不思議惑星キン・ザ・ザ(1986) デジタル・リマスター版

「あそこに自分は宇宙人だと言ってる人が居るんですけど」

原題は「Kin-dza-dza!

知る人ぞ知るシュールな脱力系SFコメディ

私はこういうしょうもないB級C級映画も好きなのですが(笑)

この奇妙な映画が国際的に高い評価を受けたのは

旧ソ連の厳しい検閲を通り抜けたという作り手の賢さ

ダネリヤ監督(反体制のグルジア人)の手腕を称えたもの

スタンリー・キューブリックへの崇拝が感じられますし

テリー・ギリアムであり

セルジオ・レオーネのような世界観もあります

宇宙船を開発する技術がありながら、誰もが貧しく

食料やエネルギーを手に入れるため平気で嘘をつく

にもかかわらず、人種差別による階級意識だけは厳格だという

祖国に対するアンチテーゼは

国や時代を越えても考えさせられるものがありました

1980年代、冬のモスクワ

妻にパンとマカロニを頼まれた建築家のウラジミールが

街へ買い出しに出かけると、ジョージア人の大学生のゲデバンから

「あのひとがヘンなこと言っています」と助けを求められます

その浮浪者のような男が、「自分の星に帰りたい」と懇願すると

男の話を信じられないウラジミールは

彼の言う「空間移動装置」のボタンを押してしまいます

次の瞬間、ウラジミールとゲデバンは砂漠のど真ん中に瞬間移動していました

 

ここはロシアのどこかの砂漠だと、街を求めてふたりが歩き始めると

謎の飛行物体に乗ったふたりの男が現れ「クー」のポーズ(笑)

これってどっちが元ネタかわからないですけど、北野武さんの「コマネチ」か

オレたちひょうきん族」の「パーデンネン」じゃないですか(笑)

(ロシアの映画界では北野武さんのファンが多いらしい)

今でもロシア人は、このポーズをマネすることがあるそうです

ウラジミールの高飛車な態度にふたりはさっさと去ってしまいますが

彼が煙草に火をつけたとたん速攻戻ってきます

ここはキン・ザ・ザ星雲にあるブリュクという惑星で

マッチ(火薬)1本が貴重なエネルギー(それだけで宇宙船を飛ばせる)

ブリュクではチャトル人とパッツ人という2つの人種に別れていて

パッツ人は鼻に鈴を付け、チャトル人の儀礼に従わなければなりません

識別器ではウラジミールもゲデバンもパッツ人

パッツ人のビーは格上のチャトル人のウエフに

「クー!」のポーズをとるよう命令します

もちろん従わないウラジミール

地球に戻るためには船を高速で移動させる加速装置が必要とわかり

そこからブリュク星人と、マッチ箱を持っているウラジミールとの

駆け引きが始まります

しかし「加速装置」の他に水と食料を手に入れようとしたウラジーミルは

商人に騙されマッチのほとんどを盗られてしまいます

激怒したビーとウエフはふたりを飛行船から降ろしますが

観覧車のような建物を見つけたふたりはそこで

パッツ人がチャトル人に芸を披露すると(檻の中でやるルール)

お金が手に入ることを知ります

ウラジーミルがゲデバンが持っていたバイオリンでロシアの流行歌を歌うと

なぜかブリュク星人たちは大絶賛

お金が入り気を良くしたビーとウエフは再びふたりを飛行船に乗せますが

飛行船は燃料切れで動かなくなり、4人は飛行船を押しながら

燃料を手に入れる場所を探します

さらに地球に帰るための加速装置と、地球の座標を調べるため

労働施設や劇場、天文装置のある都会(地下)を目指します

そこでは「PJ」と呼ばれる権力者が仕切っていました

チャトル人の上にはエツィロップという

ブリュク星の警察官であり権力者がいて、ステテコの色で見極められます

黄色が偉く、赤はもっと偉い

その最も階級の高い赤いステテコを履いているのが「PJ」

(階級が上ほど、さらにバカそうになるという喜劇)

こんな差別はないほうがいいと訴えるゲデバンに

ビーは「差別をなくしたら、上に上がるという目標が無くなるのでやめてくれ」

マッチが欲しい理由も「虐めたい」ため

裕福になって「土地を買い貧しい人たちを入植させる」と言うのです

夢や理想ではなく、結果から考えるという発想の転換

 

ブリュク星語の解説があるのも面白い(笑)

そうしてビーとウエフが逃げてしまったため

ウラジーミルは警察に通報、飛行船を捕まえることはできましたが

ビーとウエフが死刑判決を受けてしまいます

そこにモスクワで会った男が(靴下を貰ったお礼に)

ウラジーミルを助けにやって来ます

しかしウラジーミルはビーとウエフを見捨てることができず

男の誘いを断ってしまいます

ビーとウエフを助け出したウラジミールとゲデバンですが

地球へ向かう中間地点の(カーストで最上級の)惑星では

(植物になること(生産すること)が幸せ=真の共産主義世界)

カーストで最下位のブリュク星の)ビーとウエフをサボテンにしてしまいます

ウラジミールはビーとウエフを助けるため、時間を戻してもらうよう頼みます

 

そうしてビーとウエフは旅立つ前のブリュク星へ

ウラジミールは妻のいる家に帰ることができたのでした

再び街に買い物に出かけたウラジミールはゲデバンに再会

ブリュク星での記憶は失われていましたが

パトカーのライトを見た途端

ふたりは反射的に「クー」のポーズをしたのでした

 

面白いけど「パブロフの犬」の如き

意志と反して身体は従ってしまうという、これもまた皮肉なものです

 

 

【解説】映画.COMより

1986年、ソビエト連邦時代のジョージアグルジア)で製作され、当時のソ連で大ヒットを記録した脱力系SFコメディ。ある日、建築技師のマシコフは、「あそこに自分は異星人だという男たちがいる」と困った様子の学生ゲデバンに助けを求められる。異星人など信じられないマシコフが、その男たちが持っていた空間移動装置のボタンを押すと、次の瞬間、マシコフとゲデバンは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープしていた。そこでは何故か地球のマッチが超貴重品で、2人はマッチの価値を利用してなんとか地球へ帰ろうとするのだが……。日本でもカルト的人気を誇り、89年に都内の劇場で行われた「ソビエトSF映画祭」で初めて紹介された後、2001年にニュープリント版、16年8月にデジタルリマスター版で公開。21年5月にはアニメ版「クー!キン・ザ・ザ」の公開にあわせ、実写版の本作も4度目の劇場公開を果たす。

1986年製作/135分/ソ連
原題:Kin-dza-dza!
配給:パンドラ

 

リンダはチキンがたべたい!(2023)

原題は「Linda veut du poulet!

