ナイロビの蜂(2005)

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「君を守るよ」
「私もあなたを守るわ」

原作と原題はジョン・ル・カレの「The Constant Gardener」(誠実な園芸家)
ヒロインのモデルは、ル・カレが「本書を捧げる」と記した
難民問題に取り組んだ人道主義者イヴェット・ビアパオリ(1938~1999)

原作はわかりませんが、映画は「愛の物語」でした
たったひとりの女性、男性の尊厳を命を懸けても守る

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イギリス外交官ジャスティン(レイフ・ファインズ)の講義で異議を申し立てた
若い女性活動家、テッサ(レイチェル・ワイズ)
講義に参加していた傍聴者たちが次々と席を立ち去ることから
彼女が面倒な女として知られていることが想像できます
自分の目的を果たすためには手段を選びません

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ジャスティンに近づき、すぐに寝たのも彼の立場を利用するため
アフリカ行きが決まったジャスティンと夫婦になり妊娠
大きなお腹を抱え、ガイドである黒人医師アーノルドと共に
難民救済の活動に意欲を燃やします

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逆にジャスティンは純粋で臆病な男なんですね
テッサとアーノルドに性的な関係があるというメールが届いても
子どもをアーノルドの勤める難民キャンプの病院で産むと主張しても
不都合な真実を見ることができない

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テッサは死産してしまいますが、ジャスティンの同僚サンディにこっそりと
この病院で少女が殺された証拠を手に入れたから行動してほしいと頼みます
サンディはテッサの情報をイギリスに送り、返答の手紙が届きますが
サンディは自分の首が飛ぶと、深入りしないようテッサに警告します
テッサは手紙を見せてくれたら「自分の身体を好きにしていい」と
サンディに取引を申し込みます

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その手紙を持ち、アーノルドと出かけたテッサは
アーノルドと共に遺体で見つかりました
テッサの葬儀の後、テッサの仕事仲間の女性が
アーノルドはゲイで、テッサとの噂は嘘だったことを打ち明けます

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妻のことも、妻のしていた調査も知らなかったのは自分だけ
ジャスティンはテッサの従弟で弁護士のハラに会いに行き
ハラの息子にテッサの極秘ファイルをハッキングしてもらいます
そこにあったのはテッサが撮影した自分の寝起き姿の動画
彼女がいかに自分のことを愛していてくれたかを知ります

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彼女にとってジャスティンは他の汚れた男たちと違う「誠実な園芸家」
地獄のような光景から救われるオアシスのような場所だったのでしょう
ジャスティンもまた、彼女なしでは自分が生きられないことに気付きます
彼に残された使命は、彼女のやり残した仕事をやること

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ジャスティンはサンディを脅し
新薬を開発した製薬会社とイギリスが癒着のあったことを突き止めますが
すでに責任者は社内の権力闘争に巻き込まれ、現職を失おうとしていました
彼はジャスティンに、自分が破滅するなら経営陣も道連れにしてやると
新薬の副作用で死んだ者たちが埋葬されている場所を教えました

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ジャスティンはひとり、妻が死んだ場所に向かいます
その後、イギリスでは自殺として追悼式が行われていました
テッサの従弟ハラは、追悼の言葉としてジャスティンの集めた
国ぐるみで不正な新薬の実験が行われた証拠を読み上げるのでした

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でも、それよりもジャスティンの願いは
妻と一緒に埋葬されることだったと思います


