽はマーク・シャイマンで主題歌はラップ・デュオのPM・ドーン。美術は「ロシア・ハウス」のケン・アダム。SFX はアラン・ムンローが担当。主要キャストも前作同様で、「推定無罪」のラウル・ジュリア、「グリフターズ 詐欺師たち」のアンジェリカ・ヒューストン、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのクリストファー・ロイド、「恋する人魚たち」のクリスティーナ・リッチなど。

アダムス・ファミリー(1991)

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原題も「The Addams Family

原作はホラーコメディの1コマ漫画で、ドラマや映画でも人気シリーズ

ちなみに他の作品は見ていません(笑)

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これがバリー・ソネンフェルド監督デビュー

確かに今見ると、確かに毒気足りないものの

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耳に残るBGM、細部に至るこだわり

そしてなにより超絶妙なキャスティング

家主のゴメズ(ラウル・ジュリア

妻のモーティシア( アンジェリカ・ヒューストン

娘のウェンズデー クリスティーナ・リッチ

行方不明の兄フェスタークリストファー・ロイド

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どれもハマリ役、ナリキリ度がすごい

息子のパグスリーだけ、なぜか普通(笑)

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クリスティナ・リッチは、この後「バッファロー'66(1998)

垣間見る演技力を見せ

「モンスター」(2003)ではセロン姐さんに負けない存在感を示しました

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ゴメスの弁護士ナタリーと、高利貸しのアビゲイル

行方不明のゴメスの兄フェスタ―が

ナタリーの養子であるゴードンとそっくりなことから

ゴードンをフェスタ―だと偽りアダムス家の財産を狙おうとします

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ナタリーとアビゲイルによってアダムス一家は邸から締め出され

裁判では財産はニセのフェスターのもとという判決が出されてしまう

すっかり元気をなくしたゴメスに見かねて

モーティシアはアダムス邸に向かいますが、あえなく捕まってしまいます

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ハンドくんから知らせを受けたゴメスは妻の救出に向かい

ナタリーとアビゲイルを倒します

ゴードンはその時のショックで記憶が戻りました

彼は本物のフェスターだったのです

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ハンドくんがいい仕事をしている(笑)

 

一見くだらないだけですが、夫婦愛、家族愛と

他人と違っても、それを否定しない、というのが

この作品の最大のテーマだと思います

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最後に、ウェンズデーとパグズリーの劇が最高(笑)

 

 

【解説】KINENOTEより

チャールズ・アダムス原作で、TVシリーズ化されたこともある漫画“The Addams Family”TVタイトルは『アダムスのお化け一家』)の映画化。監督は「ミラーズ・クロッシング」などのカメラマンで、これが監督デビューとなるバリー・ソネンフェルド、製作は「心の旅」のスコット・ルーディン、エグゼクティヴ・プロデューサーはグラハム・プレース、脚本は「ビートルジュース」のラリー・ウィルソンと「シザーハンズ」のキャロライン・トンプソン、撮影は「殺したいほど アイ・ラヴ・ユー」のオーウェン・ロイズマン、音楽は「シティ・スリッカーズ」のマーク・シャイマンが担当。