国際的に高い評価を受けたフランス・イタリア合作の

「アート系」アニメ-ジョン

素描に色を重ねただけという、カラフルでシンプルな作画スタイルですが

キャラクターが個々に色分けされているので

多人種を表すのにうまく機能して迷うことがありません

いかにもフランス風のスラップスティックコメディの中に

シングルマザーや移民が置かれている格差や

ゼネスト企業や組織単位ではなく全国レベルで団結して行うストライキ

という社会問題を背景に

モラルに欠けた理不尽な世の中で人々はどう助け合うべきなのか

さらに「記憶にない人間は存在するのか?」という

哲学的ともいえる問いかけが待っています

 

一般的な日本人と感性に比べて、相性がいいかというと難しいですけど

エリック・ロメールを好きな方とかにはおススメかも

バンリュー(フランスの移民や貧者が多い公営住宅地帯)の

団地に住む女の子リンダ(10歳くらい)は
父親はリンダが一歳の時、食事中に突然亡くなっていて

母親のポレットとふたり暮らし

父親の記憶はありませんが、父親が作ってくれた得意料理

「パプリカチキン」のことだけは覚えています

ある日、母親の大切な指輪がなくなり

親友のアネットの新しいベレー帽と交換したと疑いを掛けられたリンダは

叔母でヨガ講師をしているアストリッドに預けられます

アストリッドは(たぶん)ベジタリアンで自然回帰型の生活をしていて

リンダは彼女の家に泊まるのが堅苦しい(笑)

帰宅したポレットは、猫のゲーの中に指輪を発見

リンダが盗んだのは誤解だとわかり

お詫びに「パプリカ・チキン」を作ることを約束します

しかしその日はストライキでお店はどこも休み

日本人の親だったら、うまく子どもを言い包めると思うのですが

ポレットはたとえ相手が子どもであっても

ひとりの人間として人格を尊重しようとするんですね

それはいいとして

なんとポレットは養鶏所から生きている鶏を盗んで逃げます

だけど絞め方がわからない(笑)

姉のアストリッドに電話で助けを求めると

運転中の通話で警察に捕まってしまい

新人警察官のセルジュが怪しい音のするトランクを調べてみると

鶏が逃げ出してしまいます

リンダとポレットは鶏を追いかけ

イカを運ぶトラックの荷台に逃げ込みます

自転車でトラックを追いかける警察官(笑)

警察官に気付いた運転手のジャン=ミシェルがトラックを停めると

ジャン=ミシェル(鳥の羽根アレルギー)は荷台に隠れていたポレットに一目惚れ

母親のメメなら鶏を絞めれるかもとバンリューまで乗せていくと

メメはリンダの知り合いでした

だけどメメも鶏を絞め方は知らないという(父親の仕事だった)

そこで警察官はピストルで鶏を撃ち殺そうとしますが、当たらない

部屋を壊されたメメは気絶し

リンダと友人たちは鶏を追いかけ

メメの家具をめちゃくちゃにしてしまいます

やっと捕まえた鶏を地上めがけて窓から放り投げると

鶏は大木の枝に留まってしまう

地上からは子どもたちが、鶏を落とそうとあれもこれも投げつけ

リンダたちは見つけた釣り竿で鶏をひっかけようとします

警察官がポレットの手錠の鍵を飲み込んでしまっため

ジャン=ミシェルはポレットの手錠をバーナーで焼いて切る

どこにやってきたアストリッドが、警察官に木に登れと命令し

リンダの友人がパプリカを焼いているオーブンが煙を吹く

ついには機動隊まで出動すると

友人の幼い弟がトラックの荷台から投げ捨てたスイカ

サッカーボール如き宙を行き交う

世の中は理不尽で、大人(政治家)の言うことは辻褄があわない

それをアニメーションという「嘘」で表現する

 

でも大変なときここそ助けあわなきゃいけなし、許さなきゃならない

(鶏を盗まれたニート風なお兄ちゃんが一番マトモそうという 笑)

そして恋もしなくちゃいけない(笑)

リンダの頬に水漏れの雫が落ち、あたかも涙のように流れる

そのとき水が溢れた階上のリンダの部屋では

父親が猫を抱き、チキンのレシピ本を読んでいました

確かに父親は存在していて、リンダのことも母親ことも愛していたのです

結局誰が鶏を絞めたのかは、わからなかったのだけど(笑)

バンリューの広場で皆にパプリカチキンをふるまうジャン=ミシェル

でも得意なのはラザニアと打ち明けると

「ママがいちばん好きなのはラザニア」だと、リンダは教えます

木の上にいた警察官とアストリッドにはスイカが届けられ

警察官が本当は手品師になりたかったと告白すると

アストリッドは彼のパンツを「素敵」と褒めるのでした

 

みんな、幸せになあれ

問題はパプリカチキンがあまり美味しそうじゃないということ(笑)

劇場でレシピの載ったカード貰えます

 

 

【解説】映画.COMより

チキンをめぐって母娘が巻き起こす騒動と亡き父の記憶をカラフルな色づかいで描き、アヌシー国際アニメーション映画祭2023の長編アニメーション部門で最高賞にあたるクリスタル賞に輝いたアニメ映画。
とある郊外の公営団地に暮らす8歳の女の子リンダと母ポレット。ある日、母の勘違いで叱られてしまったリンダは、間違いを詫びる母に、亡き父の得意料理だった「パプリカ・チキン」を食べたいとお願いする。しかしその日はストライキで、街ではどの店も休業していた。チキンを求めて奔走する母娘は、警察官や運転手、団地の仲間たちも巻き込んで大騒動を繰り広げる。
監督・脚本を手がけたのは気鋭の映画作家キアラ・マルタと「大人のためのグリム童話 手をなくした少女」のアニメーション作家セバスチャン・ローデンバック。実生活では子を持つ夫婦である2人が、ユーモアといたずら心を織り交ぜながら詩的な表現で描き出す。

2023年製作/76分/G/フランス
原題:Linda veut du poulet!
配給:アスミック・エース

 

続・夕陽のガンマン 地獄の決斗(1967)4K復元版

原題は「Il buono, il brutto, il cattivo」(善玉、卑劣漢、悪玉)

邦題は「墓場の決斗」でよかったと思う

(夕陽が出てくるシーンもいっこもない 笑)

 

南北戦争の時代、墓地に隠された金貨を3人の男が奪いにいくという

至ってシンプルなストーリーですが

過去2作品に比べ予算も規模も大幅にアップ

1500人のエキストラに、60トンの爆薬を使用

伝説のクライマックス決闘シーンで使われた「サッドヒル墓地」も

映画のために作られたセットということ

3時間という長さにする必要はあったのかと思えば微妙ですが(笑)

それぞれのシーンは見ごたえあります

 

クリント・イーストウッドリー・ヴァン・クリーフ

イーライ・ウォラック演じるそれぞれの賞金稼ぎを

「善玉」「悪玉」「卑劣漢」と区別するニクイ演出ですが

イーストウッドとクリーフには、ほぼセリフさえありません(笑)

メインは泣いて笑って喧嘩して、ほぼウォラック

それがまたいい(笑)