【概要】ウィキペディアより
執筆の年からさかのぼる20年前、ル・カレがバーゼルビヤホールにいたとき、黒いひげにベレー帽の男が両開きのドアから自転車ごと入ってきてテーブルのそばに自転車を置いて座った。男は化学者で、対人毒物の研究に参加することを拒絶して今は無政府主義者だと話し始めた。その人物はライン川上流の河岸にひしめく「マルチ」と呼ばれる多国籍製薬会社の悪行をル・カレの脳裏に焼き付けた。ル・カレはいつの日かこの男と「マルチ」のことを書こうと思い、ひげやベレー帽や自転車は捨てても、男の怒りだけは将来のためにとっておこうと思ったという。
ル・カレは小説の舞台をアフリカにすることを考えた。まず、国際石油企業に略奪され、汚染されたナイジェリアを舞台にすることを考えたが、どうも平凡に思えた。そんなとき、赴任先のほとんどがアフリカだった元MI6のテッド・ユーニーが製薬業界はどうかと提案した。ル・カレはケニアを取材。そして調査すればするほど、アフリカにおける製薬会社の無法ぶりに憤りを覚えたという。
本作品は「イヴェット・ピエルパオリに捧げる」との献辞がある。慈善活動家のピエルパオリはル・カレの古い友人で、登場人物のテッサ・クエイルのモデルとされている。「アフリカの貧しい人々、とくに女性への献身、慣習への軽蔑、断固己の道を行く異常なまでの信念は、かなり意識的にイヴェットに倣った」と彼は述べている。
2001年1月に刊行され、イギリスでベストセラー1位になり、13週連続でトップテン入りした。アメリカでは『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーリストの4位になった。フランスでもベストセラー1位に輝いた。ドイツでは最初の週だけで5万部を売った

予期せぬ出来事(1963)

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原題は「The V.I.P.s」(Very Important Person=重要な人物たち=要人)
この邦題はいいですね

ロンドンのヒースロー空港
若い賭博師と駆け落ちしようとする
結婚13年目を迎える経済界の大富豪の奥様
脱税のため英国を離れたい映画製作者と女優
大手企業に買収される寸前のトラクター会社社長と秘書
巨大な屋敷の維持費が悩みの公爵夫人

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緊急事で今日中に旅立たなければならない人々が
霧のため飛行機が立往生してしまうという災難に見舞われてしまう

しかもこれが、「風と共に去りぬ」(1939)のヴィヴィアン・リー
愛人ピーター・フィンチと飛行機で駆け落ちしようとした時(1938頃)
霧のため離陸できず、夫のローレンス・オリヴィエの元に戻ったという実話を
ヴィヴィアンとオリヴィエ共通の友人で劇作家の
テレンス・ラティガンのオリジナル脚本による映画化

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夫婦の痴話喧嘩を、お金のためだか何だか知らないけれど
他人がネタにするとは悪趣味だとは思うけれど(笑)
ヴィヴィアンとオリヴィエを演じれるのは
やっぱりリズとリチャード・バートンしかいない
しかもオリヴィエとバートンに同性愛関係説があったというおまけつき

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コメディリリーフは、まさかのオーソン・ウェルズ御大
好きでもないおバカ女優との結婚に萎える姿はなかなか可愛い
本作のリチャード・バートンもだけど、デキと思っていた男ほど
女に弱みを見せると、女は助けたくなるのだろうな

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ストーリーは、ロンドンに住むフランセス(エリザベス・テイラー)が
大富豪のポール(リチャード・バートン)から
旅に出るたび宝石を贈られる、愛される妻の姿から映し出されます
だけどその日フランセスは、賭博師でプレイボーイのマークと
アメリカに駆け落ちしようとしていました
しかし霧のため明朝まで飛行を延期
フランセスからの別れを書いた置手紙を読んだポールは
拳銃を持ってホテルに駆けつけます

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妻の不貞を冗談だろうと言い
手切れ金としてマークに小切手を書こうとする
しかし金で全てを解決しようとしていた自分を反省し潔く別れを決意
ニューヨーク宛にフランセスへの手紙を書きます
その手紙をホテルの受付が間違って、フランセスが旅立つ前に渡してしまいます

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ポールの傷心を知ったフランセスは、夫の元に帰ることを決意
映画監督は新進女優と入籍することで税金を安くあげることに成功
次のロケ地を侯爵夫人と交渉成立
侯爵夫人は屋敷の維持費が得られたので旅行を取りやめ
買収される寸前だったトラクター会社社長は
ポールからの突然の小切手で窮地を救われ秘書にプロポーズ

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お金と愛で、いろいろな問題の決着がついて
愛だけあっても、お金も仕事もないマークはひとり寂しく旅立つのでした

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この頃のリズ(30歳)はすでに体系が逞しくなってきており
ジバンシイのピンクのドレスが似合わないという現実はおいといて(笑)
ヴィヴィアンやリズのような女と、お金がなくても結婚できると思うのが間違い

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そして何より、13年変わらなかった夫が変われるかというと
それはありえないわ(笑)

 


【解説】KINENOTEより
「求むハズ」のアンソニー・アスキスが監督した人生ドラマ。撮影も「求むハズ」のジャック・ヒルドヤード、音楽は「エル・シド」のミクロス・ローザ。脚本は現在華々しい活躍をみせているイギリスの劇作家テレンス・ラティガンのオリジナルである。出演者には「バターフィールド8」のエリザベス・テイラー、「史上最大の作戦」のリチャード・バートン、「恋の手ほどき(1958)」のルイ・ジュールダン、「第3の男」のオーソン・ウェルズ、「ローマを占領した鳩」のエルザ・マルティネリ、「鳥」のロッド・テイラー、久しぶりのリンダ・クリスチャンなど。製作はアナトール・デ・グランウォルド。

山羊座のもとに(1949)

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イングリッド、たかが映画じゃないか」

原題も「Under Capricorn」
Capricornには「やぎ座」(自己犠牲の星座)のほかに
「南回帰線」の意味をもつそうです(オーストラリアは南回帰線下の大陸)

原作はヘレン・シンプソンの同名小説で
ヒッチコック版「嵐が丘」という感じ(笑)

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パラダイン夫人の恋」(1947)のあと、待望の独立をはたしたヒッチさんが
ハリウッド人気ナンバーワン女優、バーグマンを迎えての第一作
が、バーグマンは(撮影中は怒らないと決めている)ヒッチさんに
納得いかないことは質問攻め、怒鳴りまくり、文句を言い放題
特に長回しのシーンはお気に召さなかったらしく
「カメラはわたしを追い回し、最初から最後まで喋りっぱなし、まるで悪夢だった」
と自伝「マイ・ストーリー」(1980)でも不満を告白しているそうです

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一方のヒッチさんも、どうしても成功させたいと意気込んでいただけに
不入りにも悪評にもがっかり
一番の失敗の原因をバーグマンの登用と語り
「バーグマンを手に入れて得意になったのが間違いで、思い上がっていた
この映画は出発点から虚飾の塊だった」と反省し
崇高な演技を使命と信じているバーグマンに「とても疲れた」たそうです

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あらすじは
1831年シドニー、フロンティアタウン
当時のオーストラリアはイギリス諸島から送られた
思想犯や過激派の元囚人でいっぱい

新しい知事 、リチャード卿( セシル・パーカー )を訪ねた
従兄弟のチャールズ( マイケル・ワイルディング )は
殺人罪の元囚人で、実業家のサム( ジョセフ・コットン )に
法的な土地売買を相談します

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夕食に招かれたチャールズは、強度の鬱でアルコール依存症
サムの妻ヘンリエッタイングリッド・バーグマン )が
アイルランドで共に過ごした幼馴染で、妹の親友なのに気づきます

サムは妻が元気になることを願い、チャールズに屋敷に留まってくれと頼みます
チャールズの励ましでヘンリエッタは自信と美しさを取り戻していきますが
ヘンリエッタに家事を奪われたのが気に喰わない家政婦のミリー
料理番を決めるのに、3人の汚れた女中に作らせた
不味そうな目玉焼きが出てくるシーンは面白い(笑)

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ヘンリエッタが再び鬱になるよう薬物入りのアルコールを飲ませ
チャールズとヘンリエッタの仲を意味深にサムに報告する
真夜中にサムはチャールズを追い出すますが、その馬が転倒で足を折り
サムは馬を撃とうとした銃でチャールズに大怪我を負わせてしまいます