冒頭、3人の賞金稼ぎが酒場に入るとひとりの男が店の窓を破って脱出

男の名前はテュコ(卑劣漢)

数々の悪事を積み重ねていて、2000ドルの賞金がかかっていました

 

次に黒い衣装に身を包んだ殺し屋が

荒野の一軒家にジャクソンという男を訪ねてきます

家の主人は殺し屋から家族を守るため

ジャクソンはビル・カーソンという名に変名していること

ジャクソンを探している依頼主の倍の金を払うから、依頼主を殺してくれと頼みます

殺し屋は構わないと金を受け取ると、主人とその息子を射殺

主人からの依頼通り雇い主も殺し

20万ドルを持ち逃げしたというビル・カーソンを探しに行きます

殺し屋の名前はエンジェル(悪玉)

金髪で長身のガンマンに捕まったテュコ

金髪の男は賞金を受け取り、テュコは縛首の縄を付けられますが

吊るされる寸前、金髪は狙撃で縄を切断

ふたりは2000ドルを山分けします

男の名前はブロンディ(善玉)

しかしブロンディはテュコの賞金が3000ドルを上回らないことに見限りをつけ

彼を町から100キロ以上離れた荒野に置き去りにします

荒野を脱出しものの、テュコの怒りは凄まじく

すぐさま銃砲店を目指します

 

この銃砲店の店主が、赤ら顔でまたいい顔をしているんですよね(笑)

テュコが選んだのはコルトM1851ネ−ビ−のコンバ−ジョンモデルという

部品が分解出来て、シリンダ−と銃身をそれぞれ選び組み立てるもの

その様子を見て得意げな表情を見せる店主

だけどテュコに銃は奪われ、売上金まで持っていかれます(笑)

そうしてブロンディを追うテュコ

その頃ブロンディは違う相棒を見つけ

同じく縛首の縄を切って賞金を稼いでいましたが

テュコに銃を突き付けられている間に相棒はお陀仏

ブロンディは水も帽子もないまま、灼熱の砂漠を歩かされます

一方、ビル・カーソンの愛人マリアを見つけたエンジェルは

ビル・カーソンが南軍に参加したことを聞き出し

さらに情報屋の負傷兵からビル・カーソンの所属する部隊と

彼が独眼だと教えられます

ついに火傷と脱水で倒れてしまうブロンディ

そこに暴走する荷馬車が現われ、テュコは馬を停めると

死んだ南軍兵士から貴重品を奪います

すると瀕死の独眼の兵士が「水をくれ」と

水をくれたら20万ドルの金貨のありかを教えるというのです

教えたら水を飲ませるというテュコ

男は「サッドヒル墓地」と答えますが、そこは5000以上墓標がある巨大な墓地

どの墓標に金が隠したのか聞き出そうにも男は今にも死にそう

慌てて水を取りに行き、戻った時に男は死に傍らにはブロンディの姿

墓標の名前はブロンディが聞いていました

テュコは「死ぬな、死ぬなよ」とブロンディを馬車に乗せ

南軍兵のふりをして(ビル・カーソンの軍服と身分証明書を盗む)

負傷兵を治療している教会に向かいます

僧侶のベッドを奪い、特別扱いでブロンディを療養させる

この教会のパブロ・ラミレス神父は、テュコの兄だったのです

兄は犯罪者になった弟に冷たい

しかも9年間実家に帰らず、その間に両親は死んでしまったと

だけどテュコは貧しい一家で、優秀な兄は神学校へ

残された自分は家族を養うため泥棒になったと兄を責めます

 

ブロンディが回復し、テュコが教会を後にしたとき

兄は弟を思って泣き

テュコは、いかに兄さんが歓迎しててくれて

もてなしてくれたかをブロンディに話します

何も言わず、微笑むだけのブロンディの粋さよ

 

が、埃にまみれた北軍の軍服を南軍と勘違い

北軍の捕虜となってしまったテュコとブロンディ

しかも収容所には軍曹になったエンジェルがいました

収容所の責任者ハーパー大尉(重度の壊疽で歩けない)は

捕虜の拷問を禁止していましたが

エンジェルはビル・カーソンを名乗るテュコを食事に誘うと

(音楽隊の演奏で大尉にバレないよう)部下のウォレス伍長に拷問させ

金の隠し場所が「サッドヒル墓地」で

墓標の名前を知っているのはブロンディだと聞き出します

そこでエンジェルはブロンディと組むことにし

テュコはウォレス伍長に手錠で繋がれ(裁判を受けるため)列車に乗せられます

そこでテュコはウォレス伍長ともども列車から飛び降り、ウォレス伍長は死に

手錠の鎖を線路に置き、次の列車で鎖を切ることに成功します

そこから北軍の砲撃された町に到着すると風呂を発見

あれもこれも石鹸を入れて(笑)バブルバスに浸かっている頃

 

エンジェルとブロンディも町に到着していて

テュコを見つけたエンジェルの部下が襲撃してきますが

テュコは風呂の中に隠していた銃で反撃します(かっこいい)

テュコが生きていることを確信した(銃声で誰が撃ったかわかる)ブロンディは

エンジェルのもとを去り、再びテュコとペアを組みます

しかし「サッドヒル墓地」に向かうには、北軍と南軍が激戦している

「ラングストーン橋」を渡らなければなりません

 

テュコとブロンディは北軍に志願兵だと嘘をつき

(常に酒を飲み酔っぱらってる)クリントン大尉から

「ラングストーン橋」を守れという命令のせいで、多くの人命を奪ってる

両軍が無駄な戦いをやめる解決策はこの橋を破壊すること

でもそうすると反逆罪になってしまうと教えられます

橋の向こう側に行きたいテュコとブロンディ

しかし橋を渡ったら南軍に殺されてしまう

そこでふたりは北軍からダイナマイトを盗み橋仕掛け

南軍が責めてきたときに爆破する計画を立てます

そして爆破や戦闘に巻き込まれてどちらかが死んだときに備えて

テュコは「サッドヒル墓地」という場所を

ブロンディは「アーチ・スタントン」という名前を告白します

 

橋の爆破は成功し、両軍は戦場を放棄

ふたりは(致命傷を負った)大尉に別れを告げますが

トゥコはブロンディを裏切り、南軍の馬を盗むとひとり墓地に急行

ついに「アーチ・スタントン」の墓を見つけ、素手で掘りはじめます

そこにスコップが投げ出され、振り向くと

「このほうが早い」と銃を構えるブロンディの姿

 

さらにもう一本スコップが投げ出され

「ふたりのほうがもっと早い」とエンジェル

しかし「アーチ・スタントン」の墓には遺骨しかなく

ブロンディは石を拾い、そこに本当の名前を書くと言います

決闘で勝ったものがその名前を知ることができる

 