サムは殺人未遂のため起訴され、二度目の有罪になれば死刑が決定
ヘンリエッタは、サムの最初の殺人罪ヘンリエッタの兄を射殺)で
兄を撃ったのは自分で、サムは罪を被っただけと告白します

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リチャード卿 は、サムが無実というヘンリエッタの主張を無視しますが
サムに対するヘンリエッタの真実の愛を知ったチャールズは
サムとは対立も、銃をめぐった闘争もなく
すべては事故だったと証言するのです

怪我が回復し、アイルランドに戻ることになったチャールズは
釈放されたサムと、元気になったヘンリエッタに別れを告げるのでした

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ヒッチさんの最悪作品と評され、バーグマンは相変わらずのオーバーアクトだけど
イギリス文学風な純愛ドラマとしては成立しているので
好きな人は好きな作風だと思います
ある意味価値のあるカルト映画かも(笑)

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カメラは名匠ジャック・カーディフ
劣化が激しいので、デジタルリマスター版などで見ることができれば
映像はかなり素晴らしいものになると想像できます
もしバーグマンが生きていて、現代の技術で修復された本作を見たら
機嫌も直るのではないでしょうか(笑)

 

 

【解説】映画.comより
サスペンス映画の神様アルフレッド・ヒッチコックが、イングリッド・バーグマン&ジョセフ・コットン主演で描いた時代劇ドラマ。イギリスの流刑地だった19世紀オーストラリア。かつて犯罪者としてこの地へ送られ、一代で財を築きあげた街の有力者フラスキーの元に、一攫千金を狙うイギリス総督の甥チャールズがやって来る。チャールズはフラスキーの妻ヘンリエッタが心を病んでいることを知り、彼女を救おうとするが……。

”Bebe'sカフェ”へようこそ

カリスマ映画ブロガーfpdさんの
「映画投票」第7弾「好きな映画ジャンル」
人気ジャンルトップ3予想
なんとなんと!
お菓子のプレゼントをいただきました!

 

西内花月
スターチーズケーキ

 

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スィーツ大好きfpdさんがセレクトしただけあって
チーズがふんわり香って、濃厚クリーミー
スティックタイプで食べやすい

ホイップとチェリーでトッピングして
カフェタイムはいかが

 

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アイスクリームとフルーツと一緒に
チーズケーキトライフル

 

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とっても美味しくいただきました
fpdさんありがとうございます

スターリンの葬送狂騒曲 (2017)

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原題は「THE DEATH OF STALIN」(スターリンの死)
アドルフ・ヒトラー(1889~1945)は、独裁者の代名詞のような人物で
映画も数えきれないほどありますが

スターリンや、ベリヤや、フルシチョフのことは意外と知らない
なので実話をもとにしたコメディと言われても
どこまでか真実なのか、パロディかわからず笑えない

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たぶん、ロシアで復活しているという
スターリン崇拝への警鈴として作られたとは思うのですが

むしろ、架空の国の架空の政治家のギャグにしたほうが
「これってスターリン?」
「ブシェミがフルシチョフなんてふざけてるー」
「首相のご機嫌取りや取り巻きって、今の内閣にもあてはまるね」
「もし首相が倒れたら、同じような醜い政権争いが起こるかも」
とかなんとか(笑)
イマジネーションが膨らんだような気がします

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1953年ソ連、情け容赦なく拷問や処刑や暗殺が行われた時代
スターリンの別荘では最高首脳たちによる宴会が行われ
下品なジョークが交わされていました

宴会の途中、モスクワ市内で行われていたモーツァルトのコンサート会場に
スターリンは電話して録音を届けるよう命令します
既にコンサートは終わっており、プロデューサーは演奏家や観客を呼び戻し
再び演奏をやり直してなんとか録音レコードが作成
ピアニストのマリアはレコードの包装にスターリン宛の手紙を忍ばせ
手紙を読んだスターリンは突然の発作に襲われ倒れてしまいます