三つ巴でにらみ合いのなか

ブロンディの銃口が火を吹き、墓穴の中に倒れるエンジェル

テュコのリボルバーからは弾丸を抜かれ

しかも石には何も書かれていない

ブロンディに踊らされていたことに気付くテュコ

金の在りかは(「アーチ・スタントン」の隣の)「名無し」の墓

だから石にも名前がないのさと

テュコの首に縄をかけると、墓標の上に立たせるブロンディ

半分の金貨を馬に乗せ立ち去ります

 

ついにテュコの首が吊られようとしたとき

遠くから銃弾でテュコの縄を切るブロンディ

墓場を走り回り「おまえは善玉じゃねえ」とブロンディ罵るテュコ

ごもっともでございます

あんたら全員悪玉だから(笑)

 

【解説】映画.COMより

名匠セルジオ・レオーネクリント・イーストウッドが「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」に続いてタッグを組み、3人の流れ者が大金を巡って繰り広げる熾烈な争奪戦を描いた大作マカロニ・ウェスタン
南北戦争末期のアメリカ西部。“善玉”ブロンディと“卑劣漢”テュコはコンビを組み、詐欺まがいの手口で賞金を荒稼ぎしていた。ある日、彼らは瀕死に陥った兵士から、巷で噂されていた20万ドルの金貨の隠し場所を聞く。ブロンディとテュコは互いを出し抜く機会を狙いながら大金の行方を追うが、そこへ以前からその大金を探していた“悪玉”エンジェルも加わり、三つどもえの戦いが幕を開ける。
ブロンディをイーストウッド、エンジェルを「夕陽のガンマン」のリー・バン・クリーフ、テュコを「荒野の七人」のイーライ・ウォラックがそれぞれ演じた。エンニオ・モリコーネによる音楽も印象を残した。

1967年製作/178分/イタリア・スペイン・西ドイツ合作
原題:I due magnifici straccioni
配給:アーク・フィルムズ

 

 

夕陽のガンマン(1965)4K復元版

原題は「Per qualche dollaro in piùもう数ドルのために

セルジオ・レオーネ監督作品の中で、本作が一番好き

というオールドファンも多いのではないでしょうか

顔のクローズアップを多用し、目で演技させる巧みな演出

イタリア映画の伝統を感じさせるネオレアリズモに

緻密に考えられたファッション

衣装デザインは舞台美術も兼ねているカルロ・シミ

レオーネは彼をよほど気に入ったのか

同じ衣装とセットを使いまわし(笑)

 エル・パソ銀行の支店長として出演させ

プロデューサーのアルベルト・グリマルディために設計した別荘は

レオーネの終の棲家となります

実質的な主人公は賞金稼ぎのモーティマー大佐を演じる

リー・ヴァン・クリーフ

冒頭からクールな立ち振る舞いに痺れます

遅れてやって来たクリント・イーストウッド

あだ名はモンコ(Manco)スペイン語で「片腕」

銃を撃つときと馬に乗るとき以外決して右腕を使わない

「荒野の用心棒」の続編を思わせるシークエンス

小僧に駄賃をねだられ、宿屋の女将は色目を使う

登場人物たちに直接的なセリフはあまりありません

雰囲気だけで魅せてくれます

帽子の撃ち合いで射撃の腕を見せつけあう

モーティマー大佐のほうが上をいくっていうのがまたいい(笑)

 

ふたりは賞金頭のインディオ(ジャン・マリア・ボロンテ)を捕えるため

協力することになります

刑務所を脱走したインディオは、ムショで同室だった元家具屋の男から

エルパソの隠し金庫の場所を聞いていて、襲撃に備えることにします

しかし自由の身になったにもかかわらず、インディオの目は虚ろ

手にはいつもオルゴール時計が握りしめられていました

モーティマー大佐は銀行襲撃の情報を聞き出すため

モンコにインディオ一味に潜入するよう命じ

モンコはインディオの親友をムショから脱出させると

インディオの仲間に入ることに成功します

インディオの計画は、まずエルパソとは別の銀行を襲い

保安官や自警団たちがそちらに向かった隙に

エルパソの銀行から金庫を盗もうというもので

4人の手下とともにモンコを別の銀行の襲撃に行かせます

途中で手下を倒したモンコは無線所のじいさんに

「銀行が襲われた」と嘘の無線を流させます

保安官たちが銀行に向かうと、インディオ一味はエルパソに向かいます

そこではモーティマー大佐が待機していました

 

しかしインディオのほうが一枚上手

入り口から入り銃を突きつけて金を奪う方法ではでなく

ダイナマイトで壁をぶっ壊し、隠し金庫ごと奪ったのでした

モーティマー大佐はモンコにリオグランデの北に一味を誘い込み

挟み撃ちにしようと持ちかけますが

モンコはインディオにモーティマー大佐と待ち合わせたのとは逆の方向を伝え

インディオは「ならば東だ」と砦に向かいます

 

そこで待っていたのはモーティマー大佐でした

裏の裏の裏をかく面白さ

モーティマー大佐は、ダイナマイトで吹っ飛ばしたら紙幣も灰になる

自分なら金庫を開けれるとインディオに持ち掛け、見事金を取り出します

インディオは分け前は後払いだとし

その夜宴が始まると、モンコは酔いつぶれたふりをして金を隠した小屋に行くと

そこにいたのはモーティマー大佐でした

モーティマー大佐はモンコに金を持って逃げるよう言いますが

インディオは最初からふたりが賞金稼ぎだと気付いていました

ふたりは一味に捕りリンチされます

しかしインディオの側近が銃を与えふたりを逃がします

インディオはふたりが部下たちと殺し合いになれば

分け前が増えると計算したのです

インディオの計画通りモンコとモーティマー大佐は部下たちを皆殺しにしますが

金はすでにモーティマー大佐が別の場所に隠していました

モーティマー大佐との決闘に挑むインディオ

銃を抜くのは時計のオルゴールが鳴りやんだ時

そして、なぜインディオが虚無感露わだったのか

オルゴール時計を大切に身に着けていたのかがわかります

 

インディオはかって夫のある女性に横恋慕していました

その女性を手に入れるため、夫を殺し屈辱しようとすると

女性はインディオの銃で自殺してしまったのです

その女性こそモーティマー大佐の妹でした

良家に育った軍隊の英雄が、賞金稼ぎになったのもインディオを殺すため

妹の復讐をするためだったのです

時計のメロディが鳴り止むと同時に、もうひとつの時計のメロディ

モーティマー大佐の時計を持ったモンコが現れます

クライマックスでも決して焦りは見せない

遠景を巧みに織り込んだ、ダイナミックで余裕の長回し

この脳裏に焼き付くようなワンシーンワンシーンを決して忘れない

役目を果たし去っていくモーティマー大佐

ひとり馬車の荷台に死体を担ぎ込むモンコ

勘定が足りないことに気付くと、死にきれてなかった奴がひとり

男を倒すと「これで計算があう」と馬車を走らせたのでした



 

【解説】映画.COMより

「荒野の用心棒」で世界中に“マカロニ・ウエスタン”ブームを巻き起こしたセルジオ・レオーネ監督と主演のクリント・イーストウッド、音楽のエンニオ・モリコーネが再結集し、2人の賞金稼ぎの共闘と友情をスタイリッシュに活写した西部劇アクション。
凶悪犯エル・インディオが刑務所から脱獄し、1万ドルの賞金が懸けられた。インディオ一味を追う若き賞金稼ぎ・モンコと商売敵のモーティマー大佐は、一味全員の賞金を山分けすることを条件に手を組むことに。2人は反発し合いながらも次第に絆を深め、インディオを追い詰めていくが、大佐にはある別の目的があった。
「真昼の決闘」のリー・バン・クリーフがモーティマー大佐を存在感たっぷりに演じた。同じくレオーネ監督とイーストウッドモリコーネがタッグを組んだ「荒野の用心棒」「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」とあわせて「ドル3部作」と呼ばれる。1966年製作/132分/イタリア・スペイン・西ドイツ合作
原題:Per qualche dollaro in meno
配給:アーク・フィルムズ

 

荒野の用心棒(1964)4K復元版

原題は「Per un pugno di dollari」(一握りのドルのために)

ドル3部作の4K復元版が公開され

劇場で見れる日がくるとは夢にも思いませんでした

本当に素晴らしかったです

セルジオ・レオーネがまだ無名の頃

イタリアで公開された黒澤明用心棒(1961)に感銘を受け

西部劇に作り変えようとしたのが発端ということですが

当時はイタリア人監督が日本の時代劇をスペインで撮影するという発想を

誰も信じなかったため(笑)

東宝はレオーネが申請したリメイク権許可依頼を無視

のちの映画のヒットにより著作権侵害だと告訴し

(リメイク権の依頼があったことは裁判中に判明)

荒野の用心棒の製作会社は東宝謝罪、10万ドルの賠償金

アジアにおける配給権配給収入の15%を東宝支払うことになります

一方、海外での映画著作者の報酬を知った黒澤は東宝を信じられなくなり

契約解除し海外進出を決意したそうです

裏目に出て「トラ!トラ!トラ!」を降板させられる)

ストーリーはクロサワ版とほぼ同じ

ひとりの風来坊が仕事を探しにやって来た町で

町を牛耳るふたつの一家がお互い敵対しているというもの

低予算のため、ハリウッドスターの高額なギャラが払えず

目をつけられたのが、テレビ西部劇「ローハイド」でブレイクした

クリント・イーストウッド

当時イーストウッドは「ローハイド」の番組制作側との契約で

ハリウッド映画に主演することができなかったため

半ば観光気分で海外での撮影を承諾したそうです

クロサワ版、レオーネ版どちらも傑作で

勝敗を決めるのは不可能なのですが

音楽はエンニオ・モリコーネの勝ち

(片手間に作った曲がまさかの名曲 笑)

「さすらいの口笛」が流れた瞬間鳥肌モノ

オープニングからワクワクが止まりません

そこから名無しの男(クリント・イーストウッド)がラバに乗って

サンミゲルという町にやってくる

木の枝には首吊りの縄

男が井戸の水を飲んでいると、幼い少年が建物に入っていく

しかし少年は無法者の男たちに追い出され父親ともども銃で脅されます

閉じ込められている女が窓から父子を見つめている

棺桶屋のじいさんが新しい棺桶が必要だと目論んでいる間に

男はちょっかいを出してきた無法者3人を早撃ちで瞬殺します

 

宿屋の親父シルバニトから

この町ではドン・バクスター(武器商人で資産家、町の保安官)と

ドン・ミゲル(酒の密売などで儲けているやくざ)が対立をしていて

すぐに町から出て行くよう言いますが

名無しの男が殺した3人の無法者はバクスターの手下で

男の銃の腕に惚れ込んだミゲルは男を100ドルで雇います

ミゲルには、ライフルの腕の立つラモンという息子がいて
ラモンはアメリカの騎兵隊との取引で、金を騙し取ったうえ機関銃で射殺し

メキシコ兵の仕業だと見せかけたためそれを偶然男が目撃していた)
町に警察(軍隊)が調査に来ることになります

ミゲルは、(治安のいい町見せかけるため)敵対するバクスター

一時休戦を申し出て夕食に招くことにします

 

同じ夜、男とシルバニトは

(ラモンらに虐殺された)騎兵隊の死体を町外れの墓地まで運び

あたかも生きているように墓標に立てかけます

それから男はバクスターにラモンの悪行を明かし対立を煽ると

両家は銃撃戦となり、バクスターの息子アントニオがミゲル一家に拉致され

 

男がラモンが騎兵隊から奪った金を探していたところに

ラモンの愛人マリソルがやって来て、誤って殴り倒してしまいます

男はマリソルをバクスター家に運び、バクスター夫人から謝礼を貰います

マリソルとアントニオの人質交換が行われることになると

再びそこに現れた幼い少年とマリソルの夫

我慢しきれず息子を抱きしめてしまうマリソルでしたが

男は夫にマリソルから離れるよう注意します

その夜ミゲル家で宴会が行われ、男は浴びるように酒を飲むと

酔いつぶれたふりをして寝床を抜け出し

マリソルを夫と息子のところ連れ出し「国境を越えるよう」

バクスター夫人から受け取った金を渡すのでした

そこまでしてくれる理由は何かと訪ねられ

男は昔知っていた女性を思い出したとだけ答える

(「瞼の母」だろうか)

しかしマリソルを逃がしたことはすぐにバレ

男はラモン一味にリンチされ利き手を踏みつぶされてしまいます

隙を見て脱出したところを棺桶屋に助けられますが

ラモンはバクスターの屋敷に灯油をぶちまけ放火

降伏するバクスター一家を皆殺しにします

その様子を棺桶の中から見つめる男

棺桶屋は男を鍛冶屋の跡地?のような場所に匿い

男は傷の回復を待ち(利き手でないほうで)早撃ちの訓練と

板金に精を出します

棺桶屋からシルバニトがラモンに捕まったことを教えられた男は

拷問を受け吊るされているシルバニトを助けにいきます

そこでラモンにライフルで心臓に命中させてみろと挑発する

何度撃たれて倒れても立ち上がる男

ラモンが弾切れになったとき

男は板金で作った防弾チョッキを着ていたことを種明かし

ミゲル一家を全滅させると、町を去っていくのでした

 

大急ぎで大勢の死体の寸法を図る棺桶屋おじさん

だけどどっちの親分も死んでしまって、棺桶代は誰が払うの?(笑)

延々と長ったらしいエンドクレジットや

ラストに余計な「おまけ」がないのも、余韻に浸れてよかったです

 

 