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医者を呼ぼうにも、有能な医者は思想犯として処刑か投獄
年寄りか役立たずしか残っておらず、スターリンは意識を戻すことなく死亡

表向きは厳粛な国葬の準備を進めながら、側近たちは後継を巡って大騒ぎ
スターリンのお気に入りだけど無能なナンバー2、マレンコフ
閣僚たちの弱味を握り、マレンコフを操る警察官僚、ベリヤ
ベリヤを失脚させたい第一書記、フルシチョフ

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ベリアは人気取りのため、粛清対象として逮捕した囚人たちを釈放させ
モスクワの警備をソ連軍から管轄下にあるNKVDに交代
スターリンの葬儀では弾圧してきたロシア正教会の主教を招きます

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フルシチョフは葬儀を混乱させるため、べリアが停止させていた鉄道を発車させ
それにより地方から多くの群衆が葬儀に押し寄せ、揉みくちゃになり
現場を制御する事が出来ず150人もの死者が出てしまいます
フルシチョフはそれをNKVDの隊員が発砲したせいだとベリヤを追及します

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また漁色家であることが災いして、結局ベリヤが権力闘争に敗れ
(史実上では、べリアの自由化政策により東ベルリンで民主化デモが起こったため)
形ばかりの密室裁判で射殺され、死体はガソリンを掛けられ燃やされます

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べリアの死後、絶対権力を握ったのはフルシチョフ
しかし彼の先行きにもまた、暗雲が立ち込めていました

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本国ロシアでは、「歴史映画としても芸術映画としても価値がない」と
封切り3日前に上映が中止されたそうですが
(撮影をロシアで行わせたのは太っ腹 笑)
たとえば韓国で、東条英機を主役にしたコメディが制作されたら
日本政府も上映を中止するような気がします
(そう思うと、ドイツは太っ腹)

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でも、こういう作品を通じて若い世代も
スターリンや粛清を考えるきっかけにはいいかも知れません
実際私も、登場人物にもなっている当時のソ連の権力者たちを調べてみて
ベリヤの変態には興味もちました(そこか?)
やはり人間は、あまり長い間権力を握るものではないのです

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【解説】KINENOTEより
ソ連の独裁者スターリンの死をきっかけに巻き起こる後継者争いを、実力派キャストの共演でシニカルなユーモアたっぷりに綴ったコメディ。1953年3月2日。危篤に陥ったスターリンの後継者の座を狙う側近たちは、姑息で熾烈な頭脳戦を繰り広げるが……。出演は「靴職人と魔法のミシン」のスティーヴ・ブシェミ、「ターザン:REBORN」のサイモン・ラッセル・ビール、「マイ・ベスト・フレンド」のパディ・コンシダイン。「In the Loop」でアカデミー賞脚色賞候補になったアーマンド・イヌア

ロケットマン(2019)

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原題も「ROCKETMAN」(宇宙飛行士)
♪~Rocket man Burning out his fuse up here alone
ロケットマンのヒューズはここで孤独に燃え尽きる
♪~And I think it's gonna be a long long time
♪~'Til touchdown brings me 'round again to find
とても長い時間になると思うんだ 地球に戻ってくるまでは

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ボヘミアン・ラプソディ」(2018)の監督なので
ボヘミアン・ラプソディ」のようなライブ・パフォーマンスを
期待したなら肩透かし
エルトン・ジョン本人が制作総指揮に加わっているので
伝記映画かといえば、そうでもなく(笑)
曲の発表もライブも時系列はバラバラ、脚本はめちゃくちゃ

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これは歌手、エルトン・ジョンの歴史を語るというより
ゲイ、エルトン・ジョンの決して結ばれることのなかった片思いと
やっと掴めた幸せの物語

映画は更生施設にやってきたエルトン・ジョンタロン・エガートン)が
自分の身の上を語りだすところから始まります

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ジー(レジナルド・ドワイト=エルトンの本名)は
幼い頃から両親に拒絶されて育ちました
(ゲイであることを見抜かれていたと思われる)
しかし1度聞いただけの難しい曲でもコピーできる音楽の才能を持ち
唯一の味方である祖母の薦めで、11歳から王立音楽院でピアノ学びます