【解説】映画.COMより

イタリアのセルジオ・レオーネ監督が、黒澤明監督の傑作時代劇「用心棒」を西部劇としてリメイクした名作アクション。イタリアのみならず世界中で大ヒットを記録し、イタリア製西部劇“マカロニ・ウエスタン”のジャンルを確立した一作として知られる。
メキシコ国境に近いアメリカの小さな町に現れた流れ者のガンマン。ジョーと名乗るその男は、この町では悪徳保安官バクスターと悪党ロホ兄弟の2大勢力が対立していることを知り、彼らを争わせて共倒れさせようと画策する。
当時アメリカの西部劇テレビドラマ「ローハイド」で人気を集めていたクリント・イーストウッドが主人公のガンマンをクールな魅力で演じ、彼の名が世界的に知れ渡るきっかけとなった。エンニオ・モリコーネが音楽を担当。同じくレオーネ監督と主演のイーストウッド、音楽のモリコーネがタッグを組んだ「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」とあわせて「ドル3部作」と呼ばれる。

1964年製作/99分/イタリア・スペイン・西ドイツ合作
原題:Il magnifico straniero
配給:アーク・フィルムズ

 

オッペンハイマー(2023)

「物理学300年の成果が大量破壊兵器か?」

「ノーベルもダイナマイトを発明した」

 

原題は「Oppenheimer」

原作はピュリッツァー賞受賞の

オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇」

(American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer)

第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞

編集賞、撮影賞、作曲賞の主要7部門受賞

クリストファー・ノーランはインタビューで

子どもの頃聞いたスティングの「ラシアンズ」(Russians)で

オッペンハイマーを知り興味を持ったと答えていましたが

 

「ラシアンズ」聞いたほうがよほど「反戦」「反核」の

メッセージがありますね(笑)

つまり映画のテーマは「反戦」「反核」ではない

当時のユダヤ人科学者の置かれていた立場や

戦後、ジョセフ・マッカーシーが強行した「赤狩り」により

オッペンハイマー共産党員でソ連に機密情報を流したという疑惑

オッペンハイマー事件」を軸に描いているんですね

 

オッペンハイマーアインシュタイン

ドイツからのユダヤ系移民であったこと

同時期ハリウッドでマッカーシー赤狩りに協力したのは

ウォルト・ディズニーエリア・カザンロナルド・レーガン

ゲイリー・クーパーロバート・テイラーが有名ですが

ディズニーが熱烈な右翼として成功したのに対し

カザンは仲間を売ったという十字架を生涯背負うことになります

 

これらの背景が、アカデミー賞受賞の大きな要因になったとのではないかと

個人的には思っています

作風はいかにもクリストファー・ノーランらしく(笑)

時系列はバラバラ、現実と幻影が入り混じりながら展開していきます

 

物語は大きく、オッペンハイマーの目線(カラー)と

米国原子力委員会(AEC)のルイス・ストローズの目線(白黒)にわかれていて

 

ノーランファンにとっては面白い構成かも知れませんが

どこまで史実に基づいているのか、伝記ものとしても

非常にわかりにいのが正直なところ(笑)

1947年、ストローズはアインシュタインらを擁している

プリンストン高等研究所所長にオッペンハイマーを任命します

そこでオッペンハイマーアインシュタインに話しかけた後

アインシュタインはストローズを無視します

 

ストローズはオッペンハイマーアインシュタイン

自分の悪口を言ったのだと

さらにオッペンハイマーの特有の嫌味を含んだジョークに

自分が小ばかにされたと思い込んでしまう

それは単なる勘違いなのですが、そのことを根に持ち一生忘れない

面倒くさい男だったのです(笑)

ロスアラモス国立研究所の初代所長になったオッペンハイマー

ナチス・ドイツとの核エネルギーの開発を競争するための研究チームを結成

核エネルギーを利用した原爆の開発を進めますが

 

ヒトラーが自殺しドイツが降伏

これでドイツに原爆を投下しなくて済むと、安堵する科学者たちもいたわけですが

「日本がある」とオッペンハイマー

 

3年の歳月と22億ドルの予算が注ぎ込まれた国家プロジェクト

原爆で日本を降伏させる、原爆こそが戦争を終わらせるという名義のもと

原爆を完成させ、人類初の核実験トリニティは成功

広島と長崎への原爆投下が成功すると、研究所は歓喜に湧きます

タイムズ紙で「原爆の父」と称えられ

英雄として賞賛されるようになったオッペンハイマー

 

しかしエドワード・テラーの予言通り爆発は大気引火し破壊力を増し

直接爆破の被害に遭わなかった人々も、後遺症で死亡していくことがわかり

実際の死者の数はオッペンハイマーの計算を遥かに上回っていたことを

後になってから知らされるのです

(計算は得意だが、実験(現実)に弱いことが伏線になっている)

トルーマン大統領からホワイトハウスに呼ばれたオッペンハイマー

「自分の手が血塗られているように感じます」と語ると

大統領は彼を「泣き虫」と罵ったのでした

 

戦後、冷戦下に陥ったアメリカはソ連核兵器競争となり

(日本への原爆投下で)人道的影響から、倫理観に目ざめたオッペンハイマー

(そういいながら、現実は来日した際も広島と長崎には訪れなかった)

 

1954年になると、ストローズはオッペンハイマーの影響力を排除するため

AECの保安公聴会に働きかけ、米国エネルギー省(DOE)への機密保持許可

(国家安全保障情報、機密データにアクセスするためのセキュリティ)を

オッペンハイマーから取り消すための工作に成功するのです

(事実上の公職からの追放)

 

ロバート・オッペンハイマーキリアン・マーフィー)

22 歳のとき理論物理学の博士課程学生としてケンブリッジ大に留学

量子物理学の研究で計算は得意だが、実験は失敗ばかりでした

博士号取得後はカリフォルニア大バークレー校とカリフォルニア工科大で教鞭をとる

ロスアラモス国立研究所の初代所長に任命され

世界で初原子爆弾を開発に成功する

1965年、咽頭がんとわかり1967年62歳没

 

ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・ジュニア)

戦後の核兵器開発、核エネルギー政策における主要人物でAECの委員長

両親はドイツとオーストリアからのユダヤ人移民で

靴のセールスマンからフーバー長官の腹心にまで昇進した叩き上げ

共産主義者

オッペンハイマーに馬鹿にされたと思い込んでいて復讐する



レスリー・グローブス(マット・デイモン

アメリカ陸軍工兵隊(USACE)士官マンハッタン計画の責任者

日本への原爆投下のスケジュールを立てた張本人

「(広島と長崎への)2発だけ」は史実と違い

実際には17基にも及ぶ原爆の投下が計画されていた

 

キャサリン・「キティ」・オッペンハイマーエミリー・ブラント

生物学者、元共産党員、オッペンハイマーの妻

オッペンハイマーと知り合った時は既婚だったが

オッペンハイマーの子を妊娠して夫と離婚する

 

ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)

精神科医英語文献学者

オッペンハイマーの元恋人でオッペンハイマーが結婚後も関係を続けていた

共産党員でFBIの監視下に置かれいて、1944年自殺(署名のない遺書)

検死で薬物(抱水クロラール)が見つかったことから暗殺という説もある

 

フランク・オッペンハイマーディラン・アーノルド

オッペンハイマーの弟で素粒子物理学

妻ジャッキー(エマ・デュモント)と共に元共産党

キティが育児ノイローゼになったときオッペンハイマーの息子を預かる

オッペンハイマーの推薦によりマンハッタン計画に携わる

 

アーネスト・ローレンス(ジョシュ・ハートネット

ノーベル賞受賞(1939)した核物理学者で

カリフォルニア学バークレー校でオッペンハイマーと知り合う

カルトロン加速器=ウランの濃縮装置)を開発し

広島に投下された原爆(リトルボーイの濃縮ウラン235を製造

カルトロンの改良に力を注いだ一方、カラーテレビの真空管なども開発

潰瘍性大腸炎アテローム動脈硬化により195857歳没

 

ボリス・パッシュ(ケイシー・アフレック

アメリカ陸軍の情報将校、アルソスミッション

(敵国の科学的発展を発見するための軍人や科学者による組織)のトップ

ソ連出身で父親はロシア正教会の神父(当時アメリカとソ連は同盟国)

 

デイビッド・ローレンスヒルラミ・マレック

核物理学者トルーマン大統領に原爆使用前に日本に警告するよう

(シラードの嘆願書)求めた科学者のひとり

彼の公聴会での「オッペンハイマーの失脚はストローズの個人的な動機」

という評言により、上院はストローズの米国商務長官指名を否決した

 

【右】ニールス・ボーアケネス・ブラナー

【左】パトリック・ブラケット(ジェームズ・ダーシー

ニールス・ボーア

ノーベル賞を受賞1922したデンマークの物理学者哲学者

オッペンハイマーが尊敬している

 

パトリック・ブラケット

物理学者でケンブリッジ大教授、ノーベル賞受賞者(1948)

オッペンハイマーが実験に失敗したことで講義を受けさせず

オッペンハイマーは彼のリンゴに注射で青酸カリを盛る(未遂に終わる)

 

エドワード・テラーベニー・サフディ

「水爆の父」として知られる理論物理学

アメリカに亡命したハンガリー生まれユダヤ

マンハッタン計画に参加し、核分裂だけの原子爆弾から

核融合を用いた水素爆弾へ発展させるべきだと主張しオッペンハイマーと対立

公聴会オッペンハイマーを非難する

 

 ケネス・ニコルズ(デイン・デハーン

マンハッタン計画の安全監督

 

ヴェルナー・ハイゼンベルク(マティアス・シュバイクホファー)

ノーベル賞受賞(1932)ドイツの理論物理学

ヴェルナーの知識がナチスによる原爆製造の解明に役立つと

オッペンハイマーは信じている

 

リリー・ホーニグ(オリヴィア・サールビー

マンハッタン計画に携わった唯一の女性

 

イシドール・アイザック・ラビ (デヴィッド・クラムホルツ)

ノーベル賞受賞物理学者(1944)

赤ん坊のときアメリカに移住したポーランドユダヤ

マンハッタン計画コンサルタント

オッペンハイマーと共にプロジェクトに取り組む

 

ヘンリー・スティムソンジェームズ・レマー

陸軍長官、原爆投下で京都を候補地から外すよう命じる

(新婚旅行先の思い出の地で美しい街でだったから)

 

ハリー・S・トルーマンゲイリー・オールドマン

第33代アメリカ合衆国大統領

1945年8月に広島と長崎に原子爆弾を投下する決断を下した

 

ロジャー・ロジェイソン・クラーク

保安公聴会での特別検察官

オッペンハイマーと他の証人に対し、共産主義者との関係について尋問し

2 1 オッペンハイマーの機密保持許可を剥奪することを理事会が可決

 

ウィリアム・L・ボーデン(デヴィッド・ダストマルチャン)

米国議会原子力エネルギー合同委員会(JCAE)の事務局長

公聴会でFBI宛にオッペンハイマーソ連のスパイだと告発した

手紙を書いたことを明かした

マッカーシズム共産党と思われる人物に弾圧迫害をする

 

ゴードン・グレイ(トニー・ゴールドウィン

トールマンとアイゼンハワー政権の弁護士で政府高官

(ストローズが任命した)公聴会の委員長

オッペンハイマーの機密保持許可の取り消しを決定する

 

ストローズの側近で上院補佐官(オールデン・エアエンライク

 

ロイド・K・ギャリソン(メイコン・ブレア)

オッペンハイマー代理人を務めた弁護士

 

アルバート・アインシュタイントム・コンティ

相対性理論で知られる理論物理学者、ノーベル賞受賞(1921

ドイツ生まれのユダヤ人で社会主義者1940アメリカ国籍を取得)

作中でオッペンハイマーは「相対性理論は古い」と語った

(そのわりにはアインシュタインに意見を求めている 笑)

 

ラスト、オッペンハイマーアインシュタインの会話のフラッシュバック

ふたりがストローズについて何も語っていなかったことがわかります

(単にインテリの興味のないことに無関心あるある)

 

1963年、オッペンハイマージョンソン大統領により

エンリコ・フェルミ賞を授与されたことにより、汚名挽回したそうです

 

それでも私がこの映画を見た限りでは、オッペンハイマー

戦争を終わらせた英雄とか、「赤狩り」の被害者というより

彼の人格そのもの問題、というか

ほとんどの登場人物に人格障害があるように思えました

 



【解説】映画.COMより

ダークナイト」「TENET テネット」などの大作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を下敷きに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く。
第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。
オッペンハイマー役はノーラン作品常連の俳優キリアン・マーフィ。妻キティをエミリー・ブラント原子力委員会議長のルイス・ストロースをロバート・ダウニー・Jr.が演じたほか、マット・デイモンラミ・マレック、フローレンス・ピュー、ケネス・ブラナーら豪華キャストが共演。撮影は「インターステラー」以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ、音楽は「TENET テネット」のルドウィグ・ゴランソン。第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で受賞を果たした。

2023年製作/180分/R15+/アメリ
原題:Oppenheimer
配給:ビターズ・エンド

 

せかいのおきく(2013)

惚れた女に言ってやれ ”せかいで一番お前が好きだ” ってな

 

毎日映画コンクール 日本映画大賞、脚本賞、録音賞

キネマ旬報ベスト・テン 1(日本映画作品賞)、脚本賞

高崎映画祭 最優秀作品2024年の映画賞を賑わせている本作

 

一緒に高崎映画祭に参加した徳さんがDVDを贈ってくれました

徳さん、ありがとうございます!