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母親の浮気がばれて両親は離婚しますが(通学路でカーセックスするか)
義父が意外にもいい人で、レジープレスリーのレコードをプレゼント
ジーはロックに影響を受け(ハゲの家系だからリーゼントOK 笑)
音楽院を卒業するとバンドを組み小さな店で演奏
ソウルミュージックのバックバンドとして活躍するようになります

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エルトン・ディーンの薦めで名前を変え(エルトンの名前をもらう)
オリジナル曲を作曲するようになり、音楽会社に売り込みに行きます
そこでエルトンを面接をしたプロデューサーのレイ・ウィリアムズは
詞を書けないというエルトンに、作詞家のバーニー・トーピンを紹介します
そのときエルトン20歳、バーニーは17歳、ふたりの天才の出会い

ゲイであるため、自分の思いをうまく言葉で表現できなかったエルトン
バーニーはそんなエルトンの気持ちを、見事な詞にしてしまうのです
だからバーニーの詞を読んだとたんに、エルトンはメロディーを思いつく

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しかも若い頃のバーニーはめっちゃ可愛いかったんですね
(今はマフィアのドンみたいな貫禄だが 笑)
そのころエルトンは女性と付き合っていましたが、バーニーにメロメロ
だけどバーニーはノンケ、エルトンはバーニーと親友として付き合い
仕事仲間として一緒に暮らします

最初のヒット曲は、みんな大好き「Your Song」(僕の歌は君の歌1970年)
♪~I hope you don't mind, I hope you don't mind that I put down in words
気に入ってくれるかな 、気持ちを込めたんだ
♪~How wonderful life is while you're in the world
君がいるだけでこの世界は何て素晴らしいんだろうって

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こんな詞贈られたらエルトンじゃなくてもマイっちゃうよね(笑)
エルトンは、バーニーも自分を愛してくれていると思い込み告白するわけだけど
「ゲイじゃない」とあっさりフラれて撃沈

それでもエルトンはバーニーのことが好きだったし
仕事上のパートナーとして数々のヒット曲を生みだしていきます
寂しさを紛らわすように、エルトンはドデカい眼鏡とド派手な衣装に身を包む

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そんなエルトンに目をつけたのが、ジョン・リードでした
ジョン・リードのセックスを本物の愛だと信じてしまう
彼にマネージャを頼み、何もかも彼に言われるまま
高級車に宝石の購入、豪邸でのパーティ、アルコールとコカインの過剰摂取
ついに身体も心も病んでしまい自殺未遂してしまう

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ジョン・リードとの関係を見かねたバーニーは
故郷の農場に戻って昔みたいにふたりで曲を作ろうと誘います
しかしエルトンは聞く耳をもたず、バーニーはひとりで田舎に帰ることにしました
「Goodbye Yellow Brick Road」(黄色いレンガ道)を叩きつけて
♪~You can’t plant me in your penthouse
♪~I’m going back to my plough
君は僕をペントハウスに植えることはできない
僕は自分の来た畑に帰るよ

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バーニーが去ってからは作曲も、ジョン・リードとの関係も上手くいかず
1975年にはジョン・リードとの愛人関係を解消
(横領が発覚する1998年までマネージャーは継続)
孤独だったエルトンは音楽エンジニアのドイツ人女性と結婚しますが
4年で離婚、ますますコカインに溺れていくのです

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そしてマディソン・スクエア・ガーデンのコンサートを控えたエルトンは
コカインのしすぎで鼻血を出し倒れ込んでしまい
ステージ衣装のままタクシーに乗り込み黄色いレンガ道を進むのです
(辿り着いたのは更生施設)

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そこからは
1988年、ゲイであることをカミングアウト
1990年、リハビリによりアルコールとドラッグから立ち直る
1993年、カナダ人映画製作者デービッド・ファーニッシュさんと知り合い交際
2005年、英国市民パートナーシップ制度が施行
2010年、代理母出産によりザカリーくん、2013年イライジャくん誕生
2014年、デービッド・ファーニッシュさんと同性婚
現在は家族4人、幸せに暮らしている

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この映画は音楽的な感動を訴えるというより
「最も偉大なシンガー」エルトンの成功の影にもこんな苦悩があり
「普通と違うことに悩んでいる」「生きづらくて苦しんでいる」
LGBTの人々にも「いつか幸せになるチャンスがくる」という
エールなのだと思います
大切なのは「自分で自分を愛すること」に気が付くこと

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それにしてもエルトンを演じたタロン・エガートン
「sing」のゴリラでもエルトンの「I'm Still Standing」を歌っていましたが
本当に歌も演技も上手いですね、アカデミー男優賞モノだと思います

そしてエルトンの幼年期を演じた子役がびっくりするくらい激似(笑)
エンドロール後の、本人と劇中の姿の比較写真が楽しめました

 

 

【解説】KINENOTEより
グラミー賞を5度受賞したミュージシャン、エルトン・ジョンの半生を綴った音楽伝記映画。両親から満足な愛情を得られずに少年時代を過ごしたエルトン・ジョンは、やがて人並外れた音楽の才能を開花させ、伝説的ロックミュージシャンへの道を駆け上がる。出演は「キングスマン」のタロン・エガートン、「リヴァプール、最後の恋」のジェイミー・ベル、「ジュラシック・ワールド/炎の王国」のブライス・ダラス・ハワード。監督は「ボヘミアン・ラプソディ」で製作総指揮を務めたデクスター・フレッチャー。

見知らぬ乗客(1951)

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原題も「STRANGERS ON A TRAIN」(電車で見知らぬ人)

タクシーから降りて歩く二人の足下を映すカメラワーク
ひとりは普通の皮靴、ひとりは派手な白黒のストレートチップ
それだけで二人の性格や生活ぶりを表す

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ライターやめがねなど小道具の扱い方の絶妙さ
アクシデント挿入のタイミングの巧みさ
テニスの試合の観客席でひとりだけ首を振らない観戦者
ヒッチさんの映画職人ぶりも随所に堪能できます

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原作は「太陽がいっぱい」で有名なパトリシア・ハイスミス
ここでも「誰もが犯罪者に成り得る」潜在的な犯罪への欲望
人間の善と悪の二面性が描かれています

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マチュアテニス選手のガイ(ファーリー・グレンジャー)は
偶然電車で乗り合わせたブルーノ(ロバート・ウォーカー)から
「奥さんを殺す代わりに私の父親を殺してくれませんか」と
交換殺人を持ち掛けられます

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ガイは悪い冗談だと思って聞き流し、途中駅のメトカブで下車します
そのとき恋人のアンからプレゼントで「A TO G」と刻まれた
特注のライターをブルーノに貸したまま忘れてしまいました

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メトカブで暮らす妻ミリアムは男遊びが絶えず
相手が誰かわからない子を妊娠していました
ガイとは離婚協議中でしたが、突然離婚を取りやめ
お腹の子をガイの子として産んで育てると言い出します
困ったガイは恋人のアンに電話して「離婚協議が長引きそうだ」と告げ
「妻を絞め殺してしまいたい」と漏らします

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ブルーノはバスに乗り、夜の遊園地へ向かっていました
2人の男とデートするガイの妻の後をつけて、湖の小島まで追いかけ
男と離れた隙に妻を絞殺、彼女のメガネを現場から持ち去るのです

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ヒッチさんは絶対「窒息プレイ」フェチですね(笑)
(そんなこと言ってるのオマエだけだ)
「ロープ」(1948)は絞殺がファースト・カット
「ダイヤルⅯを廻せ!」(1954)ではグレース・ケリーをねちっこく絞めつける
極めつけは「フレンジー」(1972)のネクタイを使った連続殺人(笑)