幕末の江戸

排泄物を買い取り下肥(しもごえ)買い

へ売ることを生業としている「汚穢屋」(おわいや)の青年と

 

武家育ちであるものの、安政の大獄」(だと思う)で

父が浪人になり、処刑され

自身も喉を切られ声を失った、貧しい長家暮らしの娘

きくとの恋模様

8編のショートストーリーに区切られているので

ひとつひとつのエピソードが短く見やすいですね

(一部カラーの意味は不明)

 

ただ、大人の肛門期というか (笑)

スカトロジーというか(笑)

便の描写にはかなりのこだわりを感じた一方

私的には、もう少し糞尿のシーンは控えめのほうがよかったです

おきく(黒木華)は寺子屋で子どもたちに読み書き教えている22歳

突然の雨で厠(公衆トイレ)の庇(ひさし)で雨宿りをすると

そこには 下肥買いの矢亮(池松壮亮)と

紙屑拾い中次寛一郎)がいて

おきくは中次に一目惚れしてしまいます(笑)

 

私は恋愛で、一目惚れほど強力なものはないと思っています

いわゆる「あばたもえくぼ」

その人のどんな欠点でさえ愛おしいと思ってしまう

中次は「紙屑など売っても割に合わんだろう」と矢亮に誘われ

矢亮の相棒となって糞尿を買取り、江戸川の水路と荷車を使って

郊外の農家(地主)に収めにいくようになります

 

安政5年秋のある日、長雨が続き

おきくの住む長屋の厠(ここも公衆トイレ)から

便があふれ出し悪臭が立ち込めます

そこに大家に頼まれた矢亮と中次が片づけに来ると

思わず「私のはありません!」と叫んでしまうおきく(笑)

おきくの父、源兵衛(佐藤浩市)は、そんなおきくの気持ちを察してか

中次に「“せかい”という言葉を知っているか?」

空は果てしなく、彼方には知らない事がたくさんあるのだと

もし好きな女ができたら「せかいで一番好きだ」と言えばいいと教えます

 

でも教養もない、読み書きもできない中次は

源兵衛の言っている意味がわかりませんでした

そこに3人の侍が現れ、源兵衛は彼らについていきます

おきくに父親を知らないかと訪ねられると

侍と一緒に東へ向かったと答える中次

おきくは家の戸棚から懐刀を持ち出し父親を追いかけま

 

ぽかんとしている中次に

桶屋の孫七石橋蓮司)はなぜおきくを止めなかった

「庶民には“武家のしきたり”なんぞわからんからな」と嘆きます

そして竹林で背中を斬られて倒れている源兵衛と

少し離れ、ゼイゼイと息が漏る首の傷口を押さえているおきく

 

おきくは命を取り留めたものの、声を失ってしまい

父親を亡くした悲しみから床に伏せてしまいます

(長屋の女たちが食べ物を届けている)

半年が過ぎ、おきくのもとに

お寺の和尚(眞木蔵人)が寺子屋の子どもたちとやってきて

和尚は扉越しに「おきくさんには役割がある」

「役割は 役を割ると書く」 (これは名言)

「読むことはできなくても 書くことはできる」

「できないことは できる者がすればいい」 と声をかけます



「師匠」「お顔が見たいです」という子どもたちに

おきくは布団から出ると、ついに扉を開け笑顔を見せます

中次が紙問屋から頼まれた紙の束(半紙)を届けに来ると

おきくはさらに元気を取り戻します(笑)

半紙に「ちゅうじ」と書き、ひとり恥じらい畳に転がって照れてしまう

 

中次も矢亮も「臭い、臭い」と皆から蔑まれているけれど

厠の汲み取り業がなかったら、便所は溢れ町の人々は困る

肥料が手に入らず、農家も困る

おきくはふたりが重要な仕事をしているとわかってるんですね

だから矢亮が武家屋敷の門番から買取料を吊り上げられたうえ殴られ

便を浴びせられた姿を見ても、手ぬぐいを差し出す

矢亮から「そばにいられると迷惑だ」と断られても

身振り手振りで必死に、違うと

そんなことはないと訴えるのです

 

さらにおきくは味噌おむすびを握り

便と味噌をかけたユーモアなのでしょうか 苦笑

中次に差し入れすることにします

しかし途中で大八車(大型のリヤカー)とぶつかり転んでしまい

おむすびを轢き潰されてしまいま

それでもめげず(笑)中次の住んでいる長屋に向かう

雪がちらつく寒空の下、中次を待つおきく

やっと帰ってきた中次に、何が起こったか伝え(可愛い)

ぺしゃんこになったおにぎりを見せます

 

中次はおきくのほっぺについていた米粒を見つけると取って食べ

自分も身振り手振りで気持ちを伝えることにします

空を仰ぎ腕を回し、地面を繰り返し叩く

おきくさんが、せかいで一番好きなんだと

寛一郎さん、演技下手だなあ 笑)

そうして潰れたおにぎりを貪り

「おきくさんは武家の人で、おらはこんな身分だ

だけど、いつか読み書きを教えてほしい」と頼むのです

(喋れないおきくのために、読み書きを覚えたい)

おきくは何度も大きく頷くと中次を抱きしめるのでした

 

といっても、中次が長屋に住んでいることから

(孫七も中次を「庶民」と呼んでいた)

汲み取り屋が世間から差別され馬鹿にされていたとしても

「えたひにん」とは違うのでしょう

実際、昭和40年代まで人間の糞尿は堆肥として使われ

東京にも肥溜めが残っていたそうです

公的なインフラとして稼げる商売だったのかも知れません

 

やがておきくが教える寺子屋に、中次の姿

この日、おきくが選んだお題は「せかい」という文字でした

和尚の「東に行けば、いつしか西から出てくる」という説明に

子どもたちは「???」(笑)

そして毎早朝、父親の習慣を見習い四方に手を叩くおきく

でも彼女が耳を澄ませているのはいつも、中次の足音でした

 

ラストの3人での散歩は蛇足でしたね(笑)

どうしてもこのシーンが必要があるのであれば

ここは魚眼レンズではなく

3人を捉えたカメラが左から右へゆっくり消えていき、やがて左から現れる

和尚の言う「せかい」を表現したほうが、もっと素敵になった気がします

 

 

【解説】映画.COMより

北のカナリアたち」「冬薔薇(ふゆそうび)」などの阪本順治監督が、黒木華を主演に迎えて送る青春時代劇。
江戸時代末期、厳しい現実にくじけそうになりながらも心を通わせることを諦めない若者たちの姿を、墨絵のように美しいモノクロ映像で描き出す。武家育ちである22歳のおきくは、現在は寺子屋で子どもたちに読み書きを教えながら、父と2人で貧乏長屋に暮らしていた。ある雨の日、彼女は厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次と下肥買いの矢亮と出会う。つらい人生を懸命に生きる3人は次第に心を通わせていくが、おきくはある悲惨な事件に巻き込まれ、喉を切られて声を失ってしまう。
中次を寛一郎、矢亮を池松壮亮が演じ、佐藤浩市、眞木蔵人、石橋蓮司が共演。

2023年製作/89分/G/日本
配給:東京テアトル、U-NEXT、リトルモア