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そこからは、警察ガイが犯人と疑う~アリバイを証明できなければガイ逮捕
ブルーノに呼ばれたガイはメガネを見せられる~再び交換殺人を持ち掛けられる
ガイ、恋人のアンに相談に行く~アンの父親で代議士のモートン
メガネっ子の妹バーバラ(ヒッチコックの娘)がガイを気遣う

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犯行時間にガイと電車に乗り合わせた微分学の教授が見つかる
~酔っていてガイのことを覚えていない
モートン代議士のパーティ~ブルーノが現れご婦人たちと殺人談義
夫人に首絞のゼスチャー~アンの妹の眼鏡~夫人を絞め殺しそうになる
妹の証言~アンに「交換殺人」の話を打ち明けるガイ

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テニスの試合の日~ガイは殺人現場にブルーノより先に行くことを計画
対戦相手が強くフルセット~ブルーノが遊園地に到着~ライターを下水溝に落とす
ガイが試合に勝ち遊園地に急ぐ~警察が遊園地を警戒パトロール
ボート乗り場で順番待ちするブルーノ~係員がブルーノの顔を覚えている
(ライター置きに行くだけなのに、日没まで待つ意味は不明 笑)

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ガイとブルーノの回転木馬の中での乱闘
警官が回転木馬の操作係を誤って射殺(これはダメでしょ)
暴走する回転木馬~木馬から落ちそうになる子ども~助けるガイ
床下に潜るおじさん~ブレーキ~無残に潰れて停止する木馬

揉み合いと回転木馬の事故でブルーノ死亡
手に握られていたライターにより、ガイの無実が証明

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直接的に残酷なシーンを見せなくても、恐怖を煽る上品な演出はさすが
遊園地の力自慢のゲームでの腕力の誇示
子どもの風船を無意味に割ってみせる狂気
絞殺をメガネのレンズ越しに写す
真夜中に忍び込んだ屋敷の番犬、寝室での待ち伏せ
厳格な父親、母親の異常性(ルサンチマン
映画のお手本となるシーンを挙げれば、キリがない

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また原作は同性愛者ものなので
愛する気持ち→殺意、ペニスの代わりにナイフを突き立てる(町山氏解説)
そんな側面で最初から見るのも面白いかも知れません

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サスペンス要素は十分、遊び心もたっぷり
なによりデヴィッド・O・セルズニックとお別れして正解です(笑)

 


【解説】allcinemaより
 言葉を失うくらいの映像魔術に陶然とする、テーマ的にも手法的にもヒッチコックの絶頂を示すスリラーの傑作。開巻の視覚的な、二人の男の“接近遭遇”を示すショットの連なりからして、大胆で素晴らしい効果をあげている。「太陽がいっぱい」のP・ハイスミス原作の同性愛的ムードを底辺に漂わせ、ひたすら強烈な状況設定の鎖として映画を見せていくヒッチ演出。列車の中で、テニス選手のガイ(グレンジャー)は見知らぬ男に声をかけられる。その男ブルーノ(ウォーカー)は、ガイが悪妻ミリアム(エリオット)と別れたがって果たせないでいるのを知っていた。そして、一方的に、口うるさい自分の父との交換殺人を持ちかけ、勝手に計画を実行に移してしまう。ガイは国会議員モートンの娘アン(ローマン)と一緒になりたいと思っていた。確かに動機は存在するのだ。そして、ブルーノは列車内でくすねた彼のライターを“物証”として握っている。アリバイも怪しげで、ブルーノの脅迫にビクついていたガイはいよいよ警察に不信の目でみられるが……。有名な遊園地を舞台にした二つの殺害現場をクライマックスや、全員が首を左右に振って見入るテニスの試合でただブルーノの首だけが動かずガイを見つめている、といった何気ないショットの計算の確かさにも目をみはらされる。脚色家の筆頭に作家チャンドラーの名がみえるが、実際の所、何もしないに等しかったそうである。DVDはラスト・シーンの処理が異なるイギリス版を同時収録した「特別版」となっている。